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【エッセイ】裕福な親ガチャだとて

 娘がまた父親から言葉の攻撃を受けた。
 社会人として大人の対応をしているけど、その話しを聞いた翌朝、身体中に包帯を巻いて満身創痍の娘が夢に出てきた。
 ああ、きっとこれくらいのダメージを心に受けているんだろうなと思った。
 そしてその通りに翌日から全身の肌に痛みが走っていると言う。
 思春期の頃から、ストレスを感じると、外傷もないのに肌がヒリヒリする症状が出るのだ。

 私は他人だから縁が切れるけど、父親では縁が切れない。
 結婚して籍は抜けているけど、血縁者には変わりない。
 そしてなまじ事業が成功して財産があるものだから、ことごとく仕事や生活に口出し、おせっかいなまでに関与してくる。
 韓国ドラマの金持ちの頑固親父を想像していただけたらそれに近い。(あそこまでの金持ちではないけど)
 娘だったからまだマシだけど、もし跡取り息子だったとしたら、それはもう思春期に刺されるか、海外にでも行って音信不通になるしかなかっただろうと、よく娘と話していた。
 男性社員さんにさえ、いつか刺されるんじゃないだろうかと思ったくらいだから…。

 今はとても不景気な世の中で、お金の苦労がないのは、それはそれは羨ましいことだと思う。
 私自身、若い頃は1日500円生活をしていた時期もあるので、お金のない辛さもわかる。
 それでも身体に不調は全く出なかった。
 でも10年近い結婚生活では、罵詈雑言を浴び続けて、過呼吸になったり、常に不定愁訴に悩まされていた。
 しかもその頃はちっとも裕福ではなく、並の暮らしで、子供の為に耐えていただけだったから、旨味も全くなかった。

 だから、父親の事業が成功してからの、娘が受ける待遇を、羨ましく感じる時も正直あった。
 それでも、それを恩着せがましく言われたり、やる事なす事否定されて、人格まで否定するような事を言われたら、
「金なんかいらんから口出すな!」と言いたくもなる娘の気持ちは、痛い程わかる。
 まるで心に鞭打たれて、金を与えられているようなもんだ。
 心の傷が可視化できたらいいのに。そりゃ〜血だらけで、驚くだろうな〜。

 娘は肝臓の数値が異常に高くなって入院した事が2度もある。
 それはアルコールの摂取だけではここまでの数値は出ないというくらいの、桁外れの数値。
 でも2、3日安静にしていると回復して、医者も首を傾げる始末。
 心が傷ついても、誰にもわかってもらえないから、体がそれを担ってくれるのかもしれない。
 だけど、それが自分のせいだとはちっとも思えないのは、社会的地位を築いた自負があるからだ。

 なんとかして思い知らせてやりたいと何度も思ったし、直接言った事もある。
 それに対しては、
 「なにがモラハラだ!そう言うなら裁判でもなんでも起こせ!」と唾を飛ばされるだけだった。
 そんなヤツに対して、時間もお金も労力も使うのは無駄だし、裕福だけど孤独な老後は、もうそこまできているのだから、黙っていようと娘と話し合った。
 人生の最後に、ほんの少しでも、自分の過ちに気づけることがあるのだろうか?
 
 亡くなった時には、社葬になる筈だから、もう他人である私の出番などないだろうけど、万が一参列者の方々に言葉を述べる機会があれば、言いたいことは決まっている。

 「故人は、とても短気であり、言葉の使い方を沢山間違えて、多くの皆様に不快な思いをさせてきてしまった事と思います。故人に代わってお詫び申し上げます。
 それでも、根っこの部分は善人であり、人一倍の苦労を重ねて、ここまでの会社を築き上げた事に免じて、本日は良かった点だけを思い出して、故人を偲んでいただけたら幸いです」

 では、また…。

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