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クォータビュー高難易度アクションRPG『ダークセイバー』––90年代日本産RPGのありえたかもしれない姿

『ダークセイバー』は1996年8月30日にリリースされた、クライマックス開発のセガサターン用アクションRPG。

本作は同社開発の『ランドストーカー』『レディストーカー』の系譜を受け継ぐ、現代的にいえばプラットフォーマー的なアクション要素の強いクォータービュー(斜め見下ろし型視点)のRPGである。

プロローグ
バウンティハンターである主人公「リュー・ヤー」は、仲間とともに変態殺戮生命体「ビラン」を追っていた。対象を取り込み擬態する性質を持つビランへの恐怖から、リューは誤って仲間を殺害してしまい、その心に傷跡を残す。死闘の末に捕獲されたビランは絶海の囚人島であるジェイラーズ島へ移送されることになり、その最後を見届けるべくリューも移送船に同乗する。だが航海の途中、ビランは檻を破って逃走、船内の人員を殺害しはじめた。ビランを追って甲板に出たリューだったが、時すでに遅し。何かに引き寄せられるようにジェイラーズ島に向かうビランの姿を海上に認める。ビランとの決着をつけるべく、リューもまたジェイラーズ島へ向かうのだった。

製作側は本作の特徴について、宣伝用チラシや説明書で以下の要素を挙げている。

・ポリゴンで構成されたマップと自在な視点操作
・通常戦闘(雑魚戦)がない
・通貨は存在せず物々交換が基本
・マルチシナリオを超えたパラレルシナリオ

このようにポリゴンという新技術の導入や既存のRPGとは異なる要素があることを押し出しており、実際にプレイしてみるとたしかにもあまり類例がない取り合わせとなっている。このように多くの要素を貪欲に取り入れることは、一見すると破綻をもたらすように思える。しかし本作は冒頭に述べた『ランドストーカー』を土台にしつつ、それぞれの要素が互いに補強しあうことで堅牢な作りを維持したゲームとなっている。順を追ってひとつひとつを見ていこう。

ポリゴンで構成されたマップと自在な視点操作

本作がリリースされたのはコンシューマーゲーム機でポリゴンが本格的に使われるようになった時期であり、前作的な存在である『ランドストーカー』とはひと目でその違いがわかる部分だ。『ランドストーカー』はブロック状の地形で構成された2Dフィールドだったが、本作では3Dポリゴンのフィールドに2Dのキャラクターを重ね合わせるという手法をとっている。こうした手法は同時代のゲームに数多く見られ、2023年現在でもゲームのビジュアル表現の方法として使われている。

こうしたゲームの多くはクォータービューを採用し、操作キャラクターを中心にマップの回転を行えることが共通していた。本作もクォータービューであることは同様だが、球体を1/4にしたような範囲での視点操作、ズームインアウト、フレームアウトが行えるなど、その操作方法は同時期の他のタイトルと比べると変則的なものとなっている。現在、三人称視点の3Dゲームで主流となっている、キャラクターを中心に半球状の視点操作を行う方法と比べるとこの操作方法はいささか不自由に感じる。しかし本作はこの視点操作だからこそ体験可能なギミックが備わっている。

もともとクォータービューの2Dゲームの長所はプレイヤーに立体感を感じさせられることであり、短所はプレイヤーが空間の把握をしづらいことだった。そしてその把握のしづらさをむしろ特長として捉え、ギミックとして活用してきたのが『ランドストーカー』だった。世代が移り、ポリゴンが導入可能になったことでゲームに立体感があることが当たり前になっていけば、必ずしもそのような古いギミックを使う理由は無くなる。『ダークセイバー』と同じ世代でポリゴンを用いたRPGとして『グランディア』『ワイルドアームズ 2nd Ignition』『ドラゴンクエストⅦ エデンの戦士たち』などが挙げられるが、各タイトルともにマップを回転させることで抜け道を見つけたり、アイテムを発見するというギミックが共通している。これらは立体空間であることを活かしつつ、俯瞰状態でマップを回転させることで空間把握のしづらさを解消へと向かわせるデザインとなっている。
本作でも上述のアイテム探しや抜け道の発見といった要素も取り入れてはいるが、対照的に空間把握のしづらさは据え置かれている。見づらさがギミックとなる既定のクォータービューの路線を引き継いだのだ。これはどちらが優れているという話ではなく、あくまでそのゲームに見合うデザインとして何を選んだのかという話である。

