小説 俺の勤め先が人殺しなわけがない! 第2話

この小説はフィクションです。実在の人物や団体とは関係ありません。

画家の大麻は覚醒剤が語る物語に耳を傾けていた。
「それは実話なのか?」
「もちろんだ」
覚醒剤は答えた。
「俺も日共党員だけど、党が警察と組むなんて信じられないな」
「日共の兵本達吉を覚えてるか?彼は国会議員秘書でありながら、公安警察と内通していて、その後日共中央に除名された。いつの時代も党内の右派分子は裏で悪巧みしてるもんだよ」
「そうだったのか…」
大麻は感情を押し殺したような声でそう言ったが、その声には右派分子への強い怒りが感じられた。
大麻という変わった名前は、大麻の人生を決定づけたと言っていい。子どもの頃は名前が原因で同級生にいじられることも多く悩んだ時期もあったが、中学生になってからは自分の名前のルーツへの関心が勝った。そして、初めてできた彼女が持って来たTHCPを吸ったとき、大麻の中ですべてが変わった。それ以降、大麻は画家として創作活動に全精力を注ぐようになる。

ここで北領不動産の沿革を振り返りたい。北領不動産自体は1985年設立だが、小石清司はそれ以前から占有屋として札幌の街で暗躍していた。占有屋とは、競売物件に居座り続け、落札者に法外な立退料を要求するビジネスだ。しかし、1992年に暴力団対策法が施行されると、占有屋への風当たりも厳しくなる。そこで、小石清司は札幌の三大悪徳弁護士事務所(た●さき・渡部法律事務所、北●道合同法律事務所、さ●ぽろ法律事務所)と手を組んで、当時はまだ手掛けている不動産屋の少なかった任売物件を扱い始める。これが現在まで続く北領不動産のビジネスモデルである。任売物件とは、債務者が住宅ローンを返し切れなくなった物件を、債権者の同意を得て売却するビジネスだ。この商いでは債務者と直接繋がっている弁護士といかに関係を築けるかが問われてくる。その点、小石清司は幅広い人脈を誇っていたのだが、一方で現在社長を務める小石優司はコミュニケーション能力が低く、弁護士からも愛想を尽かされていることから、地元でも北領不動産が潰れるのは時間の問題だと言われている。ちなみに、小石優司は小石清司の長男で、それ以外に長女と次男がいるが、長女は覚醒剤で前科二犯、次男は精神疾患という惨状。遺伝子レベルで知性が低いのだろう。

さて、S氏と中核派が申し入れた団体交渉は三回開催された。悪徳弁護士として名高く、過去には日弁連副会長も務めた低崎暢が顧問弁護士として登場。恐らく労働事件では労働者側の代理人を務めることの多い人物で、会社側の代理人としては役立たず。高齢で認知能力が著しく低下しており、早く引退したほうがいい。一方、S氏側も全労連系の労組で委員長を務めるK氏が涙ながらに小石清司に改心を迫る。やはり全労連の活動を通して日共とは強い繋がりがあるし、同じマルクス・レーニン主義者同士である。S氏を助けると同時に小石清司の魂も救いたいのだろう。しかし、そんなS氏側の慈悲にも関わらず、北領不動産はあくまでS氏の非を捏造して責め立てるばかり。実際のところ、S氏は非の打ち所のない善人で、キリストの再臨だと噂されるほど。そんな人物を解雇するなんて、悪魔でも憑いていなければ思いつかない。団体交渉での議論は平行線を辿り、結論は労働委員会に持ち越されるかと思われたその時、北領不動産は誰も思いも寄らない暴挙に打って出るのだった。(続く)

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