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”サラリーマン”の再起動は可能か(2)

 公益財団法人日本生産性本部は12月22日、「労働生産性の国際比較2023」を公表した。OECDデータに基づく2022年の日本の時間当たり労働生産性(就業1時間当たり付加価値)は52.3ドル(5099円/購買力平価換算)で、OECD加盟38カ国中30位。労働生産性は実質ベースで前年から0.8%上昇したものの、順位では昨年より2ランク下がり、1970年以降で最も低い順位となった。

日本商工会議所

昨年末の調査。毎年のように日本の順位は低下しており慣れっこになってしまったところはあるが、改めて衝撃を受けた。日本の生産性が低い要因は、イノベーションが起きていない、付加価値商品が出せていない、デフレで価格競争、サービス業の生産性の低さ、中小企業の生産性の低さなど複合要因であると言われている。
では、上記の要素をさらに深掘りしなぜなぜ分析をするとどうなるか?要因の一つには少子高齢化の影響があるのではないかと想定される。50代以上の役職無しシニアが多く、若手が少ない会社でイノベーションや付加価値が生み出されるだろうか?
ポストオフの早期化(役職なしが増える)、定年延長(役職なしが長く滞留する)この二つの施策と、日本の企業の生産性についての因果関係は労働経済学者などの分析に任せるしかないが、直感的には50代以上の役職無しシニアが増加する会社では生産性は低下すると考えざるを得ない。

ではどうしたらいいのだろうか

前回の投稿では、すでに企業が行なっている努力は書いた。子会社やグループ会社への出向、転籍、次長、副部長などポストを増やす、専門職ポジション、などである

しかしそれも限界がある。シニアを大量に押し付けられた子会社やグループ会社は当然収益性、生産性が落ちる。会社によっては新規の取り組みを子会社やグループ会社に担わせることも多く、そちらの活力を失うことは戦略的にも、連結決算でもマイナスである。
また次長、副部長などポストを増やすことについても稟議書のハンコが増えるだけであり、業務効率を悪化させる。会議などでも毎回気を使って副部長を呼ばなければならないなど業務プロセスが面倒なことになる。
専門職ポジションは、やり方次第ではうまくワークするだろう。開発の専門性があるシニアなどは現場でもその経験を活かせることもあるだろう。ただそのようなシニアは少数だと思われる。

一方で本人側の視点ではどうだろうか

昇進は望めない、したがって給料アップは望めない。モチベーションは下がる。では転職するのか、あるいは会社を辞めるのか?

転職については、50代シニアは相当厳しいと言わざるを得ない。特に高度なエンジニアリングなどの技術を持たない人の場合は良い条件での転職は困難だろう。また転職した先でも役職定年制の会社であれば待遇は変わらない。企業の規模を落とし、大企業から中小零細に転職し役職に就けるケースはあると思うがケースとしてはレアであろうし、給与のアップは望めない。

では、いっそのこと会社を辞めてしまうか!しかしまだ子供が高校生、大学生の人も多そうである、また親が70代、80代でありそろそろ介護のコストもかかってくる。相続はまだ先である。このような経済環境では会社を辞めてぶらぶらするわけにはいかないのである。

社外副業、あるいは起業という方法はある。これについては可能性を秘めていると感じている。本稿の主張のメインであり後ほどその可能性については述べたい。

ただ、現時点では社外副業、起業を大きくしてゆく動きはそう多くないと考えている。その要因は下記ではないだろうか

  • そもそも会社の外で何をやったらいいのかわからない

  • 初めから諦めている。会社の看板抜きで自分で商売できると思えない

  • リスクを恐れている。

  • 妻が反対している

  • 部下が全部やってくれた面倒なことを独立して自分がやるのがやだ

他にもあるだろうが、最も深刻かつありそうなのは一つ目の
”そもそも会社の外で何をやったらいいのかわからない”
ではないだろうか。日本ではある統計調査によると転職経験のある人は50%と、米英の90%超えに比べると1社にず〜っといるケースがかなり多い。転職でもそうなのでましてや社外副業、企業などはさらにハードルが高いであろう。
大学を出て30年以上1社に勤めてきた人、社内の人脈は豊富で、社内の業務プロセスは熟知しているがポータブルスキルは不足している。会社の外部から一円も得たことがなく、給料が毎月入る人生に慣れてしまっている。

人事業界では自律的キャリア形成をと言われるようになってきているが、その中身は各企業において具体的になっているとは思えない。人的資本への投資は日本企業は諸外国に比べ低いままである。

このような課題に対し、日本は解雇規制を緩めて人材を流動化するべきというハードランディング路線を提唱する学者、評論家もいる。アメリカが解雇規制が緩くレイオフが普通にあり、転職も多い一方で従業員エンゲージメントレートが高く、生産性も高いという実績を見せつけられるとハードランディングを言いたくなる気持ちもわからんでもない。
ただ、人事制度とはその国の文化や歴史、労働慣習の表れであり労働者をクビにしやすくするだけでは社会的な混乱は避けられない。そもそも日本的システムの特徴である、新卒一括採用、初任給が安く生涯賃金で帳尻をあわせる給与制度、ジョブディスクリプションが機能していないこと、ジョブローテーションによる幹部への登用する評価制度などなど日本的システム総体を同時に変えられるのだろうか、それなしに解雇規制を緩めるだけでは端的にクビになり路頭に迷うシニアがふえるだけであろう。

かつて英米風成果主義を導入してうまいかなかったケースがある。それは人事システム総体の中で一部だけを英米風にしたために失敗したと思われる。日本の人事システムを本質的に変えるためには条件がある

  • 日本の人事システム総体が変わること

  • 一部の会社ではなく、市場全体が同時に変わること

例えば、一部の企業だけが解雇規制を緩めシニアをクビ切りしたとすると受け入れる側の企業が存在せず失業者が増えるだけである。また本人も終身雇用を前提として低い給与で入社したのであり不公平感はある。そう考えるとやはり、上記2条件が同時期に成立しなければシステムは変わらないことになる。そして私見では上記2条件が同時期に成立することは不可能に近いと思う。それは今の日本的人事システムが長い歴史の中で成立してきた慣習だからだ。社会学者小熊英二の「日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学」によると、明治以降や戦後の官僚制度、軍隊組織などをベースにした人事制度が日本ではフィットしたためにそれを変えることは容易ではない。

以上からも、解雇規制を緩めることでシニア層の問題は解決するのか?と考えると、それを導入したある1社はそれで解決するかもしれないが、社会全体は解決しないと思わざるを得ない。

続く











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