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人間になった龍『龍が如く7外伝 名を消した男』

『龍が如く7外伝 名を消した男』をクリアした(2023/11/13)ので一旦勢いのまま思ったことを書く。ネタバレもする。システム面にはほぼ触れない。

本作は『龍が如く7』の外伝という体裁をとっているが、その内実は『龍が如く6』の続編であり、やり直しだ。
「桐生一馬伝説、最終章」と銘打たれた『6』だったが、その終わり方はこれまでプレイしてきたプレイヤーにとって納得のいくものではなかった。
こうしたなか発表された『7』では主人公が交替、『6』の幕引きのまずさもあり当初は反発も大きかったが、結果として『7』リリース後は新主人公・春日一番はプレイヤーの支持を集め、受け入れられるキャラクターとなった。『7』において桐生は友情出演的なかたちで登場したが、一新された『龍が如く』シリーズにおいて彼は宙に浮いた存在だったと言える。

そんな彼が再び主人公となるということは、私にとっては嬉しさよりも困惑や懸念が強かった。桐生のことは嫌いじゃないが、大々的に新主人公を出したばかりなのに、返り咲くのが早すぎやしないか。

だが実際にプレイしてみてその印象は好意的なものに変わった。正直言ってまずかった『6』のシナリオの流れを踏襲したうえで、それが実現しきれなかったことを再びやり直し、初代から『6』、果てはスピンオフタイトルに至るまで、桐生という人物が辿ってきた道筋をゲーム中の端々に示している。「桐生一馬伝説、最終章」の銘は本作に冠すのがふさわしいのではないか?

もちろん『6』でも桐生一馬を終わらせようとしていたことはわかっている(なんなら『5』からそうだったが)。たとえば『6』のサブイベントは過去のシリーズの総決算とでも言うべきものとなっていた。だが『6』は終始、静かなゲームだった。こう言ってはなんだが、お通夜だったのだ。終始昏睡状態の遥と、彼女の息子・ハルトの父親を捜して展開される尾道でのドラマは桐生にとって死に場所を探す旅だったのかもしれないが、プレイヤーは、少なくとも私にとっては納得しきれなかった。

そういう意味では『7外伝』の敵役たちは、まさしく私と同じで伝説の死に納得いかない者たちだったのだろう。『5』のシナリオにおいて隠棲するはずだった桐生を荒くれたちが呼び戻したが如く、本作の敵役たちもまた桐生にそうそう簡単に死んでもらっては困るのだ。ゾンビを彷彿とさせる死にきれない者どもは死んだはずの男の血肉を必要とする。

『5』で桐生はタクシー運転手としてくたびれた姿をみせていたが、本作でもそれは同様にみられる。くたびれた桐生がみたかった私にとってそれはいいことだ。だが本作は『5』や『6』で描かれたある種の諦観を抱いた桐生とは少々趣を異にする。本作の桐生は意外に元気なのだ。「寺に入った」という本作の設定やムービーを見ると、心静かにしているように思えるがそうでもない。そもそも寺も住職もあくまで見せかけのものである。

ゲームの設定はこれまでの『龍が如く』シリーズのなかではダークな部類で、要所に入るシーンでは桐生が生業とするエージェントの非人道的な面が描かれている。その一方で遊べそうな部分は遊んでいる。これまでのシリーズでも馬鹿馬鹿しいサブイベントは往々にしてあったが、本作はメインストーリーでもサブイベントと見まがうようなふざけたシーンが繰り広げられる。
本来メインストーリーとは関係のない『6』までのサブイベントでの戯れや、プレイヤーから指摘されるシナリオ上のツッコミどころ、それらが積みあがった結果、桐生一馬はどこか間の抜けたところのある人というイメージを獲得した。本作はこれを戦略的に使い、メインストーリーに組み込むことに成功している。

以前、『龍が如く5』についてnoteに書いた際に、桐生の人間味のなさについて触れたことがある。『5』でようやく彼に人間味を感じた、と書いた。だが、いよいよもって本作で桐生一馬は人間となった。上述したような戦略はそのための布石だった。
外伝ということもありメインストーリーは長くないが、ほとんど形骸化したような設定でさえきちんと盛り込んで活かしてきた各種イベントは、桐生個人を描くことに注力したからこそなせた業だろう。ゲームは相変わらず戦闘中にとんかつ弁当で体力回復するタイプのベルスクだが、賛辞を送りたい。

ここに至って、直接の続編である『龍が如く8』は今もってどうなるのか未知数で、正直言ってはらはらしている。舞台はハワイ、春日一番とのW主人公ということもあり、そのトーンはかなり明るめに思えるが、こと桐生に関しては『6』のような雰囲気を感じなくもない。もしも『8』を以って桐生が終われたなら、彼は本当に人間になれたといえるのかもしれない。

『龍が如く7 外伝 名を消した男』についてはいずれまた書く。

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