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うぬぼれに気付いた戦後の『桃太郎』

戦禍、日本人は自分たちが「桃太郎」で、敵国を「鬼」としていました。日本国民全員で「鬼ヶ島征伐」を夢見ていました。しかし、結果征伐されたのは、日本です。日本は、退治されたのです。征伐されたのです。つまり、「鬼」=「日本人」ということです。

【#171】20211217

人生は物語。
どうも横山黎です。


作家を目指す大学生が思ったこと、考えたことを物語っていきます。是非、最後まで読んでいってください。

今回は『戦後の桃太郎』というテーマで話していこうと思います。



☆戦後の桃太郎


前回、『戦争期の桃太郎』について述べました。日本国民誰もが戦争に勝つことだけを生きる目的として切迫していた頃、『桃太郎』の物語にも軍国主義の魔の手が伸びました。敗戦が色濃くなってきてつくられた『桃太郎出陣』という詩では、あちらこちらで桃太郎が産まれて戦地へ出向くという狂気的な物語が紡がれました。


それだけ切羽詰まっていたわけですが、ご存知の通り、日本は虚しくも戦争に敗れます。


戦勝国であるアメリカによる占領が始まり、日本が新たな一歩を踏み出そうとしていました。GHQはそれまで当たり前だった帝国主義、軍国主義を根本的につぶしにかかりました。「非軍事化・民営化」政策を講じたのです。


『桃太郎』も然り。戦意高揚を目的としたアニメ映画や文学作品が作られたのですから、そりゃGHQの目に留まります。


だからです。
だから、それまで当たり前のように載っていた『桃太郎』が、教科書から消えたのです。


今でも日本人なら誰もが知っている童話でありながら、教科書に載らないのは、占領期の名残のせいといえるでしょう。

とはいえ、日本を象徴するような作品ですから、作品としては少しずつみられるようになります。新しい時代の桃太郎が誕生していったのです。


さて、戦後の桃太郎にはどんな物語があるのでしょうか。



☆「鬼」は日本人だった


まず紹介したいのが、アメリカの日本史研究者ダワーさんの言葉。めちゃくちゃ面白いなあと思ったので共有します。


戦禍、日本人は英米人を「鬼畜英米」「鬼」と呼んでいました。戦争プロパガンダとして『桃太郎』が利用されたのも頷けますよね。それはさておき、ダワーさんは、日本人にとって「鬼」が、極悪非道な拷問者であると同時に、征服して味方につけることもできる情のある守護神でもあるよね、と指摘します。

一般的な『桃太郎』の物語は、鬼は悪者とされ、人間に悪い影響を与えていますが、桃太郎に退治されたら、許しを請い、あやまって、和解するという流れで終わります。ダワーさんはそこに注目し、その鬼の性格を日本人と照らし合わせます。



ここで面白いことに気付きます。

戦禍、日本人は自分たちが「桃太郎」で、敵国を「鬼」としていました。日本国民全員で「鬼ヶ島征伐」を夢見ていました。しかし、結果征伐されたのは、日本です。日本は、退治されたのです。征伐されたのです。

つまり、「鬼」=「日本人」ということです。

しかし、ダワーさんはそれを悪い意味でとらえていなくて、「素直」で「愛想のいい鬼」であるとしています。だからこそ、戦争に負けて、敵国アメリカに占領されることになったわけですが、今でもなお関係が続いているように、アメリカに従順しています。あれだけ憎かったのになつくようになったし、侮っていたのに崇めるようになったわけです。



☆ただの桃太郎


1950年、奈街三郎さんの『ただの桃太郎』という作品があります。もともと童話でしたが、学校劇として披露されるようになったそうです。


この物語には、あきらかに戦後の日本が投影されています。先にいっておくと、「桃太郎」=「引揚者」です。引揚とは、外地(本土以外の日本の領土)に行っていた日本人が帰ってくることで、500万人以上の人が日本に帰ってきたとか。

その引揚者が主人公の『桃太郎』なのです。その証拠にこんなセリフがあります。

「やれやれ。まったく夢のようだなあ、こうして、ぶじにかえれようとは……。やっぱり、日本はいいなあ、鬼ヶ島よりいいなあ。」
(引用:奈街三郎『ただの桃太郎』)



そして、この物語のなかで特別印象的なのが「桃太郎が持っていた『日本一』と書かれた旗を捨てるシーン」です。


それまで刀も扇子も持っていませんでした。そのうえ、「日本一の旗」すらも手放してしまうのです。その理由を、桃太郎はこう語ります。

「いや、かえってみたら、日本一なんて、とんでもないうぬぼれさ。日本一というのに、ろくなものはありゃしない。ぼくだって、同じことさ。だから、ぼくはきょうから、日本一の桃太郎じゃない。ただの桃太郎だよ。」
(引用:奈街三郎『桃太郎』)


少し切なさを覚える台詞ですよね。ここでタイトル回収がされるわけです。それまで信じて疑わなかった「日本一」の称号をはじめて疑い、取るに足らないものだと気付いたのです。


ちなみに、「これから、どうするんですか?」と雉に聞かれ、桃太郎は、「大いにはたらくよ」と口にします。まさにその言葉通り、その後日本人は身を粉にして働き、「もはや戦後ではない」というフレーズが生まれるほど、驚異の経済成長をみせるわけです。



☆平和な時代だからこそ


今回はあまりまとまりのある話を紹介できませんでしたが、占領期の頃の『桃太郎』はいくつかあって、桃太郎のビジュアルがかわいくなったり、鬼が弱弱しくなったり、犬猿雉が家来ではなく仲間になったり、平和的な桃太郎が綴られました。


そもそも『桃太郎』は民話なのだから、そこへ立ち帰ろうということで、シンプルな『桃太郎』もつくられました。


いずれにしろ、戦争が終わって平和な時代を迎えたからこそ、自由に物語を追求できるようになったんだなあと思います。明治時代から戦争に負けるまで『桃太郎』は政治利用されたり、それに対抗するように書かれた物語ばかりでしたからね~


ということで、今回は、『戦後の桃太郎』について物語っていきました。

最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

横山黎でした。





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