本作はある程度難度の高いプラットフォーマー型のアクションRPG、それも立体感を活用するものとして既存の路線を拡張するという手段を取った。斜め4方向移動、ギリギリの足場でのジャンプ、高低差のある場所からの落下、オブジェクトを使用した謎解きやショートカットといったものは、『ランドストーカー』を引き継ぎ、発展させたものだ。本作ではこれらの要素に視点操作が加わり、見えづらい空間を把握しようとするという行為じたいをゲームメカニクスとしている。このようなプレイヤーに制約を課したデザインは、難度の上昇とプレイヤーの熟練を促し、後述する「パラレルシナリオ」をはじめとするシステムと分かちがたく結びついている。

通常戦闘(雑魚戦)がない

本作ではマップ進行上で必要な戦闘以外には戦闘が発生しない。ストーリー上必ず戦う相手か、マップにいる一部の敵に触れない限りは戦闘はなく、シナリオ中で一度起きた戦闘は二度と起こることはない。戦闘は簡易的な格闘ゲームのようなものとなっており、ラウンドを2本先取で勝利となる。基本操作はジャンプと攻撃がそれぞれのボタンに割り当てられ、敵と逆方向への方向キー入力でガードがなされる。また攻撃ボタン長押しでゲージを貯めれば必殺技を放つこともできる。

戦闘の特徴的な要素として「キャプチャー」が挙げられる。これは最終ラウンドで敵を追い詰めた状態にし、必殺技を放つことで敵の姿と能力をリューの鎧に吸収するというものだ。以後は戦闘開始時にキャプチャーしたキャラクターリストが表示され、そのキャラクターを使用可能となる。

本作では所持しているポイントを任意のタイミングで使用することでリューのレベルを上げ、HPを上昇させることができる。ポイントは戦闘に勝利することで手に入り、戦闘結果に応じてその入手量が増減する。一般的な日本のRPG(ここでは『ドラゴンクエスト』『ファイナルファンタジー』を想定)におけるいわゆる雑魚戦は、プレイヤーがゲームを有利に進めていくうえで必要なレベル上げや所持金稼ぎの手段となる。それが存在しないということは、限られたリソースの中でプレイヤーがやりくりをする必要があるということだ。戦闘でうまく立ち回ることはポイントの使い道を広げることにつながり、戦闘の回数ではなく、その上達がゲームの難易度を変化させる。

なお、こうしたポイントの取り扱いの重要性は後述する物々交換の要素にも絡んでいる。ここまで挙げた要素をみると、初心者が攻略し難いシステムのように思えるが、実際のところそういうわけでもない。本作の難度の高さは戦闘よりもプラットフォーマーアクションの部分に比重が置かれているうえ、最初のステージの攻略時間に応じてシナリオが分岐し、早いほどに難しいシナリオに突入する。
まずアクションに慣れる必要はあるが、もしプレイヤーの操作の熟練度が低ければ、それ相応に難度の低いシナリオとなるため、戦闘面やポイント管理で苦労することが少なくなるように設定されている。

通貨は存在せず物々交換が基本

戦闘の要素で前述したポイントに絡む要素がこの物々交換の要素だ。監獄島であるジェイラーズ島では貨幣が機能しないため、「シガレッツ(タバコ)」や「ボトル(酒)」「マガジン(雑誌)」といったアイテムが実質的な貨幣価値を持っている。これらを登場人物に渡すことで情報を得ることができるほか、「レジーナ」と呼ばれるキャラクターにアイテムを渡すことでポイントと交換できる。
ゲームに慣れていないプレイヤーならばアイテムと情報を交換することもあるだろうが、基本的な使い道はポイント交換になるだろう。ポイントは、リューのレベルアップやヒントの入手、落下ミス時のリカバリーなど、ゲーム全体を通して重要な役割を果たしている。アイテムは物陰に隠れて配置されていることが多く、視点移動や謎解きをしなければ発見できないことがままある。難易度の高いシナリオならば時間的制約ゆえにアイテムを入手する機会が減り、易しいシナリオならばゆとりを持ってアイテム探索ができるため、ゲームに慣れていない内はアイテムをポイントに交換して攻略を進めていくのが本作の設計である。

物々交換の使い道がポイント交換くらいでそれほど多くないことは、問題とまでは言えないが物足りない部分でもある。通貨を廃するという選択は、舞台設定・ゲーム設計上のものであると同時に、前述の雑魚戦がないという要素とあわせて、既存の一般的なRPGに対する挑戦として試みられたものだと考えられる。

マルチシナリオを超えたパラレルシナリオ

これまで挙げた要素を包括し、支えあう関係にあるのが最大の特徴である「パラレルシナリオ」である。最初のステージである移送船内で、リューがビランを追って船長室に辿り着くまでの時間に応じてシナリオが分岐する。
シナリオはⅠからⅤまで存在するが、シナリオⅢとⅣは地続きであり、Ⅴもおまけ的な要素が強いため、実質3つのシナリオに分けられる。たとえ初回のプレイであっても、一番難しいシナリオⅢ‐Ⅳにいきなり到達することも不可能ではないが、船内の構造や操作によほど慣れていない限りは到達は難しい。そのため最初はシナリオⅠで操作に慣れたのち、再びプレイして別のシナリオを目指すことになるだろう。

