東京都による補助金資料の実質非開示決定の是非
3月22日
暇空さんによるDV交付金に関する資料の開示請求に対し、東京都が実質ゼロ回答を行ったことが最近話題になりました。
東京都は補助金の使途をブラックボックス化しようとしている様子です。
大義名分としているのは「開示情報に基づき困窮された方々を収容するシェルターが特定され、加害されることを防ぐ」ということのようです。
しかし補助金の使途を隠しても得られるメリットは少なく、デメリットは多かろうと思いますので本稿を書きました。
実際にDV公金では公金詐取が疑われる事例があることについてもご認識の上、以下を読み進めていただけると幸いです。
1、シェルター特定の「ゼロリスク」を求めて公金の使途をブラックボックス化することについて
① 想定される「被害」
当然ながら特定個人を加害する意図をもった人物が、その加害対象の特定個人がどの団体に保護されたかを知るのは中々難しいと思われます。
東京都は特定のDV加害者ではなく、困窮する方々全般を狙う加害者を主に想定しているのだと解釈しました。
このTweetを見た限りでは、要は「全国に様々な保護施設(団体も?)は多々あるが、実際に稼働しているかはわからない。公金を受領している以上は『稼働している団体』と見なされ、稼働している団体のシェルターには被害者が収容されていると推認されるため、悪い人の標的になり得る」という趣旨だと想像します。
② 情報を秘匿することにより得られるメリット
当たり前ですが、施設あるいは団体が「稼働しているかどうか」を判断する材料は補助金の支給対象であること以外にも様々なものがあります。
「DVあるいは何らかの被害者を救済する」と標ぼうして色々な団体が活動しているわけですし、たかだか補助金をブラックボックス化したところで、「DV加害者が手当たり次第に団体をあたって標的へ加害すること」や「立場が弱い方々を付け狙う人物なんかによる被害」の防止に資するメリットはごく僅かであろうと思います。
この都議が言う「稼働しているかどうかを加害者に見えにくくする」ことが情報を秘匿するメリット全てではないかもしれませんが、私にはその他のメリットを思いつくことができませんでした。
では補助金の情報を今まで通り開示することは、シェルター特定に『100%』繋がらないと言えるのか?ということですが、もちろんこの世に『100%』確実なんてことはありません。
例えば加害者になり得る人物が団体の住所を監視し、出入りする団体職員の後をつけて、偶然シェルターを訪問するところを目撃する可能性もまったくゼロではないでしょう。
しかし、「だから一切の情報開示に応じないようにしよう」というのは極端です。
ある特定のリスクだけを『100%』取り除くことは、また別のリスクを生みます。
2、実際に顕在化しているその他リスクについて
① 貧困ビジネスの危険性
世の中には色々な貧困ビジネスが横行しています。
上記は適当に検索して出てきた報道の一つです。
もちろんこれは一例に過ぎませんが、困窮している方は常に悪い方々に狙われているということに異を唱える方はいないでしょう。
そして困窮している方を食い物にするのは「弱者保護」を標ぼうする団体であることが多いというのも事実です。
公金でシェルターという「ハコ」を持たせることは、こういった貧困ビジネスを行うことも可能にします。
もちろんどんな形態であっても貧困ビジネスは許すべきではありませんが、特に公金を原資にして行われるべきではないのは言うまでもありません。
情報開示請求によって、公金を支出された団体はどんな団体で、どんな活動をしているのか、そしてその活動が適正かどうかを市民が監視するのは重要です。
それは悪質な団体への補助金支出防止にも繋がり、困窮している方々の利益にもなるはずです。
② 既に公金の詐取が疑われる事例があること
冒頭でも挙げた記事ですが、暇空さんが資料の開示請求を行ったDV交付金については、既に公金詐取が疑われる事例があります。
その他、別の補助金の話ですが、こちらも財務諸表の動きからは公金詐取が存在していてもおかしくない事例です。
これらを不正と決めつけるわけにはいきませんが、少なくとも妥当な経理処理がなされていない可能性は一定程度ありそうです。
補助金に採択された団体に対して「市民による監視」がまったく行われないと担保することは、不正行為やいい加減な経理を助長することにもなります。
③ 「市民による監視」の重要性
例えば日本弁護士連合会のページにはこのような記述があります。
