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小学校教科書が歪めた国史⑦ 安土桃山時代~他国の目線で自国の歴史を歪めた罪

 学習指導要領は戦国時代・安土桃山時代について次のように指示しています。
 「鉄砲やキリスト教の伝来、織田・豊臣の天下統一などについて調べて、戦国の世が統一されていくころの様子について理解すること」。
 子供たちが戦国大名や織田信長、豊臣秀吉らのヒーローについて学ぶことは、歴史か好きになるきっかけとなるでしょう。各社とも比較的詳しく「織豊政権」については記しています。
 しかしながら引っ掛かることがあります。それは、多くの教科書が秀吉の朝鮮出兵をことさらに大きく取りあげていることです。もちろんそれは史実であり、それによって「秀吉の力も弱められ」(日本文教出版)たことも重要ですから、教科書に取り上げること自体に問題はありません。しかし、教材の精選が叫ばれている中、統一事業に直接関係の深いことの紙数を減らしてまで、この出来事に大きなスペースを割くことには疑問を禁じ得ません。
 また、この事件に敢えて「侵略」という言葉を用い、ことさら強調していることは非常に作為的です。
 鎌倉時代の項でも触れましたが、外国によるわが国に対する明らかな侵略である元寇にはその言葉を用いず、この秀吉の出兵や近現代史の我が国の行為に対してだけは、一律に「侵略」という言葉を用いるダブルスタンダードにはあきれてしまいます。ちなみに元寇の時、侵略軍の主力は高麗(朝鮮)軍です(モンゴル人は船を作れないし、船を操れません)。わが国は朝鮮に「侵略」されたとも言えるはずですがそれを指摘するものは皆無です。教科書が謝罪バンフレットだと批判されるゆえんが、まさにこういう自虐的なところにあるのです。
 たとえぱ大阪書籍は、元寇の項では「3万人の大軍で、博多湾(福岡市)にせめてきました。御家人たちは、元軍の集団戦法や火薬兵器などに苦しめられました」と書き、比軟的冷静な筆致の光村図書も「元軍は…2度にわたって日本をおそいました…武士は戦法のちがいや新しい武器に苦しみました」とだけ記し、日本側の人的な被害には一切触れていません。ひとりも死ななかったとでもいうのでしょうか。ところが朝鮮出兵の項では、「朝鮮への侵略は、多くの朝鮮の人々の命をうばい、朝鮮の国土を荒らしました」(大阪書籍)、「多くの人々が殺され、学者や焼き物の技術者が日本に連れ去られるなど、朝鮮の人々は大きな被害を受けました」(光村図書)と、秀吉軍の悪逆非道ぶりには嬉しそうに筆が踊っています。
 もちろん、戦場となった朝鮮半島で多くの被害が出たことは事実ですが、元寇の項ではそっけなく記述しておきなから、こちらのみを強調しているのは余りにもひどすぎます。これはいったいどこの国の教科書なのでしょうか。
 自国の悪口を子供たちの頭に刷り込むような教科書は、わが国以外には見当たりません。英国の教科書では、アヘン戦争の原因には触れられていないそうです。子供に教えられるようなことではないからです。私は英国の教育者や教科書執筆者を批判しようとは思いません。ある意味、それが当たり前だからです。自虐は国民としての健全なアイデンティティの育成を阻害します。日本の教科書執筆者は、異常なマゾヒストだと断ぜざるを得ません。
 歴史は複眼的な目で見られる必要があります。いくらBLMやアンティファのテロリストが、コロンブスによる新大陸発見を否定し、現地人からすれば西欧人による侵略に過ぎないと叫んでも、世界史的に見て、コロンブスの事業を単純な「侵略」だとして完全否定するのは、歴史の理解にはつながりません。
 歴史には全否定も全肯定もありえません。黒か白か、善玉か悪玉か。歴史はそんな単純なあモノではありません。なぜそんな簡単なことが、教科書を書くようなエラい先生方に理解できないのか。私にはそれが理解できません。

※各社教科書の記述は、平成12(2000)年度版によります。
連載第99回/平成12年4月26日掲載




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