見出し画像

eeee感じ!!!!/忘れ者の日記5

 最後に聴いたのはいつだったろう。連続テレビ小説『エール』の「星影のエール」とか、TBS系連続ドラマ『義母と娘のブルース』の「アイノカタチ」だったろうか。彼らの音楽は厚みのあるメロディーに乗った真っすぐな歌詞が魅力なんだ。でも、これらの曲を初めて聴いたとき、わたしは昔——わたしが小・中学生だった頃——のように感動できなくなっていた自分に気付かされた。わたしは暗くて、卑屈で、ひねくれてしまったのかな。

 わたしが彼らの音楽に出会ったのは、2008年——わたしが8歳のとき——で、それは当時放送されていたTBS系連続ドラマ『ルーキーズ』の主題歌だった。まさに「キセキ」的な出会いだった。それ以来、わたしは彼らの音楽を好んで聴くようになった。好きな曲はいくつもある。でも、いつからか彼らの曲を聴かなくなってしまった。

 軽く調べてみたのだけれど、わたしが最後に聴いたのは、2016年9月に発表された《縁》というアルバムだった。(実際には、2022年に発表されたアルバムも聴いていたけれど、それはテレビCMに起用された曲を集めたもので、懐かしい曲が多かったから、カウントしていない。)なぜ、聴かなくなったんだろうと、いろいろ記憶を辿ってみると、《縁》が発表された同じ月に「LOOSER」、次の月には「多分、風」という曲が発表されたからではないかという結論に至ったんだ。わたしは、それ以来、彼らとは全く方向性の違う二組のミュージシャンに傾倒していった。入学して半年経っても高校のクラスにいまだ馴染めずにいたわたしには「LOOSER」が心地よかった。父親の影響でテクノミュージックが好きだったこともあって、「多分、風」を歌っていたミュージシャンの曲ばかり聴くようになるのにも、時間はそんなに掛からなかった。学校に行くのが嫌で嫌で仕方なくて、放課後の演劇部の活動で一時的に気が紛れても、夜になって布団に入ると、今日あった嫌なことを思い出したり、明日も学校に行かなくてはならないという事実に耐えられなくなることが毎日のようにあった。そんなときに心の支えになってくれたのは彼らの音楽ではなく、「LOOSER」であり、「多分、風」だった。

 いつしか、わたしは彼らの底抜けに明るい音楽やしんみりとしたバラード、そして家族愛や友情、恋愛、夢、努力といったテーマについて真っすぐに歌った音楽が苦手になっていた。何を聞いても悲しくなって、とても聴けるような心の持ちようではなくなってしまう。なぜかは分からないけれど、そうなってしまったんだ。そのうち2017年に《BOOTLEG》が、2018年に《魚図鑑》が出た。そして、これが決定的な出会いだったのだけれど、2018年の6月にYoutubeで「秒針を噛む」という曲に出会った。その曲が公開されたのは1時間前だった。そして「秒針を噛む」前には戻れなくなった。2016年~2018年——ちょうどわたしが高校に入り、卒業するまでの年だ!——に出会った3組のミュージシャンがいなかったら、わたしはどうなっていたのか分からない。分からないから、怖い。

 そんなことがあって、彼らの音楽は時々耳にするけれど、ホントウに耳にするだけで、特段の関心を注ぐようなことは無くなっていった。それなのに、今日、なぜか彼らの音楽を聴きたくなってしまった。初めて見るジャケットが並ぶ中で、わたしの目を惹くものがあった。その曲のタイトルは「What the "XXXX"」だった。

 それは彼らが得意とするラップの曲だった。彼らはよくリレー形式でラップを繋いでいくのだ。この曲もそのタイプだった、と思ったその瞬間、曲調が変わった。これはただのラップではなかった。それは彼らのデビューシングル「道」をアレンジしたものだった。わたしは、もう一度曲を初めから聞き直した、するとどうだ、過去に歌ってきた曲の歌詞がラップのあちらこちらに散りばめられているではないか、そのとき、彼らの音楽をヘビーローテーションしていたあのときの記憶が一気にフラッシュバックした。そうだ、わたしは、彼らの音楽が好きだったじゃないか、どうして忘れていたんだろう、こんな大事なことを。

 わたしは彼らの音楽に元気付けられていたはずなんだ、カラオケに行っても彼らの曲しか歌えなかったはずなんだ、親の車のナビの中にはわたしが自作した「ベストアルバム」が入っていたはずなんだ。今となっては、こういう感じで、音楽とかに紐づけて思い出さないといけないのがもどかしい。しかも、それはホントウにあったことなのか正直なところ分からない。ほとんど何も覚えていない小・中学生の記憶を辿るには、あの頃どんな曲を聴いていたとか、何のゲームをしていたかとか、テレビで何を観ていたかとか、そういったものに頼るしかない。思えば、わたしは「イカロス」という曲が一番好きだった。この頃からすでに「飛べるやつ」への執着があったことに気が付いて、とても驚いている。「イカロス」の発表は2013年4月、奇しくも「初めての吹奏楽」、あのSwingのリズムが体に刻まれたのと、ほぼ同じ時期だった。久しぶりの彼らの音楽はとってもeeee感じだった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?