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鎌倉殿の13人:わしの孫は死亡フラグ?

 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の反応が、おもしろい。
 筆者の楽しみ方は、視聴者の「健忘症」を、Twitterで垣間見ること。
 
曽我兄弟の仇討ちの回。曽我兄弟の本願は、源頼朝暗殺だという筋書きだったのだが、源頼朝のセリフによって、「工藤祐経暗殺」という形で決裁されて、それが後世に至るまで語られるということになった。
 
『鎌倉殿の13人』の工藤は、ザコキャラクターだと筆者は思う。都生まれだという出生地を鼻にかけるが、源義高(木曽義仲の子)が殺害される回では、鎌倉では登用されておらず、源義高を殺害した「功労者」が処刑されるシーンでは、北条義時に、鎌倉を去ることを勧められる。その回では、源義高の命を救おうと視聴者がキャストもスタッフも視聴者も心を一つにしているのに、若い命を救おうとする和田義盛と畠山重忠が連続して画面に登場する演出には、筆者は笑っていた。お前ら、「鎌倉」に殺されるのだと思うと、昨日の敵の木曽義仲から人質にとった「源義高」という弱冠の命を救おうと尽力するのはコメディーだと思って爆笑してしまった。
 
みんな、「鎌倉」に、殺される。
 
若いから。イケメンだから。権力者の娘の許婚者だから。
 
こうした理由は、筆者(従業員なしの個人事業主、非婚のおっさん)の前には、「助命」の大義にはならない。もう、誰にも止められないのだよ。そういうオッサン視聴者の筆者が泣いたのは、子役である大姫の、刀を自らに向ける演技。
 
全部大泉のせい。名優・大泉洋といえども、しょせんは、「源頼朝」。
政子。小池栄子さんといえば筆者(1980年3月生)と学年は違えど、1980生という点で同年生まれ。娘(大姫)に、夫(源頼朝)の前で芝居をしこむことができるという立場にある、という認識で、『鎌倉殿の13人』の世界は構成されている。「大泉洋」「小池栄子」「源頼朝」「(北条)政子」にまつわる、さまざまな文脈を踏まえて、大姫が自らに刃をむけるというシーンに涙を流した筆者である。
 
この時の、工藤祐経。
 
子どもに石を投げられて、子どもに本気で立ち向かっていたような情けない人物だった。この情けなさを自らに重ねていた視聴者は、たぶん、筆者くらいだと思う。俺様スゴイぜ、と普通の視聴者ならば、自らを道化役(工藤)に重ね合わせることもないだろうし、『曽我物語』の筋書きを知っている人は、意外と少ないようだ。かくいう筆者も、古文の文学史の大学受験用の教材で断片的に(「国語」で出題されるのか「日本史」で出題されるのか考えないままに)知っていたにすぎない。
 
視聴者の眼中にないザコキャラの工藤祐経だったが、実は、第1話で登場している。「河津祐泰」が、キーパーソンである。意外なことに、Wikipediaで「河津祐泰」の項目で調べても、出演作品が記載されていない(2022年8月30日アクセス)。河津は討たれ、伊東のじさまは生き残った。
 
そもそも、伊東のじさまは、結構やらかしている。
 
伊東祐親にまつわる歴史的考察をするリテラシーを筆者は持ち合わせていないが、『鎌倉殿の13人』では、(戦後処理で)源頼朝の息子を殺害した伊東のじさまの助命へと視聴者の心が傾くのに、筆者はついていけなかった。いや、ついていけたのだが、ムリだと思っていたのである。それを補完したのが、大泉洋さんへのインタビュー記事にあった小栗旬さんのエピソードである(リンクをはらないのは、拙noteがネットの片隅に放置されて時を経た後に、ネット上ではリンク先の記事が削除されると想定しているからだ)。
 
コロナ禍中のロケで小栗旬さんがマスクに「爺様!」「全部大泉のせい」「パンありがとう」と書いて、名優・大泉洋(源頼朝役)に演技で対峙していたという舞台裏記事を楽しんでいたということを、市井の視聴者ならば2023年2月1日には忘れていると思う(2022-2023年末年始には総集編の記憶が残っているだろうが)。
 
「忘れる」。
 
「忘れる」ことができるから、『鎌倉殿の13人』の1話1話を楽しむことができるのだろうと思う。曽我兄弟の敵討ちの回での工藤祐経といえば、鎌倉と京を渡り合える「大物」になっていた。「『源頼朝暗殺』という『あってはならないおそるべき陰謀』を抹殺するために不可欠なキャスティング」だったのだから。北条義時も政子も視聴者も一丸となって「源義高助命」を願って、その企てに追捕者の和田も畠山も心をあわせていた渦中で、どうにでもなるザコだったことを覚えておられていては、『鎌倉殿の13人』のヵミタニさんの脚本に支障をきたしてしまう。
 
伊東のじさま。
 
次は、「わしの孫」というセリフを連発している、北条時政である。
 
本稿執筆時点(2022年8月30日)で、たとえば、孫の一人の源頼家は殺害されているが、「大切なもの」の筆頭に「伊豆」とあげたのはいつのことだったかと思うのだが(放送回でいえば、「最近」であるのだが)、武蔵に野心を向けている。息子たち・娘たちを守ると北条義時の前で覚悟をもって伝えたのに、武蔵の最有力者・比企能員が舞台を去って権力の空白が生じているという話はさておき、娘を悲しませるようなことが果たしてできるのだろうか(棒)。
 
「鎌倉」は、おそろしい。
 
 だからこそ、『鎌倉殿の13人』は、おもしろい。
 
 
2022年8月31日午前11時30分公開
(2022年8月30日23時頃投稿予約)
 
拙著↓
 
神谷英邦『大阪府警ソトゴト(ロシア担当):町田のヒューミント 』(Kindle)
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