パラレルシナリオがマルチシナリオとどう違うのかというと、選択肢がステージのクリア時間如何に置き換わったものと考えれば具体的な違いはあまりない。現代の視点から見た場合、2018年の『Detroit: Become Human 』や、『ダークセイバー』と同年にPCでリリースされた『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』ほど細やかな分岐をするわけではない。おそらく感覚的なものとして、船内の探索という体験全体(たとえば危険な道を通ってショートカットをしたり、アイテム入手の為の寄り道)を選択として包括し、分岐の可能性が最初の時点で閉ざされていないということを表しているのだろう。

シナリオには並行世界というテーマも織り込まれており、実質3つのシナリオではあるものの、リューたちのありえたかもしれない世界の想像をプレイヤーに促す。こうした本作のシナリオの作りは、『ダークセイバー』がポリゴンを使用した3次元的な表現を導入したことと無関係ではない。ゲームが立体化し視点を変えることができるようになったように、シナリオ上においても物事の見え方が複数存在することが示され、両者は重なり合う関係にある。

『ダークセイバー』はプレイヤーに応じて相貌を変じる

以上のように、本作は同社が『ランドストーカー』で培ったものを土台に、パラレルシナリオと立体空間を活かしたギミックを加えることで、既存のRPGの枠組みから遠ざかろうとしたゲームとして構築されている。ゲーム内に登場する舞台はジェイラーズ島のみで、キャラクターを深く語る描写も多くはないが、おおよその世界設定や人物の人となりは台詞などから窺い知ることができる。シナリオひとつひとつの長さは短めで、慣れれば数時間でクリアすることも可能だ。こうした点から本作を、プレイ時間が重厚長大化しつつあった当時のRPGに対するカウンターだったと捉えることもできる。

ゲームの外側の話になるが、本作の開発には天才プログラマーとして名を馳せ、当時のクライマックス社長だった内藤寛氏が携わっている。その一方で、テレビドラマを中心として活躍する脚本家・寺田敏雄氏がシナリオを、音楽ユニット・ELLISのベーシスト、コンポーザーである近藤洋史氏が音楽を手がけていることが当時のチラシで押し出されているのも面白い点だ。
80年代末から90年代の日本のRPGは異業種のアーティストやクリエイターがゲームに関わり、そのネームバリューが宣伝となることがしばしばあったが(例:『MOTHER』『BURAI』『魔訶魔訶』など)、ある意味では本作もその流れに追従しているといえるだろう。

なお、本作のテーマソングはアン・ルイス『恋を眠らせて』であり、ゲーム中のムービーシーンでも流れる。この楽曲は寺田敏雄氏が作詞をしており、ゲーム本編のシナリオにリンクする歌詞となっている。チラシや説明書では「ゲームの謎を解く秘密が、この曲にある。」と謳われ、あたかもゲームを解くヒントがあるように思えるが、実際には直接的な攻略の糸口といえるものではないため、広告とは若干乖離がある。逆にいえば、単体の楽曲として聴いても違和感のないものとして仕上がっており、ゲームと楽曲のメディアミックスが手探りだったことを窺わせる。

私がこのゲームのシナリオⅠ以外をクリアしたのはつい最近のことだ。これまでにも書いた通り、本作は難易度が高い。加えて私はさほどゲームが上手くなく、十数年もの間シナリオⅡをクリアできず放置していた。しかしどこかで本作のことをいつか向き合わねばならないゲームだと感じていた。なぜなら本作は失敗しても「あと一歩」でクリアできそうな、そんな気を起こさせるゲームだからだ。そして今回、一念発起して集中的にプレイしてみて、シナリオⅡからⅣまでクリアするに至った。そこで改めて本作の難易度設定の絶妙さに驚くとともに、プレイヤー自身の熟達がゲームシナリオに反映されるという試みの面白さにも気づかされた。

本作の採用したループ構造のシナリオは、現在ではゲームらしさを示す常套手段となっている。ただ本作はそれだけに留まらず、当時のゲームでまだ新鮮さを失っていなかった「視点」という要素を、シナリオにどう活かすのかが考え抜かれていた。視点を操作して物体の多面性を認知することとは、ひとりの人物が複数の主観を想像することでもある。変化する視点に応じ、複数のリュー・ヤーの変容体が現れる。そしてそれらの相がみせる物語もまた、あくまでプレイヤーが見ることのできる一側面に過ぎないのだ。

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(2023/07/10)
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