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いのちを守る絵文字〜しぜんのかがくep.31 ぼうさい豆知識〜災害時の支援について〜

このピクトグラムは見たことありますか?「非常口」のマークですね。
扉の外に逃げる人のデザインです。ピクトグラム(pictogram)とは、文字の代わりに視覚的な図記号で表現する案内記号で、年齢国籍関係なく誰もが一目でわかるデザインです。このデザインは、1986年国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)で世界共通の規格となっています。実は愛知県生まれの太田幸夫さんというグラフィックデザイナーの方(日本人)がデザインしたんですよ。


この非常口のデザイン。実は最初からこのデザインだったのではなく、昔は以下のデザインでした。私は10年前、このデザインが残っているのをまだ見たことがあります。

2015.3 照明工業会報より

ピクトグラムの非常口マークは、1973年に熊本市で起きたホテル火災(大洋デパート火災、死者104名)がきっかけで生まれました。

当時の非常口誘導灯はサイズが小さく、表示も漢字だったため、煙や炎の中で確認できず、多くの犠牲者を出してしまったのです。火災に伴う停電が発生した場合に点灯する誘導灯内の豆球では、暗くて見えなかったということもあります。また特に、「非」と「常」の漢字は煙の中では判別しにくいという研究結果もあります(1970年当時の自治省消防研究所)。

 非常口マークは、火災時に赤い炎の中で最も視認しやすい色が捕色(反対色)である緑色であることから、メインの色に緑が選ばれています。消防法により、誘導灯には必ず緑色の使用が義務付けられています。
※手術着が緑色なのは、赤い血が捕色で見やすいからというのもそういう理由ですね。

煙の中での誘導灯は、 出来るだけ単純で、かつ、子供や外国人にもわかる、瞬時にして非常口を連想させるような絵文字(ピクトグラフ)にする必要があると判断されました。

国際標準化機構(ISO)に申請する際は、3000あまりのデザイン案の中から、識別性テスト、デザイン評価、心理テスト、照明実験、煙の中での見え方テストによる審査を経て日本案を選出。
ISOで選出した案もあり、最後は以下の2案があったんです。
右側はソ連の案でした。

2015.3 照明工業会報より

いかがでしょうか?最初は日本案は断られたそうです。そこで通常照明下と煙の中の見え方の比較実験結果をデータとともにISOの作業部会の会議で示し、それだけの実験データがあるならと、日本案が採用されたようです。
日本のデザイン案がより単純で、外に逃げるというメッセージが伝わると思いませんか?

今非常口マークである誘導灯は長寿命のLEDとなり、蓄電池が内蔵されているので、停電しても20分間以上は点灯させることができます。 また、誘導灯を設置する建物が大規模施設・地下街・高層ビルであれば、避難に時間が必要なので60分以上点灯し続けられる「長時間型誘導灯」を設置することが義務付けられています。
(階段を降りるスピードは平均0.6m/秒。1階約3mとしても5秒。10階建てビルでも50秒から1分で降りることができます。ただ、煙の上昇スピードは3m/秒なので、火災の時は上階へ逃げてはいけません。)

インドの非常口マークも同じでした。

参考:誘導灯の歴史 「黎明期から現在まで」 照明工業会報no.12

ぼうさい豆知識〜災害時の支援について〜

2024年1月1日16時10分、最大震度7の能登半島地震が発生しました。被災された方にはお見舞い申し上げます。
被災地以外の方は何かできれば‥私たちに何ができるのだろうか?と気も休まらない方もいらっしゃったかもしれません。
今回は災害が起こった際に、長期的に私たちがいつ何ができるか?ついて紹介していきます。

まず、災害時の被災者の生活を立て直していく段階である5つの「災害サイクル」について考えていきます。これは災害医療の従事者が支援の目安にする考え方です。サイクルなのは発災から次の発災までを期間ごとに分けているからです。


まず、
1.超急性期とは発災から2~3日の間です。

この時期は、自衛隊や日赤、DMAT隊などが出動します。災害医療としては、「トリアージ(多くの傷病者が発生している状況において、傷病の緊急度や重症度に応じた優先度を決めること)」「搬送」「瓦礫の下の医療」がメインとなります。
※「DMAT(ディーマット)」とは、災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チームで、Disaster Medical Assistance Teamの頭文字をとっています。

また、大きな災害ですと、災害救助法が適用となり、避難所の運用や必要な食料が物資が提供され始めます。人命救助最優先となりますので、私たちができることは限られています。個人の判断で物資を送ったり持って行くことは控えましょう。緊急車両の妨げになる可能性があります。
まずは「募金」などで資金面での支援が一番助けになるでしょう。


2.急性期とは発災から1週間程度の時期です。
避難所生活が始まり、避難所など支援に特化したボランティア団体がはいり、支援物質がさらに届き管理する段階の時期です。まだまだ一般ボランティアの受け入れ態勢は整っていません。やはり情報を取りつつ、資金面での支援や自分の災害への備えをすることが大事と思います。
この段階から、「共感疲労」に気を付ける必要があります。辛い状況にいる人の苦しい気持ちに共感しすぎて、自分自身の心が疲れてしまう状態です。具体的な症状としては、無気力になる、気分が沈みがちになる、イライラしがちになるなどがあります。(この後のポットキャストで心のケアのお話もさせていただきます。)

3.亜急性期とは発災から2~3週間の時期です。
長引く避難所生活により免疫力が下がり、感染症の流行ストレス障害が増加します。今回の地震では避難所など生活環境が整わない場合は県外への避難を呼びかけていましたね。
1月15日時点で、石川県では、1.5次避難場所(1.5次避難所とは、高齢者や妊婦など災害時要援護者が旅館やホテルといった「2次避難所」に避難する調整がつくまで、避難者を受け入れています。)のいしかわ総合スポーツセンターで、「避難所内の案内」,「食料・物資の運搬や補充」,「清掃、ごみの管理」などを行う運営ボランティア募集開始。募集対象はまだ金沢市内の人です。能登町など他の石川県内の町では、家の中の片づけや、ごみの運び出しなど被災者が希望する作業内容などを聞き取り調査し、まとまり次第、ボランティアの募集をすることになっています。

4.慢性期とは発災から数か月~数年の間です。
被災地の復興が本格的に始まります。
被災地の医療体制の整備等、災害公営住宅の設置など、中長期的な支援が必要となります。
復興が始まるのは半年以上かかるんですね。
大きな災害になるほど長い視点での支援が必要です。この頃から被災者の方の家の片付けなどで一般のボランティアが必要とされます。

5.平穏期とは復興が終わった時期です。
災害の影響がなくなり、防災や減災に取り組み、次に来る災害に備える時期となります。防災計画やマニュアルの策定、災害対応訓練なども行えます。
この平穏期にどれだけ備えるかで発災時のダメージが異なってきます。
被災地以外の方は、被災地を見守りつつ何を準備すべきかを知り、自分の備えを進めるべきです。

このサイクルはどのくらいの期間で巡るのかはその土地でも異なり、地震の規模でも違います。ただ、発災しても必ず平穏期が訪れると思えば復興の力にもなってきます。

参考:災害サイクルとは?5つのフェーズの特徴を解説!災害医療大学

https://bigfjbook.com/gai-4/

⭐️Podcast本編はこちら↓宜しければお聴きください♪
神田沙織 がりれでぃ スピンオフ
ナチュラル・サイエンス・ラボ
しぜんのかがく


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