異文化の相手と仕事するなら、知識以上に自分の「OS」のアップデートが重要
海外に赴任される方向けに異文化理解研修を行うことがありますが、事前のアンケートで「〇〇国におけるタブーを知りたい」や「〇〇人の考え方を知りたい」といったご要望をよくいただきます。
もちろん赴任先の国や地域に関する知識を身につけることは大切ですが、この手の情報はネットを検索すればいくらでも手に入ります。
それこそ現地で生活している人の生の声もネットで簡単に入手できますので、わざわざ研修でお伝えする必要もございません。
研修ではむしろ下図のように、国や地域を問わず、異なる文化の相手に接するときの基本姿勢を身につけることが大切であり、いわゆる「OS」に当たる部分をアップデートすることが重要ですとお伝えします。
というのも、もし「OS」がアップデートされないまま、赴任先の知識(アプリケーション)だけが頭に入っている場合、結局自分の物差しで相手を見てしまい、せっかく学んだ知識が全く活かされません。
(古いOSではアプリケーションが動かないのと同じ)
一つの例として、赴任先の国が「個人主義で言われたことしかやらない」と学んだ管理職が現地に赴任した際に、一生懸命「チームワーク」や「主体性」を現地社員に説いたところ、相手が白けてしまったという話があります。
この管理職の頭の中には「会社は一つのコミュニティだ」「メンバーは自発的にコミュニティに貢献すべきだ」という固定概念があり、「OS」が国内バージョンのままアップデートされていないため、「そもそも相手は見えている世界が違うため、”会社はコミュニティ”という概念自体がない」ということに最後まで気づきませんでした。
逆に「OS」をアップデートできた人については、たとえ赴任先のことを全く知らなくても、現地で生活しているうちに適応していくことができます。
では、「OS」のアップデートとはどういうことか、いくつか紹介してみたいと思います。
1.「あたりまえ」と思っていたことが実は「違う」ことに気づく
例えば海外に行くと、風貌や言語、食文化といった目に見える違いはすぐに認識することができます。しかし、善悪の判断基準や、人生の優先順位といった違いを認識するのは難しく、つい自分たちの「あたりまえ」で相手を見てしまいます。
例えば、日本で育った人にとっては「人に迷惑をかけない」のはもはや宇宙の真理というぐらいあたりまえのことですが、世界には「他人の迷惑」という概念自体が存在しない文化もあります。
もし自分たちの「あたりまえ」が誰にとってもあたりまえと思い込んでしまうと、相手が理解できない行動を取ったときにそれ以上考えようとせず、そのまま思考停止してしまう恐れがあります。
そのため、自分たちが「どこの国でもあたりまえ」と思い込んでいたことが実はあたりまえではなく、「どこの国でもあり得ない」と思い込んでいたことが実はあり得るということに気づくことが「OS」のアップデートの第一歩になります。
2.自分の「物差し」を自覚する
「違い」に気づくことができたら、次は自分がどのような物差しで相手を判断しているのか自覚することが重要です。
例えば、自分の仕事を終えたら周囲を一切手伝わずに遊んでいる社員を見て「よくない」と判断したとき、その裏には「個人はチームに貢献するべき」という物差しがあることを自覚できると、「私はこの人をよくないと判断したけど、実は問題ないのかもしれない」と気づくことができます。
大切なことは自分の物差しだけで決めつけないことであり、物差しが違えば善悪の判断基準も逆になるということを認識することで、相手を充分に理解しないまま安易に判断を下してしまうことを防ぐことができます。
3.複数の「物差し」で考える
文化が異なる者同士が自分たちの物差しだけで議論してしまうと永遠にわかり合えないことがあります。
一つの物差しでは「正しい」とされていることも、別の物差しでは「正しくない」ことになる可能性があるからです。
例えば欧米が「自由と民主主義は普遍的な価値観なので絶対正しい」と言い出すと、「自由よりメシと安全」の中国とはいつまでも話がかみ合いません。
ここで重要なことはどちらの物差しが正しいのか決めるのではなく、複数の違う物差しで考えることです。
最終的には何らかの結論を出す必要はありますが、互いに複数の物差しで考えることで、互いに合意できる可能性が高まります。
「OS」のアップデートは海外赴任とは限らない
ここまでの話は異文化の相手という前提ですが、研修の最後に感想を伺うと「これって家族や配偶者との関係にも通じるよね」という声を頂くことがあります。
このご意見はまさしく本質で、異文化といっても外国人とは限りません。突き詰めていけば自分以外の人はみな異文化なので、他人と接するうえで「OS」のアップデートは必ず役に立つと思います。
今回もお読みいただきありがとうございました。
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