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「鬼畜」事件判例百選

 刑事事件などでは、検察官が論告などのときに被告人のことを「鬼畜」呼ばわりしてくることがあります。そして、裁判所も被告人のことを「鬼畜」と評することがあります。
 どんな場合でしょうか。

1 「鬼畜」という表現はとても強い表現

 まず、民事事件の裁判例ですが、「鬼畜」という表現は、それがどういう摘示事実なのかという構成にもよりますが、訴訟等でも名誉棄損的表現を構成する一種として主張されやすい表現であり、非常に強い表現です。
 調べてみたところ、鬼畜という表現のみでは抽象的であり、それだけで直ちに名誉毀損になるというものではなさそうですが、前後の表現がどのようなもので、どういった事実に対して用いられているのかによっては、問題となる場合がありそうです。
 それでも、他人から「鬼畜」と言われたら愉快な気分にはなりませんよね。

⑴ 東京地裁平成30年10月10日

 【判示抜粋】
「原告について「大嘘つき」「犯罪者」であると記載され,原告の主張については「精神疾患から及ぶ所の妄想と虚言によるものであると断言できる。」などと記載されており,さらに,原告が亡両親の預金の流れを20年前に遡って調査したことについて「まさに病気のなせる技(ママ)」「親不孝もここまで来ると既に人間の領域を超越している。鬼畜である。」「病気とはいえ,金の亡者」などとも記載されており,これを読んだ一般の読者が,原告に対して精神障害のために嘘ばかり述べている強欲な者であると受け取ると認められるから,同意見書が原告の社会的評価を低下させるものであり,原告の名誉を毀損すると認められる。」


 【解説】
 「鬼畜である」という表現が含まれている一連の記載をとりあげて、名誉毀損的表現としています。ただし、他の記載内容も含めての考察なので、鬼畜だというだけで直ちに名誉毀損になるということを言っているわけではありません。

⑵ 東京地裁平成26年12月24日

 【判示抜粋】
 「原告らが名誉毀損と主張する本訴不法行為10,13及び14に係る投稿は,「ひどい」「鬼畜」などの抽象的な評価を短文で記載したものにすぎず,原告らが主張するような事実の摘示があるとは認められないから,名誉毀損は成立しない。」

 「鬼畜」との記載,・・・との書込みは,「A」との記載があることから原告を対象にしたものと思われ,本人がこれを目にした場合には一定の不快感を抱くであろうことは否定できないが,一般的にはスカイプチャット上の投稿が限定されたユーザー間でされる比較的気軽な「会話」といえるものにすぎないことに照らせば,上記各被告らがこれらの書込みをしたことによって原告の社会的評価を直ちに低下させたとか,損害賠償義務を負わなければならないほどに侮辱したとまでは認められない。」

 【解説】
 名誉毀損が成立するためには、どういう「事実」を適示したかが重要になります。「鬼畜」という用語は抽象的な「評価」であるとして、それだけでは名誉毀損が成立するものではなく、原告が主張する事実適示があるとはされていないと判断されています。また、スカイプチャットでの「鬼畜」呼ばわりは、社会的評価を低下させるほどのものではないと判断したようです。

⑶ 東京地裁平成19年4月27日

 【問題となった表現】
「X教諭の授業は,あらかじめテーマを決め,その感想を書かせ,「討論形式」で進めることは前述したとおりですが,その手順を踏んでいけば,最初に提供される資料も似たり寄ったり,学問的というより,政治的に偏ったものであり,現実との矛盾に気が付いた生徒からの質問には,さらに偏った資料を提供し,巧みに自らの政治的意図に近づけようとするこの手法は,教育者というよりアジテーターといった方が適切でしょう。こうしたマインドコントロールによって,最後には,昔の鬼畜米英と同じで「米軍全滅作戦」を主張する生徒さえ出てくるありさまです。」

