「今まで通り」での数字達成に限界を感じている営業マネージャーへ(後編)営業のデジタル化と分業のすすめ

こんにちは、水嶋玲以仁(みずしま れいに)です。

前回の記事では、今多くの営業現場が抱えている課題として「恒常的な人手不足」「限られたリソースで案件対応と並行しつつ新規開拓を進める難しさ」「COVID-19などの影響を受けた顧客接点の変化」等について書きました。

今回はそうした課題を乗り越え、効率的に営業のカバレッジを増やしもっと楽に目標数字を達成するための方法論として「営業のデジタルシフト」、特に「分業」と「デジタルマーケティングの強化」「インサイドセールスの活用」について触れていきたいと思います。

※本記事は、営業マネジメントに課題を持つ中堅~大企業の営業マネージャーの方を想定読者として執筆しております。

既にいわゆる「The Model」等の考え方をベースに営業・マーケティングプロセスを設計している方にとっては既知の内容も多く含むと思われます。

それども営業活動やマーケティング等に関わる全ての方々にお役立ていただける内容を含んでいるかと思いますので、是非ご一読いただけると幸いです。

営業は「分業」と「デジタルマーケティングの強化」「インサイドセールスの活用」でもっと効果が出せる

営業プロセスの分業」とは、顧客との接点がない状態から売上が上がるに至るまでの一連の営業プロセスを段階ごとに主体を分ける考え方です。

これまでは多くの営業組織が対顧客に一人もしくは複数の営業マンを紐づけて、案件の新規開拓から提案活動~契約交渉までを一貫して営業マンが実施するというやり方が主流でした。一方、分業体制の場合は基本的に「コンタクトの開拓」「新規案件の発掘」「案件醸成」「提案~受注」といったフェーズに応じて対応する主体を分けます。

その際に、安定的に質の良い案件が創出されるようにするための手段が「デジタルマーケの強化」「インサイドセールスの活用」です。その活用方法について、具体的にお伝えします。

デジタルマーケティングの強化は「見込み顧客を効果的に集める仕掛け漁業」である

デジタルマーケティングの定義は様々ですが、ここでは敢えて細かな定義論を置いておき「インターネットを通じた顧客との接点強化」を広く差す言葉としてイメージしていただけると良いかと思います。

Webサイトや各種SNSの運用、または各種Webメディア媒体での露出、検索エンジンにおけるSEO対策、リスティング広告などが代表的です。またここ1,2年でかなり一般的になったオンラインイベントの配信(ウェビナー)もデジタルマーケティングの一つです。

ここでは細かな手法論は掘り下げませんが、重要なのは営業のデジタル化を推し進め生産性の高い営業活動をするためには、デジタルマーケティングをセットで考えるべき(ケースが多い)ということです。

多くの情報収集が「インターネット検索」または「ソーシャルメディアの閲覧」から始まるこのご時世(一方的なアウトバウンド営業を除き)顧客が最初に製品やサービスの情報に触れるのが営業担当との会話、ということは少なくなっているでしょう。

事前にウェブサイトでサービスの概要を調べたり、関連する情報を検索してブログメディアや比較サイト等を見ていたり、関連するセミナーに参加しているケースが多いのではないでしょうか。

そういった商談に至る以前の顧客との接点を設計し、必要な情報を届け、顧客の購買意欲を少しずつ育てていくことがデジタルマーケティングの重要な目的となります。

そう考えると、デジタルマーケティングはいわゆる「マーケッター」のみの仕事ではなく、営業活動と密接に繋がっており、営業担当者やマネージャーも積極的に関わることで質を高められる営みとも言えます。

具体的には、下記のような論点を(マーケティング担当者がいるのであれば協力して)考えていけると良いでしょう。

・Webサイトに掲載されている内容が、顧客の抱える課題やニーズに合っているものか(合った内容を出せそうか)
・既に連絡先情報を持っている見込み顧客(リード)に対し、メール等で顧客課題に合った情報、ないしはサービス購買意欲を向上させるための情報を提供出来ているか
・顧客の課題に対応するセミナーやブログコンテンツ、ホワイトペーパー等が作れないか
・広告を出稿している場合、そのメッセージが顧客のニーズに合っているか
・失注してしまった顧客には、どのようなメールコミュニケーションを取るのが良さそうか 等

