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ギャルになりたい

もう1度1から人生を送れるのならギャルになる。18時半、渋谷駅、ハチ公前駅前広場。黒スーツの人々が帰途につく為、駅に向かい流れが生まれる。これから街に繰り出してゆく若者が相反する流れを生み出し、広場は幾つもの畝りが生まれる。ライブカメラで畝りを見る。流れの中の金髪、茶髪などの明るい髪色、若い肌を露出させた服の若者達がよく目立つ。これから街に繰り出さんとする楽しげな彼ら。周りとの違いは意にも介せず、今を楽しむ姿勢は凛として、疲れを抱え下を向き改札に吸い込まれていく勤勉な給与生活者よりも美しく見える。

全部をそのせいにする訳じゃない。毎日せっせと学校に通い、集団生活中で標準を学んだ私達。抜きん出る感覚、浮く感覚に敏感。私はみんなの前で手を挙げ発言は絶対したくない。標準はくそ退屈。学生時代、ぼんやり窓の外を眺め、学校に突然ミサイルが落ちて来ないか、みんなが出払った昼休みに自分の教室だけ潰れてなくなったりしないかをずっと妄想。

ギャルはその点もっと現実主義者。当時、私の学級は古風の校風にだったにも関わらず数人のギャルが組を作る。私が無量大数の可能性もない他人任せの妄想を蒸す間、彼女達は自分好みの可愛いを知り、選び、身に付け、自分の個性を作る。短いスカート、茶髪を先生に注意されてもニカッと笑い「ごめんなさい」と言い数秒後にはジャニーズの推しの話に戻る彼女達が羨ましい。ギャル組の1人が教えてくれた他校の男子と付き合ったという色恋話、竹下通りで片道だけで10人から勧誘された話、彼女達がギャルだったから生まれたもの。私では無理な話。そんなこんなでギャルへの憧れは今年で10年目。

しかし何時もなら家から眺めて終わる夏も今年は一味違う。コロナ禍になり空いた時間に筋トレを始め、体を絞り、自分の体に自信ができた。今よりも若い時なんてないと服を購入。ZARAチビT、黒スキニー。7月、猛暑日。お腹に日焼け止めを塗る慣れない感覚を味わいながら何時もよりアイシャドウを濃くし意気揚々と街へ繰り出す。異変は直ぐに起こる。グルルと自分の中心から不穏な音。数秒後にお腹に激痛が疾走る。分かる、冷え。結局、腹痛にブルブル震え、持っていたシャツを腰に巻き簡易腹巻。今時のチビTは形が見えずダサい、もう。嗚呼、生まれ変わったら絶対ギャルになる。

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