  【判示】
 原告が紙上討論授業において,政治的立場に偏りのある参考資料を提供し,原告の政治的思想に反対する意見を持つ生徒にはさらに偏った参考資料を提供し,生徒に自己の政治的思想に近い意見を形成するよう誘導していたことから,原告は教師ではなくアジテーターすなわち扇動者であるとの意味で第3表現を記述したこと,また第3表現における「マインドコントロール」との語は,上記原告の指導方法を指す意味で用いているものといえる。
 そして,原告は公立中学校の教師であり,その原告をして教師ではなくアジテーターであると表現することは,原告の社会的評価を低下させることが明らかである。また,教師が政治的に偏った参考資料しか提供しない方法によって指導をしたとの事実は,教師の不適格性を示す事実であるから,原告がそのような指導をしたとの記述は,原告の社会的評価を低下させると認められる。

  【解説】
 ここでも、「鬼畜」という記載というよりは、全体的にどういう事実適示をしているのかという判断が重要になっています。

2 刑事事件において裁判所が「鬼畜」と評した犯行態様

 上記のように、鬼畜という表現はかなり強い表現ですが、裁判所が刑事事件の判決で、被告人の行為を「鬼畜」と評価する場合があります。どういった場合があるか調査してみましたが、目を覆いたくなるようなものが多く、読んでいるだけで気分が滅入りました。
 凄惨な記載に慣れていない方はここまでで記事を読むのをやめていただいた方がよいかと思います。
 以下、閲覧注意です。

⑴ 「鬼畜にも劣る浅ましい蛮行」

  【裁判年月日】広島地裁平成21年9月14日判決
  【量刑】懲役30年
  【事案の概要】
 小学校教師であった被告人が,約4年8か月の間に,その勤務先の女子児童であった計10名の13歳未満の少女に対し,多数回にわたりわいせつ行為等を行ったという,強姦46件,強姦未遂11件,強制わいせつ25件,児童福祉法違反(児童に淫行させる行為)13件からなる事案である。

  【犯行態様】
 「鬼畜にも劣る浅ましい蛮行」らしいので具体的態様は省略。

 「被告人は,このような言動を通じて被害児童らの心理に強い影響を与え,抵抗や反論ができないように仕向けたのであり,被害児童らが抵抗の意欲を削がれ,精神的に被告人の望むわいせつ行為等に応じざるをえない状況に追い込まれたことは明らかである。さらに狡猾なことに,被告人は,被害児童らに対し,明示的に口止めをしたり,わいせつ行為等の状況を撮影した写真をばらまくなどと脅迫したりすることがあったほか,同時に複数の児童に対してわいせつ行為等に及ぶことで,被害児童らに同じ秘密を共有させて犯行の発覚を防ぐとともに羞恥心を緩めさせるなどし,自らの要求に応じない児童に対しては,部活動や勉強を教えないとか,授業等の際に無視すると言うなどしており,結局,被告人は,被害児童らの人格の尊厳や健やかな成長といったことにはおよそ関心がなく,自己の一時の快楽を追求するため,多くの悪辣かつ残酷なやり方で被害児童らの心を手玉にとり,被害児童らの抵抗など気にも留めず,一方的に容赦なく,鬼畜にも劣る浅ましい蛮行を繰り返したものにほかならず,被告人には,被害児童らの成長についての教師としての使命感どころか,幼い児童らを慈しみ育てたいと願う温かな人間性も,全く欠落しているというほかない。」

⑵ 「まさに鬼畜の所業以外のなにものでもない」

  【裁判年月日】盛岡地裁平成20年10月8日判決
  【量刑】死刑
  【事案の概要】
 被告人が,夜間に,住職及びその母親から金員を強取しようと企ててその寺を訪れ,同人らを殺害し,現金約15万円を強取した,2名に対する強盗殺人の事案

