見出し画像

5.ブッタガヤ(前編)~憩いの地~

 列車に揺られ、私はブッタガヤを目指した。インドの長距離列車は、基本的に2~3の寝台が縦に並んでついている。だが、それは寝るためのもので、時間がくるまでは皆、1番下の寝台に座って過ごすのである。この日は私が列車に乗った時点ですでに深夜をまわっていたため、最初から上の段の自分の寝台にのぼり、これからの旅を考えて不安になりながらも、眠りについた。

 ガヤの駅に着いたのは早朝であった。6時間という長時間列車に乗っていた私は、疲れの残った体を起こし、駅のホームに降りた。インドの長距離列車では次の駅のアナウンスなんてなく、だいたいの到着時間から推測したり、着いた駅の名前から降りる駅を確認しなければならなかった。もし、分からないときには近くの乗客に訊いた。

 駅のホームには、コルカタの青年が紹介してくれた宿のひとが来てくれていた。彼のオートリキシャーは私を乗せて、ブッタガヤにある宿までの暗い道をを走る。ゲストハウスに着くと、彼は部屋に案内してくれた。少しのチップを渡し、彼が出ていくと、私はまた眠る。

画像1

 インドへ来て3日目の朝、目を覚ました私は無性に煙草が吸いたくなった。ゲストハウス内は禁煙だといわれたので、外へ出る。ここはブッタガヤの中心地から歩いて15分ほどの距離だが、セーナ村という村であって目の前には緑の田畑が広がっていた。私が煙草を吸っていると、制服を着た小学生くらいにの子供たちが、なんとなく挨拶をしながら目の前の道を通り、ゲストハウスの隣にある建物へと入っていった。後で聞いたところによると、ここのゲストハウスのオーナーはは学校も経営していた。

 しばらくすると、一人のインド人の男性がゲストハウスから出てきて、流暢な日本語で話しかけてきた。「ここで煙草吸ってると子供見てるから駄目だよ。こっちに行こう。」畑の裏にあった屋根の下で、私たちは話をした。彼がここのオーナーだった。オーナーも煙草が吸いたいようだったので、私は日本から持ってきていて最後のひと箱となったショートホープを一本あげた。オーナーはおっさんに見えたが、まだ30歳らしい。日本語がとても上手くて、気さくな人だ。少しすると、日本人の女性が喫煙所にやってきた。オーナーの奥さんで、一緒にゲストハウスを経営しているという。奥さんもとても優しい人で、私は次の日の朝からヨガの先生をしている奥さんのヨガ教室に出ることにした。

 ここのゲストハウスは家族経営で、オーナーと奥さん、それにオーナーの弟たちによって経営されていた。オーナーの両親も近くに住んでおり、目の前の畑を耕している。ゲストハウスの夕食はオーナーのお母さんが作って持ってきてくれていて、オーナーのお父さんは夕食の時に食堂として使っている学校の教室の土の床で焚火をし始める面白い人だった。朝食にチャイとトーストを食べ、チェックインの書類がまだだったので部屋で書いて玄関に持って行った。だが、誰もいない。私が部屋に戻ろうとしたとき、日本人の女性が他の部屋から出てきた。奥さんの友人だった。いま泊っているのは私とその人だけのようだった。数日するとスペイン人の物凄く明るいおばさんも来た。その人は前にも来たことがあるらしく、学校の子どもと一緒にお祈りをしたり歌を歌ったりと陽気に楽しんでいた。

 さて、昼に学校の屋上で子供たちとカレーを食べると、私はゲストハウスの屋上に行って大きめのベンチの上に横になった。まわりは畑だけの静かな場所。のどかな太陽。隣の学校から聞こえてくる子供たちの授業。私はこの屋上がとても好きであった。何もしなくてもいい安全で落ち着く場所。旅に出てみたはいいけど、「歩き方」も分からずに異国に翻弄されていた私を救ってくれたのは、間違いなくブッタガヤのセーナ村のゲストハウスである。優しい人たちと静かなこの屋上。私はこのゲストハウスにいるときには朝も昼も夕も夜も、時間があれば屋上で風に揺れる洗濯物と同様に過ごしたものである。

画像2

 夕食の時間になり、学校の教室へオーナーに案内される。そこにはまだあっていなかった人がいた。オーナーの親しい友人であるアルーンさん。彼の名前だけは出しておこうと思う。何故ならこの後、私はアルーンさんにとてもお世話になったからである。彼に仏跡を案内してもらったり、バイクで彼の村まで連れっていってもらって、泊まったり。アルーンさんは人が好過ぎるくらいに優しく、弱弱しくもみえるがとても頼りになる人だった。年は私より3つ上の28歳だった。村の話は長くなるので次の旅行記にまとめることにする。

画像3

 次の日から、オーナーにバイクでチャイ屋に連れて行ってもらったり、奥さんと奥さんのお友達も一緒に車に乗って有名なお寺へ行ったりと、出発前には想像していなかった展開だけど、楽しく数日を過ごすことが出来ていた。村にはトトロの木のような大きな木が生えていてそれも見に行った。皆でサモサやモモ(シュウマイみたいな料理)を作ったり、やっぱり屋上で昼寝したり。毎朝のヨガも奥さんと奥さんの友人、私の3人で2階のヨガルームで1時間くらいやっていた。ヨガは初めての体験であったから、意外にきつくて筋肉痛になった。「太陽礼拝」という基本的なポーズや「シャバーサナ」という休息(?)のポーズなどを習った。ここで習ったヨガは、旅の間、一人ゲストハウスのベットの上でやったりして、私には大切な気分転換となっていた。

画像4

 しかし、いくらゆっくりと出来る場所であっても、5日もすると飽きてきた。私はそろそろ、ガンジス河が有名なヴァラナシへ向かおうと思っていることを、オーナーやアルーンさんと話しているときに伝えた。すると、アルーンさんが自分の村へ来ないかと誘ってくれた。アルーンさんにはお世話になったし、村にも興味はあった。私は急ぐこともないと自分に言い聞かせ、アルーンさんの村へ連れて行ってもらうことにした。


次回、6.ブッタガヤ(後編)~村の生活~ 1月10日(金) 更新予定です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?