拝啓 エルムドア公爵
数あるファイナルファンタジー(FF)の中でも、ファイナルファンタジー・タクティクス(FFT)は異彩を放っている。
それまでのFFとは異なり、タクティクス・オウガのゲームシステムを踏襲したシミュレーションRPGだが、ジョブやアビリティ、アイテム、キャラクター等にはFF要素が盛り込まれている。
僕は当時、このFFTにドハマりした。
FFTは同時期に大ヒットしたFFⅦの影に隠れていたが、ストーリーの面白さ、バトルの戦略性、隠し要素の多さ、どれをとっても高次元でバランスされていた。
出典:SQUARE ENIX
僕は一通り遊び尽くしたら、コンプリートデータを作りたがるタイプ。
全キャラクターで全ジョブの全アビリティを完全制覇し、全てのレアアイテムを入手する。
FFTはやり込み要素も秀逸だった。
しかし、どうしても入手できない装備があった。
敵キャラのエルムドア公爵が装備している武器「正宗」と防具「源氏シリーズ」だ。
出典:CoCo13のブログ
敵キャラが身につけている装備は、基本的に「盗む」というアビリティで入手することができる。
エルムドアには「盗む」を回避するアビリティ「メンテナンス」が表記されていないが、何度挑戦しても盗めなかった。
黒本と呼ばれる攻略本「ファイナルファンタジータクティクス大全」には、こう書かれていた。
”いずれも盗める確率は0パーセントと表示されるが、このゲームでは小数点以下を切り捨てているため、実際は小数点以下の確率で盗める。気が遠くなるほど低い確率だがゼロではない。(中略)何度も何度も挑戦すれば盗むことが可能。”
「盗むことが可能」と明記してある。
「今日は3時間は頑張ろう」といった感じで、軽く50時間以上は盗みに費やしただろう。
しかし、僕はとうとう正宗と源氏シリーズを盗むことはできなかった。
それもそのはず。
正宗と源氏シリーズを盗むことはシステム上、不可能だったのだ。
当時はインターネットで情報を調べることなど出来ず、攻略本を盲信するしかなかった。
エルムドア公爵に盗みを仕掛け続けた膨大な時間は、すべて無駄だったのだ。
この事実を知った時、僕がどう思ったか。
それは怒りや落胆の感情ではなかった。
安堵と達成感だ。
もし本当に0.00001%くらいの確率で盗めるのであれば、僕はこのゲームをコンプリートしていないことになる。
僕はコンプリートしていたのだ。
おそらく実家にある僕のメモリーカードには、コンプリートされたセーブデータと、エルムドア公爵と闘う直前のセーブデータが残っている。
どちらも僕の大切なセーブデータ(思い出)だ。
出典:CoCo13のブログ
知らないということは罪ではない。
僕たちは知ろうとしていたんだから。
そうだろ? エルムドア公爵。
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