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末梢神経の評価と介入-Nerve firstの臨床思考-

こんにちは桑原です。

Instagram→@kei_6918

今回この記事を書くに至った経緯ですが

相模原協同病院のPTの直井大地先生の講義と紹介されたPTジャーナルの記事を読ませていただいたことがきっかけです。

冒頭、この部分にふれてから本題に入りたいと思います。

末梢神経の評価・介入に悩まれている方は臨床の幅が広がると思いますので是非最後まで読んでいただけたらと思います。
また、記事の中に今までまとめた末梢神経の評価・介入の記事の外部リンクも貼っていますので、気になる方はそちらも読んでみてください。きっと臨床での何かのヒントになる筈です。


1)直井先生の講義・その後の臨床の変化

僕は直井先生の講義や記事に触れる前、肩関節機能研究会のホームページ筋皮神経障害の評価と介入について執筆する機会をいただきました。

当時、筋皮神経障害について体系的に学べる記事がなかったのでテーマを自分で決めて作業にとりかかりました。

ひたすら文献を集めdeepLで翻訳し、書籍から何かヒントを得るために書店に足を運んだりしたのを覚えています。

1ヶ月ほどで記事は完成しました。

当時の介入方針を要約すると以下の通りです。

基本的に筋皮神経は烏口腕筋を貫いたあと知覚枝として外側上腕皮神経(LABCN)として前腕外側の感覚を支配する。なので前腕外側の重怠さなどは筋皮神経由来の可能性があると考える。※詳しい評価は割愛します。
介入は
烏口腕筋のリラクゼーション・Ⅰα、Ⅰb抑制や反回抑制を用いて弛緩を図り、その後筋皮神経を走行から解釈し伸長と弛緩を繰り返してエントラップメント(絞扼部位)の滑走性を出して変化を見る。

こういった感じです。

簡単に言うと絞扼部位を緩めてその後、末梢神経を伸長・弛緩を繰り返し滑走性の改善を図るという方針です。

そして記事が出来上がり、その後、講義でこの介入の方法が他の末梢神経の評価・介入に応用できることを知りました。

今思えば、他に応用すると言う発想の転換がなかった自分に呆れます。。笑

直井先生の講義では自分の介入方法のその先を綺麗に言語化されていることに驚き、それが体系的に踏襲されている。自分の知らないところで自分よりもずっと先でそれが完成されていることに感動しました。

必死に勉強して得られた知見より、更にその先の領域をさらっと見せられた。そんな感覚でした。なんだかわくわくしますよね。患者さんに変化が出た時もそうですが僕はこういう時も理学療法にハマる時だと思っています。

その後、臨床でも疼痛に対する介入の成績が以前より良くなりました。

さてさて、そんなきっかけで書いてみよう思い立ちましたこの記事は
・今までの僕の臨床での経験
・PTジャーナルの記事で学んだこと
・直井先生の講義で学んだこと
から続きを書いていきたいと思います。

それぞれの末梢神経の評価・介入は昔の記事の外部リンクを貼っていきます。

今日の記事では基礎となる部分が皆さんに伝われば良いなと思います。

難しい表現もあるかと思いますが大切な部分ですので最後まで読んでいただけると嬉しいです。



2)末梢神経の捉え方

前提として構造的破綻炎症性求心性障害CRPS(複合性局所疼痛症候群)などによる疼痛を除いた絞扼性の神経障害に焦点を当てたものと解釈していただけたらと思います。

河端ら[1]は末梢神経の捉え方に関して以下の様に述べています。
※冒頭で直井さんに紹介していただいた記事です。

・さまざまな障害像(痛み・感覚鈍麻・筋力低下・関節可動域制限)を末梢神経由来で分類して捉える
・末梢神経の走行をもとに「末梢神経‒筋腱‒関節」を複合体として捉える
・末梢神経の entrapment(滑走障害を含む)を解消し,末梢神経の長軸への滑走を促す
河端将司ら.肩肘痛を有するスポーツ選手の 末梢神経障害の捉え方.PTジャーナル.2022;54:549-58.

絞扼部を”点”末梢神経を有線コードの様に”線”と捉えるとわかりやすいです。

また、この記事ではこの様にも述べています。

「末梢神経という『悪の黒幕』を健全化しない限り,それに支配された被害者群(筋や関節)に平穏は訪れない」


この様な考え方をNerve firstと言います。


障害像に対して何を軸に捉えるかは、それぞれセラピストが育つ環境によって変化すると思います。

ちなみに僕はなるべく多くの視点で障害像を捉えたいので、その一部としてこの考え方を学ぼうと思いました。

例えば関節を軸に障害像を捉えてもいいですし、引き出しは多ければ臨床推論の幅も広がり結果につながると思います。

そんなスタンスです。

さてさて

これが末梢神経の評価・介入を行う上での基本的な考え方になります。


3)末梢神経の評価

では概要がわかった段階でどう評価するか?

