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いもうとの記憶

いもうと

私の初めての記憶は、2歳の時の記憶。誰かの腕に抱かれていた。夕焼けか、朝焼けかは覚えていないけれども、部屋の窓から斜めに光が差し込んでいた。

入り口の台に、青い服を着たピーターラビットの置物が飾ってあった。
後から思い返すと、そこは産院の受付だったんだと思う。
妹を産むために、2歳の私を祖父母に預けてお母さんが一人で入院していた。


私は誰かに抱かれて、ウサギたちを上から見下ろしていた。私を抱いた人はしばらく受付の人と話していた。私もそのあいだ、長いことウサギたちとお話ししたもの。


次に覚えている光景は、病室だった。
引き戸を開けると、正面に窓があった。カーテンが開けられていて、部屋全体がほんわか黄色い光に包まれている。
入口のすぐそばにある小さな台には、真っ赤ないちごが置いてあった。誰かが持ってきたお見舞いだろうか。
とても美味しそうに、キラキラと輝いている。いちごは当時から私の大好物だったから、とても印象に残っている。

いちごに後ろ髪を引かれながら病室の奥へと進む。お母さんが大きなベッドの上にちょこんと座っていた。久しぶりに会えたお母さんは、大きなメガネをかけて、少し疲れた顔をしていた。でも私を見ると満面の笑みになって手を差し伸べてくれた。

そうだ、お母さんがいなくて私、寂しかったんだった。当時寂しいという感情を理解していたのかは思い出せないけれども、久しぶりにお母さんと会えて気持ちが明るくなったのをは覚えている。

そしてお母さんの隣には、小さな小さな箱があった。みんな大切そうにその箱をのぞいている。私にはその箱に入っているのがなんなのか、よくわからなかった。

「ほら、いもうとだよ」って、箱の中を見せてもらった。小さい人間がいた。でもそれだけ。
動かないし、しゃべらない。
何もしない存在。
でも周りの人はみんな、私じゃなくて、「いもうと」を見ている。

2歳の私は早くいちごが食べたかった。


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