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認知バイアスと筋力トレーニング

この記事は2021年4月6日に公開した内容を再編集したものです。

YouTubeやSNSなどで筋力トレーニングの情報を集める時、何を基準に情報を取捨選択しますか。

その決定には知らず知らず認知バイアスが影響を与えているかもしれません。



パワーが要のスポーツにおいて、生涯自己ベストに挑める年数は長くありません。

なぜならば加齢に伴って減っていく、はじめの筋繊維は速筋線維(大きな力を発揮する時に必要な筋線維)だからです。
つまりもし間違った情報、または個々の身体機能に合わない情報を選択し、それをもとに1年、2年とトレーニングを続けたら、その時間は・・・。
それだけならともかく、怪我のリスクに繋がったら・・・。

この記事では

  • 筋力トレーニングに関する情報を探す時、選ぶ時、決める時に影響を与えるバイアスと何なのか。

  • その情報の質となるエビデンスとは何なのか。

  • 筋力トレーニングのアドバイスを受ける時や、指導を受ける時に注意するべきことは何なのか。

この3点についてお話していきます。


1.認知バイアスと筋力トレーニング

認知バイアス(にんちバイアス、英: cognitive bias)とは、物事の判断が、直感やこれまでの経験にもとづく先入観によって非合理的になる心理現象のことである。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%AA%8D%E7%9F%A5%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%82%B9

認知バイアスには色々な種類があります。
その中でも筋力トレーニングの情報を探す際に注意しなければならないバイアスが3つあります。
それは「確証バイアス」「権威バイアス」「生存者バイアス」です。

ⅰ.確証バイアス

確証バイアスとは、自身の先入観や意見を肯定するため、それを支持する情報のみを集め、反証する都合の悪い情報に対しては無視、排除する心理作用です。

例えば、自分が何かトレーニンググッズの購入を考えている時、その商品に対して肯定的なレビューばかりを読むことです。

また、この確証バイアスが強い方は、自身の先入観や意見、信念に影響を受けるため、何か良い結果を得た時は肯定的な面のみを見る一方、悪い結果が出た時は「たまたま」「一時的なものだ」と楽観的に考える傾向があります。
そのため、変化を嫌い、過去の経験に固執し、意見、考えを変えない傾向にあります。

これらの理由により、確証バイアスはトレーニング初心者(知識も技術もまっさらな状態)に比べて、トレーニング歴が長くなることで陥りやすいバイアスだと考えます。

ⅱ.権威バイアス

「◯◯選手が使用しているから間違いない」
「有名な◯◯が言っていたから正しいに決まっている」

肩書や地位など、権威性のある人の言動をすべて正しいと思い込む心理作用を権威バイアスといいます。

私は国家資格である理学療法士免許を保有し、医療機関で長年リハビリテーションを行ってきました。その中で、精神疾患をおもちの患者様のリハビリテーションも多数経験してきました。その中で心理学も学んできました。

上記の内容は事実ですが、この肩書だけで記事を鵜呑みにしてはいけません。
つまり、私の話を信じてはいけません。

どうもありがとうございました。




冗談はさておき、どのような肩書、地位がある方の情報であろうと、妄信的になると自身で考える力を失ってしまいます。

ジムで知り合った、物凄く強くて筋肉ムキムキの人から受けたアドバイス
大会で優勝した選手がオススメしていたトレーニング方法

やるな、信じるなとはいいません。
むしろ、一度やってみるのもありです。
多くの場合、普段行っている方法から違う方法を行えば身体に新しい刺激を受けて「これは良い」と思うこともあるでしょう。
たまに誰かと一緒に合同トレーニングをすると、翌日凄い筋肉痛になったりしますよね。
とにもかくにも、権威バイアスの傾向が強くなりすぎないように、多面的に情報を読み解く思考が大事です。

ⅲ.生存者バイアス

「◯◯って人が◯◯をして強くなったから僕もやっている」
「◯◯さんが◯◯をして優勝したから、私も真似している」

生存者バイアスとは、失敗した対象(人・物・事)を見ずに成功した対象(人・物・事)のみを基準に判断してしまう心理作用です。
この生存者バイアスを説明する時に有名な話があります。

