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沖縄の性暴力根絶は、日本に住む私たちの課題

 「ノット・ギルティ(無罪)」……7月12日、那覇地裁の被告先に立ったその男は、あろうことか無罪を主張しました。「誘拐も性的暴行もしていない」と。

 16歳未満の少女を車で誘拐し、自宅で性的暴行を加えたとして、わいせつ目的誘拐と不同意性交等の罪に問われた米軍嘉手納基地所属のその男は、沖縄県警が「米軍側から捜査の協力が得られた」として米側に身柄の引き渡しを求めずに任意で捜査し、書類送検と起訴後、被告の身柄は日米地位協定などに基づいて身柄はいったん日本側に移されたが、その後に保釈されたということです。

 罪を認めていないのに、まともな取り調べもされず簡単に保釈される……それがいまの日米地位協定の実態です。

  女性を守れない日米地位協定と日米安保条約はいますぐ廃棄しろ!
 女性に対する性暴力の根幹原因である在日米軍基地はいらない!
 軍隊は女性を守らない。軍事力に頼らない真の平和を!

1,米兵による性暴力事件をひた隠す日本政府

 いま沖縄は、米兵の相次ぐ性暴力事件に対する怒りに包まれています。

 事件の概要について、もう少し考えてみましょう。
 昨年(2023年)12月24日、25歳の米兵が読谷村で16歳未満の少女に声をかけ車で誘拐、自宅で性暴力を加えるという事件が起こりました。16歳未満という少女が被害に遭ったということも衝撃を与えたのですが、それ以上に衝撃を与えたのは、私たちも、そして行政当局である玉城デニー県政も、6月25日に報道されるまでこの事実を全く知らなかったということです。事件が起こって半年、遅くとも事件が起訴されてから3か月、日本政府によって事件は隠され続けていました。犯人は3月27日に起訴されましたが、すぐに保釈され米軍基地内で生活を続け、そして裁判での主張は、なんと「無罪」です。

 玉城デニー知事は日本政府に対して「信頼関係において著しく不信を招くものでしかない」と非難し、事件についても「県民に強い不安を与えるだけでなく、女性の尊厳を踏みにじるものだ。強い憤りを禁じ得ない」と即座に表明しました。

 その後、日本政府が米兵による性犯罪を隠していた事実が次々と明らかになりました。まず明らかになったのが今年5月26日に起きた事件です。この事件は6月17日に不同意性交等致傷罪で起訴されましたが、起訴状などによると、米海兵隊員が面識のない成人女性に性的暴行を加えようと背後から首を絞めるなどし、抵抗した女性にけがを負わせました。米兵は現場から逃走しましたが、基地外にいるところを沖縄県警に逮捕されました。

 そして7月2日、沖縄県警は報道発表していない性的暴行事件が他にも3件あることを発表しました。新たに判明した3件は、軍属と海兵隊員による2つの不同意性交事件と、海兵隊員による1つの強制性交事件ですが、驚いたことにこの3事件は起訴さえされていません。もちろん県にも連絡していません。私たちにも知る術はありませんでした。

2,沖縄県議選のために事件を隠蔽し、そのために踏みにじられた女性の人権

 なぜ事件は沖縄県に知らされていなかったのでしょうか?

 昨年12月に起きた事件では、日本政府は起訴した日に外務次官から駐日米大使に綱紀粛正などを申し入れをしたとしています。けれども、最も当事者に近い沖縄県には伝えていませんでした。今年5月の事件でも県警がすぐに米兵を逮捕し、起訴の5日前の6月12日に同様の申し入れをしたそうですが、これも県には伝えていません。本当に綱紀粛正を申し入れしたのでしょうか? 県にも県民にも伝えない綱紀粛正などというのものに、果たして効果はあるのでしょうか。

 5月に起こった事件は、12月に起こった事件を県民みんなが知っていれば、ひょっとしたら防げていた事件かもしれません。

 4月10日には日米首脳会談がありましたし、より重要なこととして、6月16日には沖縄県議選がありました。玉城デニー知事を支える県政与党は過半数を割り、辺野古基地建設反対の玉城県政は厳しいかじ取りを迫られる結果となりました。米兵による性暴力事件が遂次公表されていれば、この結果は逆だったかもしれません。岸田政権は、沖縄県議選があるから、米兵による性暴力事件を隠していたのです

 子どものいる親はご存じのことと思いますが、多くの自治体では、住んでいる町に不審者が現れたら親元に即座に連絡が入る仕組みが構築されています。子どもの安全のためです。けれど沖縄では、米兵による性暴力事件が多発しているにもかかわらず、県民は事件を知ることができません。日本政府は米軍に綱紀粛正を申し入れたといいますが、県民には注意喚起も何もなしです。いったいどちらを向いて仕事をしているのでしょうか? 日本国民のための政府なのでしょうか? 米軍のための政府なのでしょうか? 少なくとも沖縄県民のための日本政府ではないということは、今回の件ではっきりしました。

 朝鮮民主主義人民共和国がロケットやミサイルを発射すれば全国民に向けてJアラートを鳴らすのに、米兵の性暴力事件のことは沖縄県民には知らせないのです。ミサイルと米兵による性暴力事件、どちらが我が子にとって危険ですか?

