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【キウイ基地】最後の最後まで、そんなことを……。

 



 また会える? いつ戻ってくる?
 一番聞きたいことはいまだに聞けていない。いや、聞いて「わからない」と言われるのが怖いから、聞かないでいた。
 ローカル線の無人駅は、まさに田んぼのど真ん中にあった。駅舎もなく、コンクリート造りのホームがぽつんとあるだけだ。当然、単線だ。
 昼前の時間帯で、太陽は真上にあった。風もあって、波のように稲穂が揺れていた。
 金色の海の中に突っ立っているみたいだった。
 利香子さんは祐介の真横に立っていた。
 ボストンバッグはまだ祐介が持っていた。
 腕時計を見た。正午だった。時刻表を見ると、次の東京方面行きは十二時五分だった。あと、数分もない。
「また……」
 会える? と口からこぼれそうになったところで、
「祐介……」
 利香子さんがかぶせてきた。どうして、いつも話しかけるタイミングが重なってしまうのだろうか。祐介はいつもどおり、譲ることにした。
「大丈夫だからね」
 利香子さんが顔を向けてきた。横からの風で、馬の尻尾みたいな後ろ髪が揺れていた。
「な、なにが?」
「……祐介、いつも気にしていたでしょ。自分は知能も精神年齢も三、四年遅れているって」
「あ、うん……」
「大丈夫だから」
 利香子さんの視線が強かった。なぜこんなに睨まれているのだろうと思ったら、利香子さんの視線の先に、一両編成の電車が入っていた。
 祐介も確認した。
 もう来たのか。
 見晴らしが良すぎるため、電車はまだ遠くにあり、小さく見えていた。
「祐介」
 綺麗な声で呼ばれて、祐介は利香子さんのほうに振り返った。
 今度は優しい目つきになっていた。
「大丈夫だからね。今は、周りが同じ年の子ばかりで、余計にそう感じちゃうのかもしれないけど、大人になって社会に出れば、三、四年の差なんて、まったく関係なくなるからね。いまは多少つらいかもしれないけど、だんだん、だんだん、良くなるからね」
「利香子さん……」
 最後の最後まで利香子さんがそんな心配をしてくれていたことに、祐介は驚いた。
「う、うん……」
 うなずくと、白い手がすっと差し出された。
 利香子さんが握手を求めてきていた。
 電車がどんどん近づいてきていた。
 祐介はもう涙を堪えられなかった。



「キウイ基地~ポルノ女優と過ごした夏」
エピローグ より



柚木怜 著
キウイ基地ーポルノ女優と過ごした夏

匠芸社・シトラス文庫刊
※楽天ブックス、DMMブックス、コミックシーモア、UーNEXTなど、40以上のオンライン書店で発売中

裏山の秘密基地の中で二人きり。ふいに利香子さんが振り返って、瞳を覗き込むように見つめてきた。祐介の心臓がトクンと鳴った。利香子さんの一重の瞳が妖しく光り、潤んでいた。
「祐介……これ、なあに?」
──昭和六十年の夏。高校受験に失敗した十六歳の青年と、アッケラカンとした巨乳のポルノ女優が繰り広げる、汗と性欲まみれのひと夏の経験。

家の離れで見た祖父と母親の近親相姦・二人で観に行った場末のピンク映画・裏ビデオに残っていた陵辱の二穴姦……

『明君のお母さんと僕』『お向かいさんは僕の先生』に続く、青年と年上女性の性愛を描いた、柚木怜の叙情的官能小説、第三弾!



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大人の女性のためのエッチ(h)漫画専門店「エルラブ」



著者プロフィール

柚木怜(ゆずき・れい)

京都出身、東京在住。1976年生まれ。
23歳の頃よりフリーライターとして、週刊誌を中心に記事を執筆。30歳の時、週刊大衆にて、初の官能小説『白衣の濡れ天使』を連載開始(のちに文庫化されて『惑わせ天使』と改題)。
おもに、昭和末期を舞台にしたノスタルジックで、年上女性の母性溢れる官能小説を手がける。
また、YouTubeチャンネル「ちづ姉さんのアトリエ」にて、作品を朗読配信中。

著書

『惑わせ天使』(双葉社)
『おまつり』(一篇「恋人つなぎ」 双葉社)
『ぬくもり』(一篇「リフレイン」 双葉社)
『初体験』(一篇「制服のシンデレラ」葉山れい名義 双葉社)
『明君のお母さんと僕』(匠芸社 電子書籍)
『お向かいさんは僕の先生』(匠芸社 電子書籍)
『キウイ基地ーポルノ女優と過ごした夏』(匠芸社 電子書籍)
『邪淫の蛇 女教師・白木麗奈の失踪事件 堕天調教編』(匠芸社 電子書籍)
『邪淫の蛇 夢幻快楽編』(匠芸社 電子書籍)
『姉枕』(匠芸社 電子書籍)

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