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<赤城山>雪に包まれた山で童心に帰る、初めての雪山登山

1月の休みを利用して赤城山へと行ってきた。赤城山は群馬県のほぼ中央部に位置していて、標高1828mの黒檜山を主峰に、駒ヶ岳、地蔵岳、長七郎山、荒山、鍋割山、鈴ヶ岳で構成され、日本百名山のひとつに数えられる。今回は初めての雪山登山。どこを登るかいくつか選択肢があったが、雪山入門の山としても人気のある赤城山に向かうことに決めた。必要な道具類を買い揃え、コースを下調べして、抜かりがないように準備して当日を迎えた。

●出発の朝

日が昇る前に家を出た。時刻は5時30分。起きてすぐに山の天気サイトを見て、天候の心配はないことを確認した。実際に見上げた空には雲一つなかった。ほの暗い朝は底なしに冷えていた。冷風が肌を打ち、否応なく細胞を覚醒させていく。
まずは池袋から埼京線で赤羽へ、そして、ホームにいるまばらな客に混じって、赤羽から高崎線に乗り換えた。ここから2時間弱の電車旅が始まる。こんな早朝に乗っている人達はどこへ向かうのだろう、自分のことを棚に上げてそんなことを思った。僕はザックを抱えて座り、電車は走り出した。

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群馬の前橋駅からバスに乗り換えて、一時間程で出発地点となる赤城広場BSへと到着した。赤城山は雪山として人気が高いので、バスから降りた乗客は皆同様に赤城山登山口を目指す。
その一方で僕はカーブが続く道でバス酔いをしてしまいぐったりしていた。車内では、迫り来る予感に必死に耐え、ビニール袋をこっそりと右手に握りしめながら、「まだかあと何分だ」と何度心の中で唱えただろうか。バスから降りた瞬間、すぐさま僕は空気を吸っては吐いてを繰り返して、気持ちを整えた。
少し休んで、不快な気持ちはなくなったので、いざ登山口へと僕も歩いて向かう。濃い青空ときんと冷たい風。太陽もご機嫌だ。降り注ぐ日差しがほんのりした暖かさを僕にくれる。今日は登山日和だと嬉しく思いながら歩く。視力が良くなったのかと錯覚してしまう程、見渡す景色はくっきりとしていた。

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当然のことながら山から吹き降りてくる風は東京よりも確実に冷たくて痛い。手は赤みを増し、頬にくっつけたらビクッとするくらい冷たかった。かじかんだ手がかわいそうになり、早々に手袋をはめて風からしっかりガードしてあげた。

●雪に覆われた白銀の中へ

登山口に到着した。バス停から10分ちょっと歩いただけで背中が少し汗ばんでいるのがわかる。きっと登り続けたら暑くなりそうだ。僕は中に着ていたジャケットを一枚脱いでリュックに詰めた。
スタート地点から雪が積もっているので、最初からアイゼンを付けることにした。アイゼンとは靴に取り付ける爪のこと。これがあることで、雪道でも滑らずに歩行することができる。アイゼンのバンドを靴にセットして、ラチェットをカチカチと締めながら調整する。しっかりとはめてから、雪を強く踏み込んでずれないことを確認した。そして慣らし歩行と準備体操をしてから山へと入る。
山の中では踏み固められた道を辿っていくが、そこを外れると、ずぼっと足がはまってしまうほど雪は深い。東京にも最近雪が降ったが、ここまで積もった雪の中を歩くというのは久しくない気がする。ふもとでこれくらいということは頂上ではもっと積もっているだろう。頂上から見ることができる景色に期待が膨らむ。「慌てず確実に」と自分言い聞かせ、ゆっくりと雪を踏みしめながら足を進めていく。

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見上げる空の青さはどこまでも青く、雪の白さは際立っていた。この景色を眺めていると疲れなんて忘れてしまう。肺の隅々まで行き渡らせるように空気を吸い込みながら山を歩いていく。
いくつか急登を越え、ニット帽からはみ出た髪からは汗が滴ってきた。しかし身体は火照るが、この寒風の中では今自分が熱いのか寒いのわからなくなる。熱寒い、よくわからないあべこべな刺激に脳は混乱気味だ。

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●圧倒的な絶景を前に

登り始めてから約2時間で頂上についた。思わず走って駆け寄るほど、見晴らしは素晴らしかった。澄んだ空気のため遠くまではっきりと見通すことができ、雪化粧を施した白い山脈の美しさといったら。僕は雪で一層魅惑的になった山容に魅了されてしまった。「なんて綺麗なんだ」。ダイナミックな自然に打ち震え、心が浄化されていく。僕は飽きることなく目の前に広がる絶景を見続けた。

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雪の上を小走りに移動し、あっちをもう一度、こっちに戻ってまたもう一度、同じ場所を行ったり来たりを繰り返してはシャッターを切った。
頂上の雪は柔らかく、まだ踏まれていない雪に足を突っ込んでは踏む感触を楽しんだ。雪は人を無邪気にさせてしまうから不思議だ。子どもの時以来だろうな、こんなに雪と戯れたのは。そんなことをしているうちに、足元はゴアテックスとは言え冬山仕様ではないのでじんわり足が冷えてしまった。慌てて雪をストックではたきおとしてみるが後の祭りであった。本格的に登るなら冬用の登山靴は必須と心得よう。

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時間に余裕があるわけでもないので、頂上部から隣の駒ヶ岳の方へ向かうことにした。一旦下ってからまた登って30分ほどで到着したが、ここでも見晴らしの良い景色が広がっていた。
ここからは大沼の全景が見える。小高い山々に囲まれたこの大沼はカルデラ湖、つまり火山活動によってできた湖だ。
何万年も前、このエリアは地殻変動が盛んだったという。マグマが流れる爆発の大地は、気の遠くなるような時間を経て、周囲に人が集い、街が形成され、自然の恵みを享受している。

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そう、地球は変化とともにある。今の地球には水があり空気があり風が吹くが、たまたま今はそうなっているというだけとも言える。
空がこんなに青いのも、風が火照る身体を心地良くさせるのも、真っ白い雪を指先に載せたらふわっと儚く消えてしまうのも、雲が絹のように穏やかなのも、手がかじかんで動かしづらいのも、光がつくる影も、やがて春が訪れ花が咲くのも、大空を羽ばたく鳥も、コーヒーの香りやチョコレートの甘さを感じるのも、自分がここに存在することでさえも、何もかもが当たり前ではない。この世界は無数の小さいキセキの集合体、そんなことを思う。

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赤城山、天候に恵まれたおかげで、眺望がとても素晴らしかった。条件が合えば山を覆う木々の全てが樹氷になるようだから、次また訪れるときはその光景を見てみたい。青空に広がる樹氷の群れ、さぞ綺麗なことだろう。

雪山と聞くだけでハードルが高いと思っていたが、準備を怠らずに、必要な道具をちゃんと揃えれば、登ることができると知った。

雪山の美しさは格別だった。さて次はどこを登ろうか。


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