  【犯行態様】
 ア 被告人の被害者両名に対する殺害行為の状況は概要次のとおりである。
 被告人は,Bが席を離れてAが一人になった際に,Aに抵抗する間も与えずに,Aの腕をつかんで引き寄せ,鋭利で殺傷能力が高い本件包丁でその前胸部を刺した。その傷は肝臓を貫く約13センチメートルにも及ぶ傷であり,Aは倒れ込んだ。
 被告人は,さらに,部屋に戻ったBがAの異変に気付いて同人のそばに近付こうとするや,その後頭部をめがけ,同所にあった灰皿をつかんで複数回振り下ろした。被告人は,部屋中を必死で逃げ回るBを執ように追いかけ,上記灰皿で後頭部を殴り続けた。その殴打の強度はBの後頭部に,皮膚とその下の組織との結合が断たれる損傷が広範囲に生じるほどのものであった。被告人は,負傷しながらも反撃しようとするAをたたきはらった上,Bに更なる攻撃を続け,本件包丁を手に取って,必死に逃げるBの前に回り込み,抵抗するBの首や胸,背中を繰り返し突き刺して,Bを絶命させた。このほかにも,Bの身体には,左手に切創及び表皮剥奪が見られ,また右手にも腕前面に貫通する刺創があるなど多数回に及ぶ刺突行為を行ったことが認められる。
 さらに,被告人は,Bを殺害した後,最初の胸への刺突行為等によりもはや立ち上がることができないAが,最後の力を振り絞って電話機に手を伸ばしているのに気付き,電話機を取り上げて,とどめとしてAの左側胸部を深く刺したというのである。
 このように,被告人の被害者両名に対する殺害行為は,極めて執ようであり,被害者両名を確実に殺害しようとする断固たる意思に基づきこれを貫徹したものと評価するほかない,冷酷非情なものである。他人の生命を一顧だにしないまさに鬼畜の所業以外のなにものでもない。Aに対する度重なる刺突行為や,高齢で身を守るすべもないまま必死で逃げようとするBに対する情け容赦のない一方的な攻撃の非情さは筆舌に尽くしがたい。

 イ さらに,被告人は,被害者両名が動かなくなったと見るや,殺害現場である居間のみならず,その西側に続く10畳間及び8畳間に入り,金庫,押し入れや家具等を開けて金品を探すといった執ような物色行為に及んだものであり,Aがいまだ絶命せず,目を開け閉めしていることに気付きながらも,Aの上半身に長座布団を掛けた上で物色を続けたばかりか,さらには自らの血が証拠として残らないように,Bの体から流れ出て溜まっている大量の血の中に手袋を浸すことまでしながら物色行為を続けているのであって,本件犯行の執ようさ,非道さや被告人の犯行完遂に向けた強固な意思を際立たせるものである。

⑶ 「まさに鬼畜の所業としかいいようのない数々の変態的行為」

  【裁判年月日】名古屋地裁一宮支部平成16年11月7日判決
  【量刑】無期懲役及び罰金15万円
  【事案の概要】
被告人が、平成14年8月から平成15年3月まで約8か月の間に、当時18歳から32歳の女性計8人に対し、自動車を利用して強盗強姦等の犯行を反復累行したもので、うち2件では奪ったキャッシュカードで現金も引き出した、わいせつ略取・強盗強姦未遂3件、わいせつ略取・強盗強姦2件、わいせつ略取誘拐・強盗強姦・窃盗・強姦1件、強姦未遂1件、わいせつ略取・強盗強姦・窃盗・強姦1件と、犯行の発覚を免れるため、ナンバープレートを盗んで自己の自動車のナンバープレートと付け換えた窃盗・道路運送車両法違反1件の事案

  【犯行態様】
具体的な態様は「鬼畜の所業としかいいようのない数々の変態的行為」らしいので省略。

「被告人はまさに鬼畜の所業としかいいようのない数々の変態的行為をしており、被害者らの味わった衝撃、恐怖、屈辱感は察するに余りある。かかる犯行態様は、被害者の人格への配慮のかけらもない、人間性を無視した卑劣極まりない執拗なものというべきである。」