 なにより許せないのは、日本政府の性暴力被害者に対する著しい人権軽視です。日本政府は事件を県に伝えなかった理由として、「被害者考慮」をあげています。「公になることで被害者の名誉、プライバシーに甚大な影響を与え得ることを考慮した」と。ならば日本政府は事件被害者に対して「事件のことを沖縄県に通知してもいいですか」と一件ごとに確認したのでしょうか? そんなわけがない。詭弁もいいところです。

 日本政府は事件を隠すことによって、被害者の尊厳をも踏みにじっているのです。

3,基地がある限り性暴力事件は続く

  沖縄県警によると、沖縄の日本復帰(1972年)から23年までの間に、米軍人・軍属とその家族による刑法犯の検挙件数は6235件です。このうち現在の不同意性交等にあたる容疑での検挙件数は、少なくとも134件(検挙者数157人)。いったいどれだけの女性たちが性暴力被害に苦しんできたことでしょう。

 性暴力は「魂の殺人」といわれています。被害の在り方はさまざまですが、うつ病や解離性障害、PTSDなどの重篤な精神疾患を伴うことも少なくありません。社会復帰するまでに何十年とかかることも珍しくありません。人格を持ったひとりの女性のすべてを奪ってしまう、それが性暴力です。殺人に等しい犯罪です。

 被害当事者にとっては自分の存在すべてを抹殺されたに等しいのに、日本政府は「一人の米兵が起こした犯罪」としかとらえていません。それも国家存続に不可欠な日米安保体制にとっては無視できるほどの、ちょっとした犯罪……という程度の認識です。

 1995年9月、小学生の少女が米兵3人に強かんされた事件では、日米地位協定により日本側が逮捕状を取った米兵らの身柄を拘束できず、県民の怒りが爆発しました。その後、凶悪事件では起訴前の身柄引き渡しに米側が「好意的考慮を払う」との運用見直しがなされたものの、いぜんとしてその決定権は米側にあります。そしてそのことを日本政府はきっと、苦々しい程度にすらも思っていないのです。

 1995年の少女暴行事件の後も米兵による性暴力事件は相次いでいます。2012年10月に海軍兵2人が20代女性への性暴力事件行で逮捕されました。16年3月には観光客の女性が米兵に暴行される事件がおこり、同年4月にはうるま市の20歳の女性がウォーキング中に性的暴行の被害に遭い、その遺体が雑木林で見つかるという痛ましい事件が起こりました。21年4月にも空軍属が路上で女性に突然襲いかかる強制性交未遂事件があり、10月には海兵隊員が女性に暴行を加え、無理やり性交しようとし、けがをさせた強制性交致傷事件が起きています。

 米軍は再発防止策の実施や綱紀粛正とはいいますが、2023年は米軍関係者による刑法犯の検挙件数が前年より18件多い72件となり、過去20年で最も多くなっているというのが実態です。

4,私たちも無関心の暴力に抗して

 事件が起こるたびに、沖縄の女性たちは怒り、抗議を繰り広げてきました。今回も代表的なところでは、6月28日には嘉手納基地ゲート前でフラワーデモが行われ、7月4日には那覇の県庁前で緊急集会が開催されました。市民運動レベルで抗議が行われるだけでなく、県議会や市町村議会でも保革まきこんで意見書や決議が挙げられようとしています。デニー知事については、事件後、どれだけ外務省や防衛相など、日本政府に対して事件防止の徹底を申し込んでいることか。

 このようなできごとが起こるたびに、日本政府は少しだけ反省する顔を見せ、けれども抜本的な対策は何一つ講じてこなかったというのが実態です。なぜならば日本政府や米政府の懸念は日米安保体制の堅持であって、被害者の尊厳回復ではないからです。

 今回、日本政府は情報の伝達を沖縄県に約束しましたが、どこまでそれが担保されるのか何の保証もありません。約束してもなお日本政府は「プライバシーに照らして個別事案ごとに判断する」など言っています。日本政府に全く反省の姿勢がないことは明らかです。

 日本政府は、嵐が沖縄の中にとどまっている限り、日米安保を揺るがすような事態にはならないと高をくくっているのです。沖縄県は47都道府県のうちのひとつの経済的にも小さな県で、しかも明治新政府の琉球処分によって武力支配した植民地でもあります。現実に沖縄の人々がいくら声をあげようとも、嵐は沖縄の中にとどまり、私たち日本本土の市民たちは無関心という名の暴力で応えてきたというのが、実際のところではないでしょうか? 沖縄だけではく、日本全国で嵐を巻き起こさないと、変わらないのです。

 これは沖縄の問題であるのと同時に、女性の人権の問題です。性暴力をいかに根絶するかという問題であり、性暴力被害者の尊厳回復をいかに実現していくのかという問題でもあります。

 日本本土に住むみなさん。女性も男性も。声をあげていきましょう。この問題に無関心でいるということは、沖縄の女性たちに対する暴力装置に加担することでもあります。この問題では、私たちはいつだって、無関心の暴力によって加害者の側になりうるのです。

 米兵から性暴力を受けた女性たちがどのような辛い気持でいるのか。もちろん私たちは当事者ではないのだから被害者がどのような気持ちでいるのかは本当の意味ではわかりようがないのですけれど、想像力をもって乗り越えていきましょう。

 私たちも声をあげましょう!

 沖縄の嵐だけでは米兵による性暴力を根絶することはできない。だからこれは私たち日本本土に住む者に課せられた問題なのです。

[2024年7月24日 第186回神戸水曜デモ アピール原稿]


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