小説 俺の勤め先が人殺しなわけがない! 第3話

覚醒剤は話を続けた。
「世界は二つの要素で成り立っている。例えば、善と悪、陰と陽、男と女。それらと同じように、会社は『株主』や『役員』、『管理職』、『従業員』ではなく、『資本家』と『労働者』、つまり『敵』と『味方』の二つで成り立っている。
ところが、日共が悪質なのは、中小企業経営者が労働者とともに支配階級に虐げられた存在であり、労使協調によって大企業優先の政治を転換すべきだと訴えている点にある。そして、しんぶん赤旗しか読まない党員は無邪気にそのプロパガンダを信じ込んでいる。
しかし、中小企業を優遇する税制によって大企業は過去15年間で三割減った。2004年に導入された外形標準課税では、資本金3億円以下かつ従業員300人以下の中小企業はデジタル化促進の補助金や実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)など幅広い特権を手にすることができる。一方で、今年の春闘で中小企業と大企業の賃金格差は三倍に広がった。
この事実は、中小企業経営者が決して虐げられた存在ではなく、むしろ労働組合の弱い分やりたい放題で、しかも制度的な特権を与えられているにも関わらず事業を拡大する能力がないことを意味する」
大麻は応えた。
「そう言われてみると、フェラーリやマイバッハに乗っているのは中小企業経営者ばかりだな」
覚醒剤はうなずいた。
「そうなんだ。労働者の敵はあくまで経営者であって、仮に経営者が人間的にどれだけ徳が高かったとしても、相手が経営者である限り決して和解することはない。資本主義では経営者は労働者を搾取しなければ生きていけないのだから、労働者は自分が生き残りたければ経営者を根絶やしにするしかないんだ」
大麻の顔に悲しげな表情が浮かんだ。(続く)

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