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「Rebirth(仮)」(16)再発

前回(15)

兄は治療を続けながらも、以前のような健康な日々を取り戻しつつありました。抗がん剤を入れている期間はしんどそうに家で横になっていることが多かったですが、体調の良い時は病気を感じさせない程元気にしていました。

私も仕事に段々と慣れ始め、兄も今後の就職について両親と話し合ったり、病気も過去の出来事かと思えたその時、それはやってきました。

「再発」


本当に何と表現したらいいかわからない衝撃でした。

悲しいのか、悔しいのか、怒りなのか、落胆なのか、そのすべてであったと思うのですが、頭の中をフリーズさせる威力がその言葉にはありました。

そして、それは兄が一番感じたことだと思います。


再発が判明してからすぐ入院になり、移植の準備に入りました。この時の移植は末梢血幹細胞移植というもので、ドナー候補は私と姉でした。

検査の結果、ドナーは姉に決まり、姉はそれまで勤めていた職場を辞めましたが、この時の兄の入院中よくお見舞いに行ってもらえて本当に助かりました。両親は仕事が忙しく、私も仕事の休みの日にしか病院に行くことができなかったので、週の半分は姉がお見舞いに行ってくれていました。
また、姉は明るい性格で、兄と友達のように話していたので兄にとっていい話し相手だったと思います。先に姉がいる病室に入っていくと、よく2人が美味しいごはん屋さんの話で盛り上がっていました。

再発の入院後、初めてお見舞いに行った時、兄がいる病棟のにおいを嗅いだ瞬間、とても暗い気持ちになりました。
ナースステーションやそこに響くナースコール、カーテンで仕切られた大部屋に、点滴を入れる機械の機械音、そのすべてがにおいを嗅いだ瞬間、鮮明に目の前に映りました。


すっかり忘れていた約2年ぶりのそのにおいに、「うわ…」と、思わず廊下を歩く足が止まってしまうほどでした。

兄のブログにも度々「戦場」という言葉がありましたが、その当時をことを思い出すと、本当にその通りだと感じます。
私たち家族も再び「戦場」へ戻ってきたという現実を、この時突き付けられました。

病室で会う兄は、私につらい顔はあまり見せず、淡々と治療を受け入れ病気と向き合っているように感じました。大部屋だったので、周りに他の入院患者さんがいる手前、あまりネガティブな気持ちを口にする気にならなかったのかもしれません。


兄の移植を間近に控えた12月のある日、仕事後家に帰ると、家の中でなぜか帽子を被った父が待ち構えていました。

「なんで帽子被ってるの?」と聞くと、
父はおもむろに「どや!」と帽子を取りました。

父の頭は坊主に刈られ、頭のてっぺんだけ一部短い毛が残された、その髪型は言うなれば「モヒカンの劣化版」でした。

「何その頭!?」と私が驚いていると、
「祥一が抗がん剤で髪抜けるやろ、ワシも一緒に戦おうと思って坊主にしたんや。でもただの坊主だとおもろないやろ?だからちょっと上だけ残してん」
「祥一笑うかな?」と父は楽しそうにいたずら小僧のような顔をしていましたが、後日父がその頭を見せた時、兄は笑っていませんでした。

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▲その時の父

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