これらは取り掛かってみると意外と難しく、手間に感じることもあるでしょう。しかし一度良いWebサイトやメール、セミナー等のコンテンツができると、インターネットを通じて、いちいち人の手を介さずに多くの人に届けられるようになります。

製品・サービスと関連のある情報を積極的に発信することで、それに関心を持つ人(≒見込み顧客になり得る人)が主体的に情報にたどり着くような道筋を作る。そして一度接点を確保した後は、継続的なアプローチを通じて検討前の顧客と関係性をゆっくり育てていく。

そのようにデジタルマーケティングを活用すれば、これまで「かかる労力のわりに実入りが少ない」という事態に陥りがちだった新規顧客の開拓という営業の重要なプロセスを、ずっと効率的に行うことが可能になります

営業担当の方も、デジタルマーケティングを自分の仕事と関係のない領域と決めつけず、一連の営業プロセスの一部と捉え、考えるようにすることをお勧めします。

※デジタルマーケティングの詳細な取り組みについては、ニーズがあれば別途記事でまとめようと考えています。

インサイドセールスは「コンタクト開拓・案件創出のプロフェッショナル部隊」である

一方でデジタルマーケティングの強化だけでは、見込顧客は増やせても、向こうからのアクション待ちになりがちな課題があります。問い合わせは無いが、話してみると「実は~というテーマで検討していて…」という状況が判明することもよくあります。

具体的な案件になるほど、顧客が求めるのは広く一般に当てはまる情報ではなく、個別具体の状況に応じた詳細な情報になっていくので、デジタルマーケティングで対応しきれなくなることもあります。

また、デジタルマーケティングが上手くいっていれば、必然的に問い合わせも増えるため、(緊急度が低いものから高いものまで)それら全てに営業で対応するのも限界があります。

そんなマーケティングと営業の間に生まれがちな溝を埋めるのが「インサイドセールス」の役割です。

「インサイドセールス」という言葉は近年日本でも有名になっており説明不要にも思いますが、そもそもは国土が広いアメリカで生まれたセールス手法で、テレコールやメールを中心としたコミュニケーションで営業活動を行う人たちを指します。

デジタルマーケティングよりも個人個人に最適化された見込顧客とのコミュニケーションを担い、訪問主体ではなくコールやメール等、移動時間がかからないコミュニケーション手法を駆使することで営業活動を効率化し、いわゆる従来の訪問型営業より多くの顧客をカバーすることができます。(従来の訪問型営業についてはインサイドセールスとの対比で「フィールドセールス」と呼ばれます)

インサイドセールスの基本的な役割は、例えば資料のダウンロードやウェビナーの視聴といったマーケティング施策で得たリード(見込み顧客)をコールやメールといった手段でフォローし、見込みの高い案件を作ってフィールドセールスに引き渡すことです。(場合によっては、クロージングまですべてインサイドセールスが担当することもあり得ます。)

顧客のカバレッジを高めることにも適しており、例えば営業が工数の問題などで手をつけられていないターゲット企業に代表突破からコンタクトを獲得する、顧客企業で普段接点のない部門の新規開拓をする、等もインサイドセールスの主な役割です。

インサイドセールスはよくテレマーケティングと混合されますが、あくまで「営業」であり、顧客との関係性を「育てる」ことをフィールドセールスに代わって担うと考えてください。テレマーケティングでは多くの場合、決まった製品やサービスの紹介を目的に、単発のアクションとして顧客にアプローチします。一方インサイドセールスはコール相手の立場や課題の理解からはじめ、継続的な情報提供と提案活動を通じ、顕在化したニーズだけでなく潜在的なニーズからも案件を掘り起こすことを目指します。

インサイドセールスにはどうしてもテレマ的なイメージが先行するので、比較的低価格の単一商材販売での活用をイメージされる方が多いのですが、単発のアクションで終わってしまっている場合、それはインサイドセールスを十分に活用できているとは言えません

最初の接点はある製品を紹介するウェビナーのフォローコールなどであったとしても、必ずしもその販売にこだわらず、そこで得た顧客の立場や課題といった情報をもとに、より最適化された情報をメールで提供する、同様のテーマでのセミナーがあった場合にはご案内を差し上げるという風に、継続的に顧客とのタッチポイントを作り続け、顧客の本質的な課題と自社が提供できる価値とを徐々にすり合わせ、提案機会につなげていくイメージです。