ここがポイントです。

僕の臨床での評価をまとめてみました↓

・対象となる末梢神経の感覚領域の症状の有無(鈍痛・脱力感など)
・対象となる絞扼ポイントでの圧痛所見の有無や圧痛に伴う支配領域の症状の出現
・対象となる末梢神経に牽引刺激を加えた際の疼痛の再現
・対象となる末梢神経の支配筋の筋力低下
・その他絞扼性神経障害で起こる症状

まとめるとこんな感じです。

なので、必要となる勉強内容も決まってきます。

末梢神経の支配筋・走行・知覚領域・絞扼ポイント・絞扼部の介入方法・伸長弛緩操作。

これで少しは臨床で疾患と闘えます。

腋窩神経を例に考えてみましょう↓↓

支配筋→三角筋・小円筋
走行→腕神経叢からQLSを通過し上腕骨頭に後方から回り込んで巻き付く様に走行する
知覚領域→肩関節近位外側
絞扼ポイント→QLS
絞扼部の介入方法→QLS構成筋を緩める操作(Ⅰb抑制でも反回抑制でもなんでも良いと思います。一番効果的なものを)
伸長操作→肩関節伸展+外転+内旋or水平内転+頚部反対側側屈(頚部は同側側屈→側屈なし→反対側側屈と段階的に腕神経叢も伸長させたり、意図的に腕神経叢を緩めながら腋窩神経を伸長させたりして滑走性だす)


他の末梢神経の評価の記事は以下外部リンクを参考にしてみて下さい↓

腋窩神経障害の評価の記事はこちら
肩甲上神経障害の評価の記事はこちら
筋皮神経障害の評価の記事は
こちら



4)末梢神経の介入

続いて、介入に関しては先程、腋窩神経を例に載せましたが、基本的な考え方は以下の通りです。

①絞扼部の滑走障害の解消”点の介入”
②末梢神経を長軸上に伸長・弛緩で滑走性を引き出す”線の介入”

この2つが軸になります。

4-a)絞扼部の滑走障害の解消(”点”の介入)

絞扼部の滑走障害を起こしやすい部位は色々な文献に載っています。

論文検索でも「末梢神経+絞扼」などと検索すると多くはないですが少しヒットします。

上肢の末梢神経の絞扼部位の例↓↓

腋窩神経であればQLS
肩甲上神経であれば肩甲切痕棘下切痕
筋皮神経であれば烏口腕筋の貫通部

などが臨床上重要になります。

神経の走行が急に変わったり、通過するスペースが狭かったりと絞扼されやすいポイントです。

ところで滑走障害をどう改善するかですが

Ⅰb、Ⅰα、反回抑制、効果的なもので良いと思います。

ハイドロリリースを行っている施設であれば早いですね。

ハイドロリリースとは??
ハイドロリリースとは滑走障害を起こしている絞扼部分の神経周辺にエコーガイド下での注射により液性に剥離させるものです(生理食塩水と麻酔薬を混ぜる)末梢神経の捉え方としてはこれは”点”の介入になります。エコーの動画を拝見したことがありますが、薬液がはいっていくとブワァッと解離していきます。

4-b)末梢神経を長軸上に伸長・弛緩で滑走性を引き出す(“線”の介入)

長軸上の介入を行う際は、走行をよくイメージして行う必要があります。

特に上肢は多関節を操作しなければいけないので複雑です。

腕神経叢の伸長や弛緩も応用するとより伸長-弛緩の幅が広がるので滑走性を引き出せるかと思います。

頚部同側側屈→腕神経叢の弛緩
頚部反対側側屈→腕神経叢の緊張


腋窩神経障害の介入の記事は
こちら
肩甲上神経障害の記事はまだつくってないので今後で
筋皮神経障害の介入の記事は
こちら


5)まとめ

最後までお付き合いありがとうございます。

そして、この様な学びのきっかけをいただいた直井先生に深く感謝いたします。

この記事が臨床でのヒントになれば幸いです。


評価・介入のまとめです↓↓

①対象の末梢神経の評価には支配筋・走行・知覚領域・絞扼ポイント・絞扼部の介入方法・伸長弛緩操作の知識が必要になる。
②末梢神経の治療の捉え方
・絞扼部の滑走障害の解消”点の介入”
・長軸上での伸長と弛緩で滑走性を引き出す”線の介入”
と捉えるとわかりやすい。


Reference.

[1] 河端将司ら.肩肘痛を有するスポーツ選手の 末梢神経障害の捉え方.PTジャーナル.2022;54:549-58.

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