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つながる社会の光と影 | ソーシャルキャピタルと健康 【理学療法士が解説】

人口減少社会少子高齢化社会においては、生産労働人口が少ないのですから、地域においては、互いが持っているスキルを持ち寄って助け合って生活していくことが重要になってくると考えています。

過去の記事において、患者さんや家族などの当事者、地域住民、企業、公的機関などがしっかり連携をとって(=つながって)いくことの重要性について述べています。

私は、理学療法士として、病院内で障害をもった患者さんのリハビリテーションの支援をしています。

退院後については、私個人が何かできるわけではありませんので、帰る社会・コミュニティーを意識せざるを得ません。

このような視点から、私は大学院においては公衆衛生学を専攻していました。患者さんの受け皿であるコミュニティーについて、つながりの強さの利点と、難しさについて、以下に記載します。


‖  社会の結びつきがもたらす利点


社会的な結びつきやネットワークがもたらす利益やリソース

「ソーシャルキャピタル」と呼びます

これは、人々や組織の社会的ネットワークや関係において蓄積される信頼協力の資源を指します。個人やコミュニティの健全な発展や社会全体の繁栄に寄与する重要な要素とされています。

医療・福祉においては、個人及び地域レベルの社会参加や社会的サポート(助け合い)が豊かであることは

→要介護リスクが減少
 要介護認定が減少
 認知症や死亡リスクが低い
  

などの報告があり、健康格差の緩衝要因の一つになると期待されています。


‖  ソーシャルキャピタルを醸成するには?


地域の人々がお互いに信頼し、協力することです。

・・・簡単に言いましたが、これが非常に難しいのです。

多文化共生社会:社会がますますグローバル化し、人々が多様なバックグラウンドを持つようになりました。

都市化や交通手段の発展:新しい場所で生活を気づくことが容易になり、地域を意識せずに生活できるようになりました。

情報革命:個人はより広範な情報にアクセスできるようになり、異なる視点や独自のアイデンティティや価値観を持つようになりました。

教育の変化:従来の階層的な教育から、個々の才能や興味を重視する傾向が強まり、個人の自己表現や成長が重要視されるようになりました。

これらの人々を、一まとめにすることは容易ではありません。
信頼・協力といった言えば簡単な事も、実際の達成に向けたロードマップはでは問題が山積みです



‖  ソーシャルキャピタルの負の側面とは


ソーシャルキャピタルが強いと、逆に「生きにくい」「辛い」場面に出くわすことがあります。

排他性:社会的ネットワークやコミュニティが形成されると、その内部で排他性が生まれることがあります。これにより、外部の人々や異なるグループとの交流が制限され、差別や偏見が生じる可能性があります。

偏った情報:ソーシャルネットワークが閉鎖的な場合、特定の情報がそのネットワーク内で循環しやすくなります。異なる情報にアクセスする機会が制限されることや、誤った特定の情報が、集団内の真理になる可能性があります。排他的情報なら尚更よくありません。

社会的圧力:所属しているネットワークを優先するために、自分の表現・自由を制限する場合があります。

ネットワーク内の力関係の不均衡:人が集団を形成すると、力関係の強弱が生まれます。一部の人が、他の人を支配することや、多くの利益や情報を享受することで、不平等を助長する場合があります。

以上から、ソーシャルキャピタルが強化される際には、その偏りや排他性にも注意を払い、包摂的な社会の構築が求められます。

人が集まると素敵な事も多いですが、新たな問題も湧き出てくるため、バランスを取りながら、個人の自己表現と社会全体の連帯感を両立させることが重要です。どちらも大切にすることで、より良い社会が構築される可能性があります。


■  まとめ


今暮らしている地域のつながりが悪くとも、暮らしている地域全体のソーシャルキャピタルを醸成することで、その地域に暮らす個人の健康・幸福(Well-being)指標が良好になることが明らかになっています。

一人でできることは少ないですが、手を取り合える範囲の人と協力することで、1+1を大きな値にできるかもしれません。

しかし、現代においては、つながりに伴う負の側面にも十分配慮が必要です。個人の価値観が最大限尊重され、それでも互いに手を取り合って、協力・協働できる地域づくりを更に進めていきます。

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