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半自伝的エッセイ

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「チェスのレシピ」「新・チェスのレシピ」「折々のチェスのレシピ」を書いている人はどんなチェスライフを送ってきたのか。
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記事一覧

「半自伝的エッセイ(37)」定跡と素数と親知らず

ある時、急に悪寒がしてきて、立っているのも辛くなった。幸い自分のアパートの部屋にいる時だ…

「半自伝的エッセイ(36)」数式にチェスを代入する

チェス喫茶「R」にたまに来る人で、大学で数学を教えているという人がいた。皆から先生と呼ば…

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「半自伝的エッセイ(35)」2本の百合

百合ちゃんが亡くなってから三年か四年後ぐらいのことだった。百合ちゃんの、つまり私の義理の…

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「半自伝的エッセイ(34)」宇宙、代数、カラス

(前回から続く) 不眠の時間を利用して宇宙に関する本を貪るように読んでいたところ、自分に…

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「半自伝的エッセイ(33)」チェス、競艇、不眠

私がチェスを指さなくなった経緯は書いたが、チェス的なもの、つまり勝負事に対する熱望自体が…

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「半自伝的エッセイ(32)」コペンハーゲン・ギャンビット

それほど頻繁に顔を出すわけではないのだが、どうにも気になる人がチェス喫茶「R」にはいた。…

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「半自伝的エッセイ(31)」カラスのマリア・カラスと『アヴェ・マリア』、クリスマスイヴの夜

久しぶりにチェス喫茶「R」に顔を出すと、テーブル席のイスの背にカラスが留まっていた。私を見ても驚くふうはなく、むしろ首を曲げて「あなたはどなた?」と尋ねるふうだった。店にいる誰も、このカラスのことを気にしている雰囲気はなかった。 「このカラスは?」と、私はマスターに尋ねた。 「マリア」 そう答えたマスターの声をかき消すような音量で店内にはシューベルトの『アヴェ・マリア』が流れていた。 「マリアですか?」私は音楽に負けないような声で聞き返した。 マスターが説明してくれた事の経

「半自伝的エッセイ(30)」定跡とハイネケン

チェス喫茶「R」はお酒を出さない店だったが、お酒を置いていない店ではなかった。夜、常連だ…

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「半自伝的エッセイ(29)」どんぐりの経験

ある時、チェス喫茶「R」の常連さん達で、たまにはピクニックにでも行くかという話になり、マ…

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「半自伝的エッセイ(28)」アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ

チェス喫茶「R」から徒歩5分ほどのところにイタリアンレストランがあった。大通りから細い道…

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「半自伝的エッセイ(27)」チェスと将棋どちらが難しいか(3)

百合ちゃんを亡くしてから、私はもぬけの殻のようになった。その空白を埋めようと私はますます…

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「半自伝的エッセイ(26)」チェスと将棋どちらが難しいか(2)

といっても、アメリカに行くにあたってはいくつかのハードルがあった。まずは費用である。往復…

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「半自伝的エッセイ(25)」チェスと将棋どちらが難しいか

ある時、チェス喫茶「R」にいた何人かでチェスと将棋のどちらが難しいかという話になった。男…

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「半自伝的エッセイ(24)」被害者N君

このところ世間を震撼させている例の大手芸能事務所代表(故人)による性的加害事件の被害者の一人のことを私は知っている。何十年も前のことである。 いつの頃からかひっそりとチェス喫茶「R」に顔を出すようになったのがN君だった。存在感が希薄というか、大人しいというのか、とにかく目立たない青年だったが、やがて私と歳が近いこともあり、よく盤を挟むようになった。 N君はお世辞にもチェスが強いとは言えなかったが、どの局面でも時間を気にせずによく考えるのが印象的だった。そのせいで時間切れで