⑷ 「人を人とも思わぬ鬼畜の所業」

  【裁判年月日】さいたま地裁平成14年10月1日判決
  【量刑】死刑
  【事案の概要】
被告人が、自分の愛人であるC、B、Dと共謀の上、まず、自己の経営する飲食店の常連客であったKを言葉巧みに欺いてDと婚姻させて同女を受取人とする多額の生命保険に加入させた挙げ句、トリカブト毒によって殺害し、これを自殺であるかのように仮装して三億円余の生命保険金等を詐取した事案、次いで、その約三年ないし四年後に、同じく店の常連客であったE、Lの両名を、それぞれB、Dと偽装結婚させて多額の生命保険に加入させた上、連日高濃度のアルコールを摂取させるとともに、市販の総合感冒薬及び解熱鎮痛剤等を健康食品であると偽って長期間大量に摂取させるなどしてEを殺害したが、Lについては未遂に終わったという事案、及び、被告人らがこれらの事件の容疑者としてマスコミに取り上げられていた当時、取材に来た新聞記者の態度に腹を立てた被告人がその顔面を殴りつけて傷害を負わせたという事案

  【犯行態様】
   鬼畜という表現が出てきた部分は次のとおり。

 「被告人が、更なる金銭的欲求を満たすため、K同様に独身で近くに身寄りのいないE及びLの二名を新たな標的と定め、言葉巧みにもちかけて、それぞれB、Dと偽装結婚させ、受取人をこの両名とする多額の生命保険契約に加入する一方で、E、Lを病死に見せかけて殺害するため、ほぼ同時進行の形で、一年近くにわたって、連日高濃度のアルコールを摂取させるとともに、健康食品と偽って市販の総合感冒薬等を大量に服用させた結果、Eについては殺害に成功したが、Lについては同人が病院に駆け込んだため失敗に終わったというものである。被告人は既に敢行したトリカブト事件を悔い改めるどころか、あくなき金銭欲を満たすため、更に二名の者に対する殺害計画を実行に移し、あまつさえ衰弱したEの死期を予測して共犯者と賭けを行い、その死を楽しむかのような言動をするなど、誠に人を人とも思わぬ鬼畜の所業というほかはなく、Eの死亡という結果は誠に重大である。同じ手段を反復して用いると犯行が発覚しやすいとして、健康や医薬品関係の本を読みあさり、その知識をもとに、トリカブトから一転して市販の総合感冒薬やアルコールを凶器として使用することとし、病死に見せかけることができるように長い時間をかけてじわじわと計画を進めるなど、これまでの犯罪史上に例を見ない巧妙で悪辣な犯行態様は、被告人の冷徹で非道な性格とともに、奸智に長けた著しい犯罪性向を如実に物語るものといわねばならない。」

⑸ 「まさに鬼畜の所業というほかない」

  【裁判年月日】福岡地裁平成14年6月27日判決
  【量刑】無期懲役
  【事案の概要】
 被告人が,共犯者Aとともに,被害者2名を殺害したという2件の殺人の事案

  【犯行態様】
 「被告人らは,予め気絶させておいたBを自動車ではねて殺害し,その後,その自動車の持ち主がそれを苦にして自殺したように装って同人を殺害しようと企て,被告人がいわゆるテレクラに電話して,被害者となるべき自動車の持ち主としてCを確保し,同人に予め準備していた睡眠薬を飲ませた上,被告人とAで手分けして,Bを気絶させるためのバットを持参するとともに同女を殺害するためのC所有の自動車をAが運転して,被害者両名をおよそ他人の救助を期待できないような山中にある第1殺害現場に連れ出しており,その後の予想外の事態を受けて,当初の計画の変更を余儀なくされてはいるものの,十分な準備の上で敢行された計画的犯行であるというべきである。
 そして,同所において,Aが,Bの頭部をバットで強打し,「何で,こんなことするの」とすがりつく同女の頭部を非情にもさらにバットで叩き続けた上,Cが同人所有の自動車に乗って現場を離脱しており,また,同女を撲殺することもできなかったことから,わざわざ被告人に果物ナイフを買いに行かせて,その果物ナイフでBの頸部を突き刺してとどめを刺しており,B殺害の手口は残忍で冷酷極まりないものというほかない。
 さらに,被告人らは,第1殺害現場へ連れ出したCが同所から離脱したことから,同人殺害を断念する機会を得たにもかかわらず,その後,j付近に戻っていたCを発見するや,これ幸いと,同人を殺害することとし,同人をこれまたおよそ他人の救助を期待できない山中にある第2殺害現場に連れ出し,同人の頸部に包丁を突き付けて無理心中を偽装するための遺書を書かせるや,そのまま同人の頸部に包丁を突き刺して,同人を殺害しており,これまた人命を奪うことを何ら躊躇しない極めて冷酷な犯行であり,まさに鬼畜の所業というほかない。」