「ウチの商材は複雑だし顧客ごとのカスタマイズが必要だから…」「ウチの部署が担当する取引先は超大手の重要企業で企業理解が必要だし人物相関も複雑だから…」インサイドセールスには難しい、といった声はよく聞かれますが、実は十分そうした営業組織でもインサイドセールスの活用は可能です。

マーケティング/インサイドセールス/フィールドセールスの分業の仕方には実はいくつかのパターンがあり(ABM型、テリトリー型、カバレッジ型)、超大手企業向けや複雑な商材を扱う上で最適な役割分担、不特定多数の企業がターゲットになるような単一商材を扱う上での最適な役割分担などがありますので、それらについては、また改めてご説明したいと思います。

分業のパターンについては、こちらの記事もご参考ください。
営業デジタルシフト推進に最適な営業モデルとは?
著書の「実践・営業デジタルシフト」でも詳しく記載しておりますので、ご興味がある方はぜひご一読ください。

分業の効果は「営業マンの手間を減らす」だけではない

以上、デジタルマーケティングの強化やインサイドセールスの導入によって案件創出をより広く効率的に実現でき、営業マンはフィールドセールスとして本当に見込の高い案件に集中する体制を作れることがイメージできたでしょうか。さらに言えば、営業プロセスの「分業」の効果は、営業マンの工数を減らすだけに留まりません。

一つは、高まり続ける専門性への対応です。例えばデジタルマーケティングでいえばSEO対策一つをとっても専門的な知識が求められます。またインサイドセールスも、営業の初期段階で求められる情報は比較的共通化しやすいので、それらを営業マンが個人個人で対応するより、インサイドセールスがノウハウを集約し共通のスクリプトや資料に落とし込むことで対応する回答のスピードと質の両方が担保されます。

また、案件マネジメントがしやすくなるというのも大きなメリットです。営業マン一人一人が顧客に相対して営業活動をする際のリスクはなんと言っても顧客情報/案件情報のブラックボックス化です。分業体制では関係者間で共通認識を持つために、案件のステータスを見える化できるように指標を設定する必要があります。明確な指標は、これまで営業の感覚とそれに基づく報告に頼りがちだった案件の見込み状況を客観的な指標で測るものとして機能する上に、担当者が見えていない案件のリスクを洗い出すことにもつながります。

また顧客に関する情報共有のための仕組みも必要になりますので、しっかり顧客とのコミュニケーション履歴が情報として蓄積されるのも、営業マン個人に属人的に情報が集約されがちだった従来の営業体制との大きな違いです。そうしたコミュニケーション履歴はデータとして蓄積されますから、営業活動自体のプロセスの評価に活用したり(訪問件数、きちんと相手の上位役職者とコミュニケーションをとれているか等)データを通じた仮説検証に用いたりすることが可能になるのも大きなメリットです。

これらのマネジメントの違い、SFAの活用などは、本記事では説明を割愛していますが、非常に重要な要素ですので改めて記事にしたいと思います。

営業活動の本質はそのままに、やり方をアップデートしよう

営業の効率化を進める上で大事なのは、これまでの「当たり前」を疑い、自分たちがやってきた営業のやり方をゼロから見直すくらいの気持ちで営業プロセスを再設計することです。

ただその一方で本質的に重要なことは全く変わらないと私は考えています。自分たちの製品やサービスが提供する価値が届く顧客が誰かを想定し、顧客の特性に応じたメッセージを発信し、先方の会社や担当者が抱える課題、社内の人間関係などの相関図を理解し、必要なキーマンを抑えていく…というゴールは一緒であり、デジタルマーケティングやインサイドセールスの設計および実行の上では、これまで通り顧客課題や相関を見極める勘所やコミュニケーションに優れた営業マンのスキルは必須といえます。

「営業のデジタルシフト」や「分業」といった言葉に対し、抵抗を感じる営業マンは少なくありませんが、機械的な営業活動をしろといっているわけでも、これまでの営業のスキルが無駄になるわけでも決してありません。「顧客理解」「顧客特性に合わせた営業活動」など、これまで鍛えてきたスキルはそのままに、より積極的な活動を増やす時間を作るためのアップデートだととらえ、デジタルマーケティングやインサイドセールスを前向きに活用してみていただければと思っています。

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営業のデジタル化について詳しく知りたい方は、是非これらの記事もご覧ください。

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