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【S09:COLUMN】幻視する風景

Jóhann Jóhannsson(ヨハン・ヨハンソン)が亡くなったことを知り残念に思う。
ヨハンソンのように出自をクラシックに持ちながら電子音楽とクロスオーバーしていくアーティストは一般にポストクラシカルと呼ばれている。
このジャンルは映像との親和性が高いため劇伴に使われることも多く、特にヨハンソンの作品はコンセプチャルな作りで多分に視覚的な要素を含んでいた。
例えばアルバム『IBM 1401, A User's Manual』では彼の故郷アイスランドに初めて上陸したコンピューターであるIBM 1401を実際に製作に用いており、その掠れた電子音を聴くと半世紀近い役割を終えた機械の葬送が目に浮かぶ。

大作『Fordlândia』では20世紀初頭、自動車王ヘンリー・フォードがアマゾンの只中に築こうとした理想郷がコンセプトになっている。その土地の名をFordlândiaという。
歴史的事実として、タイヤ用ゴムの生産を目的に未開の地に莫大な資本が投じられ、近代アメリカ的な計画都市が建設された。
整然と区画された居住設備、高度な社会システム、倫理的で洗練された大衆文化。
しかし蔓延する風土病、押し付けられたプロテスタンティズムに対する現地民の反発、数十年におよぶ闘争の末このプロジェクトは実を結ぶことなく終焉を迎えることになる。
放棄された近代都市をジャングルが覆っていく(実際にグーグルアースで遺構を眺めることもできる)、理想と崩壊、幻想的で心を魅かれる主題だなと思う。
衰退期にある地方都市を歩く時、このアルバムを流しているとサウンドトラックのように感じられたものだ。

ヨハンソンの音楽には彼が見ていた心象風景が表現されている。同じ風景が自分の前に広がる時、それは何か、奇跡のようだった。

text:トマトケチャップ皇帝/This Charming Man

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