マイナンバーの法律~今こそ、もう一度、確認してみよう~
マイナポイントの申込期限がこの9月末に訪れます。イロイロとありつつ長らく続いていたマイナポイントキャンペーンが遂に最終終了の運びとなりました。そこで、このタイミングで、今一度、そもそもマイナンバー制度はどのように法的に成り立っているのかをザックリと確認したいと思い、あらためて条文や界隈の情報をナナメ読みしてみたので、以下にメモしておきます。
1."マイナンバー法"とは
まず、いわゆる"マイナンバー法"の法律としての正確な名称は「行政手続きにおける特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」になります!
・・・、
今でこそ、スマホあたりで"マイナンバー法"と検索すれば、パッと出てくるので、それほどの価値や感動を産み出すことはありませんが、こういうのをイコールで暗記したりノートに書き留めて忘備していた時代・世代からすると無理感が漂う名称ではあります。。。とりあえず、本記事では以降、簡単な"マイナンバー法"の呼称で統一します。。。
なお、現代においては、日本のあらゆる法令について、条文全てをスマホあたりでも瞬時に確認することもできます。今回、わたしはこのサイト(e-Gov法令検索)を活用して本記事を作成しています。よかったら、以下のリンクからご参照ください。
2.成り立ちと変遷
この"マイナンバー法"は平成25(2013)年5月31日に日本の法の1つとして制定(公布)され、今年でちょうど10歳(?)になりました。ただし、そのときの内容の運用開始日(施行日)については、条文ごとくらいにバラバラで複雑な感じなので、ここでは割愛します(全ては把握していないということです、、、)。運用開始(施行)がバラバラになる理由は、ザックリと言うと、関係する法律が多いので、それらの法律との調整や、関連する法律同士の事情・調整、などに時間や手間が掛かるためのようです。この辺は条文の最後についている"付則"という改訂履歴のようなものをパラパラとめくってみるだけでも察することができます。。。
このため、その変遷(法の更新履歴)を詳細に列挙していくのは困難(≒したくない、、、)ですが、平成27(2015)年10月から、住民票を有する方へのマイナンバーの通知が始まったので、それまでに各々へ"マイナンバー"(12桁の数字)が振られ終えていたことになります。
その翌年の平成28(2016)年1月から、いわゆる"マイナンバー制度"の運用(施行)が開始され、ここから"マイナンバーカード"の交付自体は始まっています。
その後、平成29(2017)11月に運用が開始された"マイナポータル"により、自己の情報について確認・管理が可能となり、紆余曲折を経て(ちょうどいい端折り文句を見つけたから使ってみた!)、徐々に法で定められた範囲内で行政サービスへの適用が拡大しています。
そして、これを書いている時点(令和5年8月)においては、施行日が令和5年6月9日のバージョン(??)が運用・適用されている、ということになります。
3.ザックリ内容確認
では、現行の"マイナンバー法"について、大まかにその内容を以下に示してみます。
(1)目的
通常、日本の法はその第1条において、当該法を制定する目的、趣旨を表明します。以下に"マイナンバー法"の第1条(目的)を5W1Hの形で(無理やり)まとめてみました。
【Who】
→『行政機関、地方公共団体その他の行政処理をする者』
【When+Where】
→『個人番号及び法人番号の有する特定の個人及び法人その他の団体を識別する機能を活用』するとき、『当該機能によって異なる分野に属する情報を照合してこれらが同一の者に係るものであるかどうかを確認することができるものとして整備された情報システムを運用』するとき
【What】
→『効率的な情報の管理及び利用並びに他の行政事務を処理する者との間における迅速な情報の授受を行うこと』、『個人番号その他の特定個人情報の取扱いが安全かつ適正に行われる』こと
【Why】
→『行政運営の効率化及び行政分野におけるより公正な給付と負担の確保を図』るため、かつ、『これらの者に対して申請、届出その他の手続きを行い、又はこれらの者から便益の提供を受ける国民が、手続きの簡素化による負担の軽減、本人確認の簡易な手段その他の利便性の向上を得られるようにする』ため
【How】
→『必要な事項を定める』、『個人情報の保護に関する法律の特例を定める』
あまり上手くまとまりませんでしたが、上記より、"マイナンバー法"の対象は"住民"や"国民"ではなく、"行政処理をする者"であることがわかります。
また、"マイナンバー法"が個人情報の保護に関する法律(以下、"個人情報保護法"という)の特別法であることがわかります。このため、マイナンバー制度に係る個人情報保護に関する事項には、この"マイナンバー法"が、"個人情報保護法"に優先して適用されることになります。
(2)構成
現行の"マイナンバー法"は第1条から第57条まであり、それらが章と節でまとめられた形になっています。具体的には以下の通りです。
お気づきいただけたでしょうか?
