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「当事者ではないからこそ、セクシュアリティについても学んでいきたい」 - モデル・甲斐まりか インタビュー

世の中には色々な仕事に勤める人がいるけれど、モデルという職業は「誰かが理想とする人物像への期待を高める」存在なのではないか、と思ったことがある。雑誌、広告、テレビ、SNS…メディアのあり方が多様になった今、モデルの姿を目にしない日はない。華々しいイメージのあるモデルに憧れたことがある人も少なくないのでは。

今回お話を聞いたのは、モデルの甲斐まりかさん。Body Positive(ボディ・ポジティブ)のムーブメントが広がってきているものの、モデルという仕事には到達するべき"完成された美しさ"を伝えるイメージまだまだ強く、そのようなモデル像を覆すのは難しい。モデルは可愛い。モデルは綺麗だ。でも、本当にそれだけだろうか。目に見てとれる美しさの背景には、どんな時間や考え方が流れているのだろうか。誰かにとっての"理想的な美"を体現してきた彼女は、少しずつ発信するメッセージを変え始めている。

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甲斐まりか / Marika Kai
1995年生まれ、タイと日本のハーフ。ドイツの中学・高校を卒業後、イギリス エジンバラ大学へ進学。2017年に大学を卒業後、日本でモデル活動をスタートする。ビューティー・ファッション誌を中心にモデルとして活動し、近年では映画『コンフィデンスマンJP プリンセス編』への出演や、映画『sea you again』でヒロインを務めるなど俳優業でも活躍の場を広げる。これまでに40か国以上を旅し、ファッションや旅の写真を載せた自身のインスタグラムも人気。
Instagram:@mari_ka95

ホームから一転、"マイノリティ"に


- 子供時代はどんな風に育ったの?

Marika :小学校の6年間はタイに滞在してた。私はタイと日本のハーフだけど、タイは日本が大好きな人が多いから、生活の中でネガティブな気持ちになることはあまりなくて。クラスの中でもどちらかというと中心的なメンバーの一人みたいだったし、お母さんがタイ人だったので言語の不自由もなく。何もしなくても誰からも受け入れてもらえていた。タイは自分のホームだった。

だから、ドイツに引っ越すことが決まった時は怖くて泣いちゃって。通っていたのは、いろんな国から人が集まるインターナショナルスクール。とはいえ、やっぱりヨーロッパ人の方がアジア人よりも多い。私の周りは韓国、台湾、アメリカと様々な国籍の人が多かったけど、ドイツ人はドイツ人同士で固まるんだよね。急に自分がマイノリティになったことにびっくりしちゃって。お母さんも初めてヨーロッパに住むし、お父さんは仕事で不在。新しい場所とドイツ語に慣れなきゃいけなくて結構大変だった。でも、今はドイツに引っ越したのはよかったと思ってる。ヨーロッパってどこも近いから週末に1万円程度でいろんな国に行けるし、それぞれの国がユニークで、移民も含めていろんな人が集まる。私の旅好きが始まったのも、ヨーロッパに住み始めてから。

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- ヨーロッパに住んでから、どんな変化があったと思う?

Marika : ドイツに住み始めてから、早く自立したいって気持ちが強くなった。突然自分がマイノリティになった環境では「舐められたら終わり!」って思って、強くなろうとするじゃない?中学〜高校ってすごくセンシティブな年頃だから、何かで認められなきゃいけないって気持ちも強かったのかもしれない。当時住んでいたのはフランクフルトだったから、そこまでアジア人差別が強いわけではなかったけれど、自分を守るために頑張らなきゃっていつも思ってた。

- その頃に、支えになるものはあった?

Marika : やっぱり信頼できる友達かな。なかなか一人じゃ頑張れないから。友達ができてから「やっと居場所を見つけた」って感じだったな。友達もみんな、私と同じようにお父さんが転々としていて、今はたまたまフランクフルトにいるって感じ。それぞれバックグラウンドが違うから「あっ、こういう人もいるんだ」って、自分と違う人と一緒にいるのが当たり前になっていった。

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クィアは自然な存在だったけど、
「当たり前ではない」と気づかされた


- 最初にクィアの存在を意識したのはいつだった?

Marika : 中学生時代にタイで親戚と集まった時に、私のおばさんがレズビアンだったと初めて知った。気付いた時は少しびっくりしたけど、だからといって彼女に対する考え方や振る舞いが変わるわけではない。「確かに普通だよね」って感じだった。何も思わせなかった家族のみんなもすごいなと思う。

タイって9割以上が仏教徒なんだけど、教えの一つに「命があるものは全て平等」って考え方があって。そのおかげで、セクシュアルマイノリティに対しては比較的オープンな国なんじゃないかな。わかりやすい例をあげると、化粧品売り場ではクィアの人が店員として立っていて、普通にメイクをしてくれたりする。小さい時から、バッチリ化粧をした男性を見かけても違和感を覚えなかったけど、それはきっとタイ社会の彼らに対する受け止め方がすごくナチュラルだったからだと思う。

