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【読書感想】木洩れ日に泳ぐ魚/恩田陸

[ネタバレを含みます]

これはただのミステリー小説ではなかった。記憶とはなにか、人を愛するとはなにかを問いかけてくる物語だった。

双子だと思っていた千浩と千明は、実際は双子ではなくいとこだった。本当は双子ではないことは本人たちもうすうす気づいていたし、読む方もそうじゃないかと予想できる。しかしこの小説で焦点を置くべきはそのトリックではなく、人間の記憶、そして愛することについてである。

ラストシーンが印象的だった。写真は記憶を呼び起こすための道具の一つであるが、その記憶がどのようなものであったかは見る側が決めることなのだということを訴えかけてくる。千明は最後、夜明けの公園で、父親・千浩・千明の3人で移ったあの写真について回想する。幸せだったはずの親子3人。それは千明の妄想でしかないが、過去の記憶が良いものだったのかあるいは悪いものだったのかは現在の自分が決めることなのだ。そして、自分の決断にそぐわないもの、千明にとってのそれは千浩の名前が彫られたナイフであったが、そんなものは土の中に埋めて自分から見えなくしてしまえばいい。そんな新たな一歩を踏み出すラストであった。


◆読了日

2022年4月9日

◆読んだキッカケ

書店で本の帯を見て気になったため。

◆覚えておきたいこと

なるほど、心中というのは、ある意味で生の成就なのだ。好きということの達成感を得るのに、互いの死くらい明確なものはない。それぞれの命をもって子孫を残すことを否定するのだから。

僕たちは笑う。
カメラに向かって。将来この写真を見る自分たちに向かって。決して自分の過去が悪いものではなかったと自分に言い聞かせるために。カメラに向かって笑う僕たちは、未来の僕たちと常に共犯関係にある。

◆おすすめポイント

二人の男女の語り口が交互に繰り返され、徐々に真相が明らかになっていく展開に引き込まれました。ミステリーとしての面白さもさることながら、人間の記憶、愛することの意味を問いかけられる重厚で奥深い物語でした。

◆おすすめ度

3/5

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