ある特定のリスクをゼロにするために行政が情報を公開しないことを認めると、それはあらゆる分野に波及するおそれがあります。
これは政治の腐敗に直結しかねない重要事象ではないでしょうか。
なぜかこの件について「市民活動」を行っている方々は沈黙していますが、是非声を挙げていただきたいと思います。
3、未だ実際には発生していないと思われる「シェルターさらし」を「予防」することの是非について
上記の通り、公金の使途をブラックボックス化するのはリスクがありますが、それを断行するだけのメリットがあるかどうかは微妙です。
色々と理由はありますが、一番は当該措置は『未実現の被害』を予防するための措置だと思われるのが理由です。
もちろん「実際に起きてからでは遅い」という論もあろうとは思いますが、現に今まで起こっていないということであれば、そもそも現実的に当該被害が本当に発生し得るのかという点から再検討が必要だと思います。
① 何故か独り歩きしている「Colaboのシェルターがさらされた」との言説について
言説のもとになっている記事はこちら。
当時、記事には周辺建物の写真が掲載されていたと説明しておられます。(今は別の写真に差し替え済み)
まず大前提として皆さんに知っていただきたいのは、Colaboはこのアパート(シェルターと呼ばれることも)の土地取得・建設のために休眠預金活用事業の助成を受けています。
そしてそのルールに基づいて多くの情報が公開されており、一定のノウハウさえあれば物件の特定はすぐに可能です。
Colaboがその秘匿性を叫んだところで「それなら何故休眠預金活用事業を使ったの?」という感想しか出てきません。
これはColaboだけではなく休眠預金活用事業の資金分配を行ったパブリックリソース財団及びホームレス支援全国ネットワークの責任でもありますが、秘匿性を重要視するのであれば、そもそも公開すべき情報の多い休眠預金活用事業とはミスマッチなので、採択したこと自体が失当です。
質問主意書でも指摘された通り、資金を分配する側のホームレス支援全国ネットワークの理事長は資金を分配される側のColaboの理事(当時)です。
その助成形態からして利益相反の典型例であり、何らかの力技によって事業の適性を勘案されずに採択されたのではないかと個人的には疑っています。
詳しくはこの記事から各記事を追って下さい。
「シェルター特定の危険性」の話題になると必ずこの話が出てきますが、が、Colaboの秘匿性が低いアパートの話は、高い秘匿性を前提に運用されているシェルターと性質が異なる点には留意が必要だと思います。
「秘匿性はほぼないけど団体は秘匿したいと思っているアパート」を特定する手掛かりになり得る写真を掲載することの是非は別の話なのであえて論じません。
② その他の「シェルターさらし」事件の信ぴょう性
それとは別に、いくつか「シェルターがさらされた」という報道があります。
しかし、それなりに関心を持って一連の流れを追っている私はこの事件を認識できていません。
上掲のTweetは3/22現在で閲覧数は約16万ビューですが誰一人としてこの事件を知っている人はいませんでした。
報道は真実ではないと私は考えています。
4、まとめ
以上より、Colaboの「秘匿性はほぼないけど団体は秘匿したいと思っているアパート」も別に住所をさらされたわけではありませんし、ましてや報道されている「秘匿性が要求されるシェルターがさらされた」事例も実在が疑わしいです。
補助金の使途のブラックボックス化が「シェルターさらし」の予防措置にならないとは言いませんが、当該事象が実際に起こっているわけではなさそうですし、また補助金の使途を見えなくしても「DVあるいは何らかの被害者を救済する」と標ぼうして多くの団体が活動している以上、その団体を付け狙って被害者に接触しようとする悪い人物たちをシャットアウトすることには繋がりません。
ある程度の調査スキルを持っている専門家として言わせてもらうと、開示資料に記載されている情報でシェルターが特定される可能性は低いです。
一方で、上記の通り「貧困ビジネス」は実際に横行しています、
また当該助成金では公金詐取が疑われる事例が実際に起こっています。
市民の監視の目を緩めることは不正を助長しかねず、長い目で見ると困窮する方々の不利益になる可能性があります。
「公金の使途を秘匿する利益」は「公金が不正利用される不利益」に繋がる危険性を孕んでいます。
二つの公益の比較衡量になりますが、私は後者の不利益の方が圧倒的に大きいと思います。
以上
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