#14 3人なのに二人きりの世界に
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珊瑚さんの部屋は汚部屋だった
酔っぱらった珊瑚さんから、なんとか部屋を聞き出し
辿り着いたものの、珊瑚さんの部屋の有様は・・・
玄関には、おびただしい靴が散乱し共同生活者が何人もいるのか?と思わせた。
とにかく靴の上で靴を脱ぎ、部屋に入り込み
珊瑚さんをベッドに横たえたはいいが
青丹と私の居場所がない。
始発の電車が動き始めるまでは、ここで過ごさなくてはいけないということでベッド横のローテーブルをギュッと壁に押しやり
散らばる衣服は珊瑚さんのベッドの上に置き
ビールの空き缶を片付けたいが・・缶を集めてもゴミ箱が無い。
キッチンはキッチンの形をした物置になっており
どこにも置く場所が無いビール缶やゴミは洗濯機の中に放り込んだ。
なんとか二人が体育すわりで並んで座れるくらいの場所を作り
足元にかけるタオルケットのようなものを1枚探し出せた。
芝居以外の身の上話も案外楽しいんだ
青丹と始発の電車が動き出すまで
する事もなく身の上話をすることに
大学生の青丹は神奈川の大学へ通う4回生。
このまま就職していいのか?と考えた時に
この劇団の募集が目に留まり入団したんだそう。
出身地は、私には縁もゆかりもない日本海側の田舎。
カモシカに出会った話、熊が出没した話も
なんだかファンタジーのような世界に聞こえて楽しかった。
夕焼けが、綺麗な場所なんだ。月白さんにも見せたいな
『寒い?大丈夫。もっとこっちに。ごめん・・。狭くない?
始発、何時だろ?1限から授業だから始発で』
なんて言葉をやりとりするうちにタオルケットの中で
密着した体を横たえる態勢になってきた。
自分の肘をまげて枕にした青丹の脇の間に
入り込むように私は膝をまげて丸くなった。
青丹が取りとめなく、田舎の景色を話してくれ
私は、その話に適当に相槌をうっていたのだが
『僕の田舎、夕焼けが綺麗なんだ夕日に当たって山の色が変わっていくのが見える場所があって、月白さんにも見せたいな』
なんて言葉が出てきた。それは、どういう意味?どう返せばいい?と思案していたら
青丹が少し真面目な口調に変わった。
『さっき、鉄黒くん月白さんの事探してたんだよ』
『・・そうなんだ』
『なのに月白さん、怒ってたでしょ?どうして?』
『頭を叩いてくるし、バカバカ言われて・・』
青丹はふっと笑って
『鉄黒くん、焦ってたからな~月白さんがいない!探してくる!って』
『大丈夫だったのに』
『でも、鉄黒くん心配してたよ』
『私、楽しんでたんだけどな~』
『本当に?知らない人にキスされてたよね?月白さん楽しかったんだ?』
見られてたとは思わなくてドキマギしてしまって
『そんな、キス、とかされてないよ。その人の顔が頭に近かったから頭に当たったかも、だけど』
と答えたら
青丹は、ふうん。と言って、私の頭のてっぺんに顔を寄せてきた。
え?え?これ、どういう状況?
どうやってやり過ごすのが正解?
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