見出し画像

【おまけ】ロンドンでチェコのパンを焼く

 前回の記事を編集していた私は気分転換がしたくなった。
散歩へ行くことも考えたけれど、やはりパンを焼くことにした
とはいえ、あの食パンのレシピは昨日の時点でひとまず満足するくらいにできていたので、私はそろそろ別のレシピを作ってみたかった。

 そこで、私は子どもの頃に食べていた思い出のパン、ロフリークを作ろうと思い立った。

 ロフリーク(Rohlík)はチェコのソウルフード。風邪をひいたときにも「ロフリークだけを食べていれば治る」と言われるほどだ。
しかも、ロフリークを食べるのは人間だけではなかった。公園の池にいた鴨も、広場の鳩も、みんなロフリークを餌付けされていた(ヨーロッパの人々は鳥に餌をやるのが好きなのです)。
だから、チェコの鳥たちにとってもロフリークはソウルフードに違いなかった。

 食感はボソボソとしていて甘味はなく、どちらかというとうっすらと塩味があるくらい。1、2時間ほど放置してやや硬くなりはじめたパンのような硬さで、何にも代えがたい素朴さがじんわりと美味しい

 私はいつもロフリークを割って、中にペーストを塗って食べるのが好きだった。
ヘーゼルナッツ風味のチョコクリームとミルククリームのミックスのペースト。チョコとミルクがそれぞれ縞模様を作るように容器に入っているので、うまく掬えば、チョコとミルクの綺麗な縞をそのままパンに塗れる。
その昔、母がそのペーストを塗ってくれたロフリークを、食べる前に毎度開いてみるのが楽しみだった。それが綺麗な縞模様になっていると嬉しかった。
 あの味を最後に口にしたのは5年前だろうか。

 本来なら薄力粉やラードを使うのだが、私は手元にあるもので作りたかったので、全粒粉の強力粉とバターを使った。
だからこれは厳密なロフリークではない。でも、この他はなるべくロフリークのレシピに従った。

成形はクロワッサンと同じだ。

 お決まりのチョコとミルクのペーストは買っていないので、かわりに蜂蜜を塗った。
バターを使ったので、食感も風味もまるでブリオッシュのようなリッチさだ。作った私自身、初めて食べる人にこれをあの「ロフリーク」だと思われたらちょっと困ってしまう。

 それでも私は、ロフリークのイメージでパンを焼けただけでもう存分に楽しくて、満足していた。
 すべてが私の空想世界で完結した営みだった。
私にとってこれは紛れもないロフリークだったし、蜂蜜はチョコとミルクのペーストだった。本当に作って食べられるおままごとみたいだ。

 頬張ると微かにロンドンの味がした。

歪な形に愛嬌を覚える。見た目が売り物に近いのは一番左。
ベンチタイム。少しでも理想とする「こだわりのある暮らし」に近づけたくて、お気に入りの手巻のストップウォッチを持ち出した。私の仕事道具でもある。

私が参考にしたレシピ(チェコ語)はこちら

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?