 「被告人を信頼して,X宝石の仕事を手伝うことを承諾し,保険金の受取人を被告人としたまま生命保険契約が成立するように自ら保険会社に電話までしたBは,その信頼していた被告人により山中へおびき出されて,未だ20歳の若さにして,突然にしてかけがえのない生命を奪われたのであり,その無念さには想像を絶するものがあると思料される。いきなりAに頭部を殴りつけられてから被告人がナイフを買ってくるまでの数十分間,Aをただ見上げていたBの肉体的苦痛,精神的苦痛にも絶大なものがあったと考えられる。
 一方,Cは,被告人により,まさに殺害されるためだけに呼び出されたものであり,被告人に飲まされた睡眠薬で朦朧とする意識の中,第1殺害現場から離脱したものの,結局は,被告人らに発見されて,山中に連れ出され,不本意な遺書を無理矢理書かされた上,Aに頸部を包丁で突き刺されて,未だ27歳の若さにして,かけがえのない生命を奪われたのであって,やはりその無念さ並びに肉体的苦痛,精神的苦痛には筆舌に尽くしがたいものがあったとみられるところである。」

 「被告人らは,本件各犯行後,C所有の小型乗用自動車内に,B及びCの遺体を乗せたまま,車内にガソリンをまいた上火を放つとともに,Cに書かせた前示の内容の遺書を捜査機関に発見させるように工作して無理心中を装うことにより,捜査を撹乱するとともに,被告人らの目論見通り無理心中事件と誤解したマスコミの過剰な取材による遺族らに対する二次的被害を生みだしており,犯行後の情状も極めて悪いというほかない。」

⑹ 「鬼畜のごとき極悪犯人」

  【裁判年月日】宇都宮地裁平成14年3月19日判決
  【量刑】死刑
  【事案の概要】
宝飾品店にガソリンをまき散らして店舗を全焼させ,縛り上げた女性従業員6名を殺害し,1億4000万円もの宝石類を強奪したという我が国犯罪史上まれに見る凶悪,重大事案(裁判所が「我が国犯罪史上まれに見る」という評価をわざわざすることには違和感がありますね)

  【量刑の理由】
 「被告人は,女性店員らが1億円以上の取引をすることに信頼を寄せる中,卑劣にも,突如強盗殺人犯に豹変(ひょうへん)し被害者らを脅しつけて緊縛し,店舗奥の休憩室に押し込め,室内にガソリンをまき,少なくとも一人の被害者の身体目がけてガソリンを振りかけ,ガソリンに引火されるかもしれないとの恐怖の中,勇気を出して被告人を非難した店員もいたようであるが,被告人は冷酷にもライターを点火して一気にガソリンを爆発燃焼させ,現場を火の海とし,全員を焼き殺した。犯行態様は,極めて凶悪,残忍であり,他に類を見ない。」

 「被告人は,一人っ子でおばあちゃん子であったため小さいときからわがままで自己中心的であった。強い自己顕示欲から,自堕落な生活を送り,被告人の苦境を見かねた両親が全財産をなげうって被告人を救ったが,被告人は,その恩義に報いることなく,鬼畜のごとき極悪犯人に成り下がってしまった。被告人の本件犯行は,両親や同居していた家族にも重大な被害を与えている。」