そうです、"マイナンバー法"には罰則があります。
"個人情報保護法"にも罰則がありますが、特別法である"マイナンバー法"の罰則は、それよりも厳しく規定されています。
このため、"マイナンバー制度"に関する個人情報の漏洩、不適切な使用、などの法律違反は、"マイナンバー法"に規定された厳しい罰則により刑事的に裁かれることになるのです。
(3)直近の改正について
ちなみに現行の"マイナンバー法"は、つい最近(施行日:令和5年6月9日)、改正され、適用・運用が開始されたものです。そこで、この改正におけるポイントである以下の6点について確認しておきます。
1.マイナンバーの利用範囲の拡大
これまでは実質的には、社会保障制度、税制および災害対策の3分野のみが、マイナンバーの利用範囲とされていましたが、今回の法改正(条文の変更)により、この3分野以外の"その他の行政分野"においても"マイナンバーの利用の促進を図る"ことになりました。
ちなみに現時点で、その他の行政分野として具体的に以下の行政事務が挙げられており、既に施行(適用・運用開始)されている、もしくは今後されていくことになります。
・理容師・美容師、小型船舶操縦士及び建築士等の免許に関する事務
・自動車の変更登録に関する事務
・外国人の在留資格に係る許可等に関する事務
2.マイナンバーの利用及び情報連携に係る規定の見直し
法で定められた利用範囲の行政事務に準ずる行政事務(事務の性質が同一であるものに限る)を"準法定事務"として、"主務省令"にて規定できるようになりました。あわせて、特定個人情報の提供について、行政機関等の間での情報連携に関しても"主務省令"にて規定できるようになりました。
これはザックリ言わせてもらうと、『マイナンバーの利用範囲やマイナンバーに紐づけられた情報を取り扱う行政機関同士での情報のやり取りに関する縛りについて、"マイナンバー法"の外側で("マイナンバー法"を改正することなく)、拡大縮小させることが可能になった』ということです。
個人的な経験において、いったん定めた厳格なルールを外から楽に、簡単にいじれるようにしたり、運用で云々などとしてしまうと、際限なく緩んでいき、最終的にはせっかくの厳格なルール自体が形骸化してしまうことが多かったので、余りお奨めのやり方ではないのですが、せめて"主務省令"の厳格な形成、運用を望むところではあります。
3.マイナンバーカードと健康保険証の一体化
皆様よくご存じのアレですね、、、。いまさら、ここでザックリさせるまでもないくらい巷に情報が豊富にあるので、ザックリザックリ割愛しちゃいます。。。
4.マイナンバーカードの普及・利用促進
海外転出者においては、在外公館(外国にある日本大使館など)でマイナンバーカードの交付・更新・受取などの手続きが可能になり、それら手続きのために一時帰国をする必要がなくなるようです。また、(市町村から指定された)郵便局でもマイナンバーカードの申請・交付などの手続きができるようになりました。
5.戸籍等の記載事項への「氏名の振り仮名」の追加
これは必ずしも"マイナンバー法"が主導の改正とは言えませんが、戸籍(戸籍法)や住民票(住民台帳基本法)などと併せて、マイナンバーカード("マイナンバー法")での記載事項等においても、「氏名の振り仮名」が追加されました。
まあ、昨今の名前界隈の各種話題を鑑みるに、理由・事情はイロイロあるのでしょうね。。。
6.公金受取口座の登録促進(行政機関等経由登録の特例制度の創設)
年金受給者など(既に公金の給付を受ける口座があり、実際に給付を受けている方)を対象として、デジタルに不慣れな方でも、簡易に公金受取口座の登録が可能となるよう、書留郵便等による通知に対して同意した場合のみに限らず、一定期間内に回答がなく同意したものとして取り扱われる場合にも、"内閣総理大臣"の権限にて、公金受取口座として登録が可能になります。
一見、強制的に口座が登録されるように感じられ、ショッキングに思えますが、登録できるのは公金の給付を受けるために該当する行政機関等に登録済み(既に給付を受けている)の口座のみで、新たに口座情報を提出する必要はありません。なお、ここで取り扱われる口座情報には残高や取引履歴などは含まれません。また、登録した口座は"給付"にのみ使用され、"徴収"には用いられません。更に、事前・事後の本人への確認や当該制度の広報的な周知徹底を行うこと、などにより厳格に運用されるようにはなっているようです。