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- たしかに日本と比べると、タイの方が社会的に受け入れているのかも。それでも同性カップルの結婚やトランスジェンダーの戸籍上の性別変更が認められていなかったりと、法律的には守られていなくて、まだまだ課題は残っているよね。

Marika : そうだね。私にとってクィアは自然な存在だったけど、社会的な見られ方に触れた時に「誰にとっても当たり前なわけではない」と気付いた。クィアをテーマとして考え始めたのは大学に入ってからかな。高校生の時に仲が良かった女友達がレズビアンだったんだけど、そのことを知ったのも大学に入ってから。彼女は大学で自分のコミュニティを見つけて、隠さなくなったのかな。身近な人がオープンに自分のことを話してくれたから気づけたことがたくさんある。

- クィアのこともコンセプトとしては知ってたけれど、友達を通じてより身近に感じられるようになった?

Marika : なんていうんだろう。家族や友達を通してクィアを認識すると、近くにいないとわからないことの方がもっといっぱいあることに気づく。コンセプトだけじゃなくて、実際どういうことが問題で、社会的にはどう見られていて、自分にはないけれど他の人にはあるかもしれない考え方に気づくのって、そのコミュニティに自分の身を置いてるからだと思う。私は当事者ではないからこそ、彼らの近くにいて、自分自身が学んでいかないと自分のこととしては考えられないよね。

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私の「知りたい」が、
みんなの「知りたい」に繋がるように


- 「Ally(アライ)*」をどういう存在だと考えていますか?

*アライ=性的マイノリティの人達を理解し支援する人達のこと、またはその考え方を指す。

Marika : うーん…大きな質問だよね。すごく難しい(笑)

REINGのEdoとインスタライブをしたのが、初めて自分のインスタアカウントでセクシュアルマイノリティについて話をした時だった。その時、自分が思っている以上にみんなが興味を持ってくれて、びっくりしたんだよね。見てくれる人もすごく多かったし、みんながコメントや質問をずっとしてくれた。みんなの「知りたい」っていう需要を私からも作れるんだと思った時、初めて自分の中にこういうテーマに取り組む責任感が生まれた。

正直、アライがどういう存在かは答えが出ない。だけど、私は自分の顔と名前を出して表に立つ仕事をしていて、私の認知が広がれば、私に興味を持ってくれる人が増えるかもしれない。そして、私の考え方を知ってもらう中で、より多くの人がセクシュアルマイノリティというテーマに注目するような繋がりの部分を担えたらいいなと思ってる。

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- 世の中への発信を前提とするアライのあり方もあれば、そうでないあり方もある気がする。少しでもクィアの存在を当たり前にするために、日々できることってどんなことがあると思いますか?

Marika : 情報をシェアするためには、そのことについてよく知らないといけない。今に至るまでに過去にはこんな時代があったとか、今使われている表現が元々は違う意味だったとか、自分の知らないことや忘れていることって本当にたくさんある。私は映画が好きだから映画の情報が一番取り入れやすいけど、鑑賞後にネット、インタビュー、ドキュメンタリーなどを調べる中でいろんな情報の繋がりを勉強してる。今持ってる知識だけで「私はもう知ってる」と思わないで、常に勉強したり友達と色々話すのって大事。何に対してもオープンに、アップデートしていく姿勢を持ちたいよね。


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今、自身のマイノリティ性に悩んでいる人はどのくらいいるだろう。今、それに悩んでいる人がいると"知っている人"はどのくらいいるのだろう。私はマイノリティの「当事者」が自分の話をすることと同じくらい、「当事者」ではない人が発信することも大切なのではないかと思っている。

「ちょっと不安だったけど、始まったら喋れた。こんなに喋れると思ってなかった〜。」これは、インタビューを終えた後に彼女が発した一言。

表舞台に立つ人だからこそ、こういったテーマを話題にすることが誰かの背中を押すこともできる一方で、別の誰かからそっぽを向かれる怖さだって人一倍あるはず。"誰かのイメージ"を演じ上げるモデルという職業を勤める身で、今回のインタビューを受けてくれたマリカさんには感謝の気持ちでいっぱいだ。

まりかさんは歴史を学び、人の言葉を受け止め、自分にとっての当たり前を噛み砕きながら、自分の解釈を伝えようとしている。今は「当事者」が違いの象徴と見なされてしまうかもしれないが、彼女のように言葉を紡ぐ人が増えた時、マイノリティを取り巻く環境は変わるかもしれない。


Writer : Maki Kinoshita
Editer:Yuri Abo
Interviewer : Edo Oliver / Maki Kinoshita

Photographer:Yui Fujii
Hair and Makeup:Hiromi Tezuka
Stylist:Akane Koizumi

REINGでは、自分自身と向き合いながら「自分らしい選択」を紡ぎ続けている人たちのインタビューを実施。今はまだ「普通」とされていない選択をしている人たちや、フォーカスされていない関係性を紡ぐ人たちのお話を通して、形やあるものにとらわれずに、自分らしさを見つけるヒントをお届けしています。


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