牧野信一『ゼーロン』
五月に読んだ本その3。
なんとなくこれまで読んだことのない作家を読もうかと思い、牧野信一のこの短編だけ読んでみた。代表作だけあって流石の出来。
主人公は田舎へブロンズ像を預けに行こうとしている。知人の彫刻家が主人公をモデルに作ってくれたものだ。困窮の果てに家財を処分せざるを得なくなっており、彫刻家のパトロンに渡そうというのだ。
知人の彫刻家はすでに名を知られているようであるが、このマキノ氏像については、なんでこんな奴の像など作るのか、と甚だ不評であるらしい。
故郷へは馬に乗らなければ荷物を運ぶことはできない。主人公は知人の馬で、自らがゼーロンと呼ぶ愛馬を借り受けて出発する。
このゼーロン、かつては名馬だったのだが、今ではすっかりボケてしまっていて、主人公が乗っても全然思うように進んでくれない。
この老馬に乗って田舎へ進む道のりが、主人公の妄想癖によって幻想的な騎士行と重ね合わされる。
この騎士行と共に作品のキーとなるのが主人公が持っているブロンズ像で、これが自らの世間的な評価を象徴している。
これらがクライマックスでの先祖伝来の緋縅の鎧、父親の肖像画などに繋がり、地縁血縁の呪縛が主人公に迫るのだった。
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