年金など行政機関からの給付を実際に受けている場合において、せっかく、行政機関と本人(および権限のある代理人や家族)しか知らない口座情報について、権限のないワルい人が介在してしまい、イケナいことが起こる可能性を考えると、このような(パッと見)強制なヤリかたは、(特にデジタルアレルギーともいえるような高齢者の方に対しては)個人的にはアリだと思っています。ただし、仕組みと運用は厳格でなければならないとも思います。
ちなみに、令和5年6月9日交付の一部改正法に関しては、以下のURL内にある文献(「マイナンバー法等改正案の概要と主な国会論議ー利用範囲の拡大、マイナンバーカードと健康保険証の一体化ー」、PDFファイルあり)に詳しく、私も本記事において多分に参考させていただきました。よかったらご参照してみてください。
4.所感
(1)健康保険証との一体化について
国民・住民の全体という莫大な数の対象を有する行政が管理・運営する制度のうち、まず税制については、ほぼ徴収に特化されているせいもあるのか、古今に渡り、それほど制度の綻びが露呈したことがないような気がします。なんとなく、何事においても取りっぱぐれるのだけは嫌でしょうからね。。。
国民年金については、少し前にひと騒動あったので、ある程度、膿を取り除いた状態で、マイナンバーカードと連携することになったのでしょうか。連携に際して、それほどの騒動・混乱は生じなかったような気がします。
一方、健康保険制度とその運用に関しては、これまでにそれほどの大騒ぎもなく、膿を溜めきったまま連携することになってしまったのか、この度のマイナンバーカードとの一体化において、大変な騒ぎになってしまいました。傍から見ていると、健康保険制度そのものの内に秘めていた負のポテンシャルをマイナンバーカードとの連携が開花させてしまったのではないかと感じてしまいます。なんとなく、総点検するべきは、従来の健康保険制度において蓄積・維持していた個人情報について、整理整頓と最新情報への更新の作業ではないか、とも思えます。
(2)利用範囲の広がり~ネガティブリストかポジティブリストか?~
今後、運転免許証との連携など、マイナンバーの利用範囲(行政分野)は更に広がっていきます。ここで、それらの利用範囲(行政分野)は、現行の"マイナンバー法"においては、ポジティブリスト(OKのものを列挙した一覧表)により特定されており、ネガティブリスト(NGのものを列挙し、それ以外はOKとする一覧表)にはなっていません。それぞれ一長一短あると思いますが、ことマイナンバーの利用範囲(行政分野)に関しては、ポジティブリストのほうが個人的には望ましく思えます。
そう思うのは、法を改正するのに必要な推進力の発動と大きさに起因します。新たに範囲を拡大(ポジティブリストへの項目の追加)したいときは、大体の場合において必要に迫られているからであり、法を改正するのに必要な推進力を得ることは容易と考えます。一方、範囲を狭めるため(ネガティブリストへの項目の追加)の法改正は、発生してしまったトラブル或いは発生する可能性のあるトラブルを防止するためであることが多く、何らかのトラブルが現実化・可視化されないと推進力を得ることが難しいように思えます。世間を騒がす大事件が起きて、莫大な被害が出てから、やっと法改正がなされるイメージで、どうしても対応が後手に回ってしまう印象がぬぐえません。
とはいえ、先に述べた通りポジティブリストとネガティブリストには一長一短ありますので、今後の事情・状況によっては、どちらが望ましいかも変わってくる可能性があるとも考えています。
以上、あらてめて"マイナンバー法"に注目してみると、"マイナンバー制度"は、まだまだ道半ば、どころか始まったばかり、或いはこれからが真の始まり、という印象になりました。マイナンバーカードの交付・普及がある程度進み、税制・年金・健康保険というビッグな利用範囲との連携の目途がついてきて、"マイナンバー制度"のメリットが本格的に可視化されるのは、これからです。関わっている方々は、とても大変でしょうが、粘り強く取り組んで頂きたいと思います。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
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