事業承継時の『不良資産と見えない負債』。防ぐにはどうしたら?
「継いだばかりの時には気づかなかった会社幹部への貸し出しが見つかりました。この貸金は貸借対照表の資産の部に計上されていて発見が遅れ、資金回収は困難な状況になってしまいました。先代からの引き継ぎにあたり『不良資産と見えない負債』をなくすために注意すべきポイントはどんなことでしょう?」。今回は、東京都八王子市で製造業を営む40代社長さんからの相談です。
ファミリービジネス支援の株式会社日本FBMコンサルティング代表で、日本ファミリービジネスアドバイザー協会(FBAA)フェローの大井大輔さんが答えます。
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気づかない不良資産・負債はよくあること
後継者である相談者さんは、さぞかしびっくりしたことと思います。資産として計上されていた貸付金が回収できず、いわゆる不良資産(回収の見込みの少ない債権)だったわけですから。
しかし、中小企業においては、このような不良資産の存在は珍しくありません。今回のような回収が難しい貸付金以外にも、長期未収となっていて回収が難しい売掛金、資産価値が事実上なくなっている棚卸資産などがあります。そのため、決算書に計上されているほどの純資産が実際にはないケースが存在します。
ファミリービジネスを継ぐ後継者は会社の財務状況について、会社を継ぐ瞬間まで知らされていないことも多いのではないでしょうか。今回は、先代からの引き継ぎにあたり「不良資産」と「見えない負債」をなくすために注意すべきポイントについて説明したいと思います。
先代から引き継ぐ際に企業価値評価を実施してみる
M&A(企業の合併・買収)においては、企業を譲り受ける側が対象企業の財務内容などを精査する手続きとして、財務デューデリジェンスという作業があります。これは対象企業の財務諸表が本当に正しいのかどうかを確かめる作業です。
他にも法律面の調査をする法務デューデリジェンス、今後の経営状況を調査するビジネスデューデリジェンス、人事・労務面を調査する人事デューデリジェンスなどがあります。
先ほど述べた通り、後継者は会社を継いだときに初めて会社の財務状況を知ることも多いと思いますので、ご自身で会社の財務内容を調査することをお勧めします。
M&Aの際には外部の公認会計士などに委託することが多いですが、ファミリービジネスの引き継ぎに当たっては会社の税務処理をしている担当税理士さんに協力してもらうのが良いと思います。
もちろん、先代にヒアリングしても良いのですが、先代自身も財務内容を正しく把握していないことも多いので、専門的なスキルをもった方に依頼することをお勧めします。
財務調査を実施するタイミングは、できるだけ早い方が対策を講じる観点からは良いと言えます。しかし、後継者と先代の関係は会社ごとにさまざまです。事業承継前に無理にデューデリジェンスを実施して先代との関係を悪化させることは避ける方がベターでしょう。
後継者によるデューデリジェンスのポイント
財務デューデリジェンスのポイントは以下の通りです。
<勘定科目と評価のポイント>
現預金
資産計上されている現預金について本当に存在するかどうかをネットバンキングや通帳で確認します。売掛金
長期未収や回収不能となっている売上債権や請求先が明確になっていない売上債権がないかどうか、債権年齢表や回転期間を分析します。必要に応じて、得意先との債権金額の認識を一致させるために、残高確認書を税理士から送付してもらう方法も良いでしょう。棚卸資産
棚卸資産は利益調整によく利用される項目です。実際に資産計上されている棚卸資産があるのか、販売できない不良資産(長期滞留品)がないかを実地棚卸しを実施して確認します。また、棚卸年齢表が存在する場合、その評価額についても検討し、調査結果に応じて、棚卸資産を減額します。有形固定資産
建物や設備が実際に存在するのか、計上されている金額に見合った価値があるのか、土地など時価ベースではどのくらいになっているのかを確認します。また、会社の事業用途で使用している資産が会社の資産であるのかを確認します。会社の土地が先代の所有になっていることが散見されます。有価証券
時価ベースで評価します。保険契約
時価(解約返戻金)ベースで評価します。その他の不良資産
相談のケースのように、貸付金として計上されていても、実際には不良資産となっている、もしくはなりそうな資産が他にもないか確認します。例えば、不動産を賃借している場合、敷金保証金が契約書上有効かどうかを確認します。未計上の負債(簿外負債)
未払い残業代などの簿外負債がないかどうか、また、多くの会社で計上されていない賞与引当金、退職給付引当金がどのくらいになっているのかを確認します。
先代から会社を引き継ぐ際に、後継者が上記のような財務デューデリジェンスを実施すれば、「不良資産」と「見えない負債」をなくすことができ、同時に、会社の実態をよりよく理解することにもつながります。
例えば、未払い残業代などがある場合はコンプライアンス上、望ましくありません。会社の引き継ぎをきっかけに、そのような会社の問題にも目を向ける必要があります。
また、先代との関係も清算する必要があります。会社で使用している土地が先代の所有となっている場合や先代からの借入金などがある場合、会社の財務状況によってはすぐには解決できないかもしれませんが、ある程度の時間をかけてでも、会社の資産と先代の資産は分離していくべきです。そうしなければ、将来、相続などが発生した場合に他の親族との間で問題を引き起こす可能性があります。
後継者としての心構えと引き継ぎ後の取り組みについて
後継者にとって不良資産の確認は必要なことではあるものの、何か後ろ向きで気がめいることと思います。これはファミリービジネスの負の側面ですが、ファミリービジネスには正の側面もあります。
例えば、簿外資産の存在です。人材(人件費)は一般的には損益計算書に計上される費用として見られがちですが、その人材が持っている技術やノウハウが会社の売上高や利益の源泉になっています。
また、会社の信用力、世間での評判や金融機関からの与信枠などもあります。このような簿外資産を一般的に「のれん」と呼びます。ファミリービジネスにはそのような財務諸表には表現されていない企業価値=「のれん」があります。後継者の方々にはそのことをぜひ認識してほしいと思います。
このようなファミリービジネスの負の面、正の面を認識した上で、後継者の方々には正の面を生かして、ファミリービジネスをどのように成長させていくのか考え、その方向性を社員に示して、事業活動を展開していくことを期待しています。
回答者・大井大輔さん
日本ファミリービジネスアドバイザー協会(FBAA)執行役員、フェロー
株式会社日本FBMコンサルティング代表取締役
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