⑺ 「人情のかけらすら認められない鬼畜同様」

  【裁判年月日】福岡地裁平成11年9月29日判決
  【量刑】死刑
  【事案の概要】
 被告人が車で妻を勤務先に送って自宅に帰る途中、登校時刻に遅れて登校中の小学一年生の被害児童二名を認め、車に乗せて拐取した上、同女らの頚部をそれぞれ手で締め付けて殺害し、その前後に、同女らの陰部に指先を挿入するなどして弄び、その後人通りの余りない国道沿いの山中にそれぞれの死体を投げ捨て遺棄した事案

  【量刑の理由】
 「本件犯行態様は、帰宅途中に偶然居合わせた被害児童二名を拐取するや、年端のいかない抵抗する力の弱い同女らの頚部をあたかも鶏の首を絞めるがごとく手で締め付けて次々に窒息死させ、何の落ち度もない二名ものかけがえのない無垢な命を奪ったものであり、人情のかけらすら認められない鬼畜同様の行為である。その結果が何よりも増して重いのはもとより、車で拉致され殺害されるまでの間に被害児童がそれぞれ被った恐怖感や精神的・肉体的苦痛には想像を絶するものがある。その上、被告人は、犯行の発覚を防ぐため、被害児童の死体を下半身裸のまま、まるでごみと一緒に不要になった人形を捨てるかのごとく山中に投げ捨てて死体を冒涜したものであり、極めて冷酷残忍な犯行態様である。」

⑻ 「まさに鬼畜のごとき所業」

  【裁判年月日】浦和地裁平成10年1月12日判決
  【量刑】懲役8年
  【事案の概要】
 家屋の解体等の仕事を営んでいた被告人が、自動車保険の制度を悪用し、三回にわたって、自動車事故の内容を偽ったり自動車の盗難被害を捏造するなどして保険会社から保険金を騙し取り、また実の息子の頚部を強く圧迫する暴行を加えて同人を死亡させ、更にその発覚を免れるために、同人が自損事故を起こして死亡したかのような偽装工作を施しつつ、その死体を道路脇の残土捨場まで運搬して遺棄したという事案

  【量刑の理由】
 「残土置場で仕事をしていた被告人とオートバイを運転して同所に現れた被害者次郎との間で何らかの理由により親子喧嘩が発生し、激した被告人が、次郎に対して判示のような暴行を加え、その結果同人を窒息死させたものと認められるところ、その犯行態様は、頚部という人体の枢要部を次郎の着衣の襟を含む布状の類の物で強く圧迫するという極めて危険なものであり、その結果次郎を窒息死させるという極めて重大な結果を生じさせているのであって、親子喧嘩程度のことから実の父親である被告人の手に掛かって非業の死を遂げるに至った次郎の無念さは察するに余りあるものがある。しかるに、被告人は、このような重大な犯行に及んだ後も、救急車を呼ぶ等の行動に出るどころか、我身の保身のため、あろうことかオートバイをパワーショベルで損壊する等の手の込んだ工作をした上実の息子の遺体をオートバイとともに遠方に運搬し、同人が自損事故により死亡したかのように偽装しつつ残土捨場に遺棄するという判示第五の犯行を敢行しているのであって、そこには次郎の死に対する哀悼の念など一片も窺われず、それどころか、自らの嫌疑を免れるとともに、その死を奇貨として同人に掛けられていた多額の保険金を取得しようという悪辣な意図が見え隠れしているのであって、まさに鬼畜のごとき所業というほかはない。そして、被告人は、犯行後も、その刑事責任を免れようとして、様々な工作をしたり、次々と嘘で塗り固めた不合理な弁解を続けつつ今日に至っており、自己の行為に対する反省の念は全く見られないのであって、これらの事情に照らすと、その犯情は誠に悪質である。」

3 結語

 平成以降の事件では、上記のような事件が「鬼畜」と裁判所が評しているものとして見つかりました。
 いずれも地裁判決で、高裁では「鬼畜」という表現が使われている裁判例は、昭和のものではありましたが、平成以降は不見当でした。上記のほかにも、著名事件で、極めて凄惨な事件もありますが、鬼畜という言葉までは用いられていないようであり、裁判所が被告人を「鬼畜」だと評するのはレアケースのようです。

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