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『アイスコーヒー』

カラン。
アイスコーヒーの氷がなる。
ストローでかき混ぜる。
カラン、コロン。
音色を奏でる。
夏が来る。セミの鳴き声がする。
あつい、あつい、夏が訪れる。
君を思い出す。
カラン。コロン。
祭りだとか、虫の声だとか、そんなものにかき消される声たちは、誰かに届くことなく、胡散する。
吸った息も、吐いた息も、夏の音に紛れて消えてゆく。
カラン。コロン。
アイスコーヒーの氷が鳴る。
飲み込む。
ガラン。
中身のなくなったガラス瓶には、ただ溶けてく氷が音もなく水になる。色のない、水に。
それはまるで、僕たちのように。
色の失った、僕たちのガラス瓶。
満たされることの無いガラス瓶。透明な水。硬い氷。
いずれ蒸発してかわいてゆく。
注がれることの無くなったガラス瓶には何も残らない。残るのは器のみ。
カラン。
どこかで音が鳴る。
コロン。
どこかで呟いている。
ガラン。
どこかで泣いている。
カラン。コロン。
ストローでかき混ぜる。
ガラン。
セミの鳴き声がする。
カラン。コロン。ガラン。
心が鳴る。
アイスコーヒーを飲む。
今日も。

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