「半自伝的エッセイ(31)」カラスのマリア・カラスと『アヴェ・マリア』、クリスマスイヴの夜
久しぶりにチェス喫茶「R」に顔を出すと、テーブル席のイスの背にカラスが留まっていた。私を見ても驚くふうはなく、むしろ首を曲げて「あなたはどなた?」と尋ねるふうだった。店にいる誰も、このカラスのことを気にしている雰囲気はなかった。
「このカラスは?」と、私はマスターに尋ねた。
「マリア」
そう答えたマスターの声をかき消すような音量で店内にはシューベルトの『アヴェ・マリア』が流れていた。
「マリアですか?」私は音楽に負けないような声で聞き返した。
マスターが説明してくれた事の経