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羽化

古着のメッカの町に住んでいると思わぬ恩恵を受ける事がたまにある。

あー今年はデニムが流行りかぁ…とあちこちのブランドのサイトを眺めていてもデザインやサイズ感に今ひとつときめかず新品をそんな値段で購入するぐらいなら少しぐらい古ぼけたデザインでも安いし素材も悪くないし中古でもそんなにボロボロでもない服の方が良くないか?と思って馴染みの古着屋を久しぶりに訪れてみると、あるわあるわこちらの心を見透かしたような品揃え。これほんとに古着なの?と疑いたくなるような品物が千円ちょっとで買えてしまう。もしかして局所的なデフレが起こっているのかもしれない。

しかし意気揚々と購入した4点のデニム系シャツやジャケットは汗ばむ陽気のお陰で出番をくじかれずっと虫干し状態に。まぁデニムなんてそんなに流行に左右されないからまた秋口になったら着れば良いか…

折角買ったのに部屋の片隅に吊るされているデニム達を尻目に僕の身体は恒例の「羽化」が始まった模様。

とても感覚的なものなので綺麗な説明は出来ないのだが、僕の身体は常に「蛹」と「羽化」を行ったり来たりしていてその時々のベストな動き方だったり表現方法を探っている。「蛹」の時は極力無理をせず体力を温存して来たるべき時に備える。たまに目が利く悪戯っ子に発見されてあわや捕獲されそうになるが無の境地で存在を朧げにして危機を逃れる。いざ「羽化」が始まったらせっかく世の中に出てきたのにパクッと蜘蛛にやられちゃわないように気をつけながら濡れた羽を丁寧に広げて小さく羽ばたいてみる。飛び方もままならないまま微風に吹かれて急に宙を舞い覚束ない様子でハタハタと飛んでみる。行く先は皆目見当もつかないが極めて心地良い。そんな風に心許無く宙を彷徨っているとやがて水溜まりに落下してしまう。しかし所詮は水溜りなので乾くまで我慢して木枯らしに攫われて手近な木まで飛ばされたらヒシッとしがみついてまた蛹に戻る。

そんなことをこの10年ぐらいは繰り返している。

狂ったようにデニムジーンズをメルカリで買い漁ったのは5年ほど前。まだまだ蛹と蝶の往復に慣れていない頃に買った物達の半数以上は古着屋に向かい生きながらえた少数精鋭は完璧なジャストフィット。

上手に羽化出来なかったあの頃と比べると最近は些か栄養過多の蝶になってしまうようだ。BoAのVALENTIでも聴きながらジーンズ履いて街に出よう。

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