戦争中の話です。

自国の戦闘機が敵地に向かい、無事に帰還できた僅かな戦闘機とパイロット
そして、撃墜されて帰還できなかった無数の戦闘機とパイロット
帰還できた戦闘機は敵の弾を受けて穴だらけです。

そこで、次の戦闘の時、無事に帰還できるように戦闘機を強化しようと考えて、統計学者に相談します。
その学者は、よく被弾する箇所のデータをとりました。
そのデータをみた軍人はいいます。

軍「なるほど。このよく撃たれている箇所を強化すれば良いのか」
統「いいえ。撃たれていない箇所を強化すべきです」

軍人は帰還できた戦闘機、つまり生存者の情報に目を向けました。
帰還できた戦闘機が撃たれていた箇所は、撃たれても大丈夫だという裏付けです。
帰還できなかった戦闘機は、帰還できた戦闘機が撃たれていない箇所を撃たれたことで撃墜されてしまった可能性が高いのです。

これが生存者バイアスです。

そして権威バイアスや生存者バイアスの影響を強く受けている人は、こと筋トレ界、スポーツ界には多いと考えます。

「筋肉をつけると走るのが遅くなるって◯◯選手が言っていた」
「筋トレをすると運動が下手になるって◯◯先生が言っていた」
「筋トレをすると身体がかたくなるって〇〇を見ていた時に言っていた」
「高齢者には筋トレは不要って◯◯トレーナーが言っていた」など

(全て根拠のない嘘です。それを踏まえて)
さて、これらの根拠はどこから来ているのでしょうか。
そして、これらの根拠は信じるに値するのでしょうか。
それを紐解くのが「エビデンス・ピラミッド」です。

2.エビデンス・ピラミッド

競技志向的に筋力トレーニングをしていれば周囲の人達よりも「少しでも筋肉を多くつけたい」「少しでも重い重量を持ち上げたい」と思うことでしょう。
そういった気持が強く働けば働くほどバイアスの影響を受けやすくなります。
では、どうしたらこのバイアスの影響を少ない状態で情報を探すことができるでしょうか。
それは「エビデンス(科学的根拠)のレベルを基準にする」です。
そのレベルは5段階の基準にわかれます。
その5段階のレベルを、信頼度が高い順にご説明します。

①メタアナリシス/システマティック・レビュー
メタアナリシスは複数の研究結果(ポジティブな結果だけではなくネガティブな結果も含む)を統合するための統計解析で、システマティック・レビューは質の高い臨床研究を調査し、エビデンスを分析・統合したものです。
欠点は、研究結果の質が良いRCTのみを集めたものであれば強力な研究手法となりますが、エビデンスレベルの低い研究結果ばかりを集めた場合、当然、質も悪いものとなります。

②RCT(ランダム化 比較試験)
対象者の選定がランダムに行われます。さらに研究者にも介入がわからないようにしたうえで、その効果を検証します。それにより、その介入は効果があるという対象者の無意識な思い込みを排除することができます。

③NRCT(非ランダム化 比較試験)
RCTでは対象者の選定、グループ分けをランダムで行いますが、NRCTでは対象者の選定がランダムに行われません。そのため恣意的に対象者が選定される可能性が高く、それにより結果に影響が生じる恐れがあるためRCTよりもエビデンスレベルが低いとされています。

④観察研究
観察研究は言葉通り、対象者に積極的な働きかけを行わず、ありのままに起こることを観察、記録し、その結果を分析するものです。そのため、RCTやNRCTのように対象者に対して介入し、研究を行って得た結果のほうが観察研究に比べて質が高いと判断されています。

⑤総説・専門家の意見や考え
言葉の通り
「私の経験では◯◯をすると良い反応があった」
「◯◯に対しては◯◯すると良かった」
「私は◯◯をしてから強くなった」
といった臨床経験や体験談のことです。

さて、我々がYoutubeやSNSでよく見る情報で多いエビデンスレベルはどれでしょうか。
そして、先述した「◯◯が言っていた」というのはこのエビデンスレベルでいうと、どこに位置するでしょうか。

ここまでご覧いただいた方は、この時点で、我々がどういった情報を一番よく目にし、どういった情報に囲まれてトレーニングしているのか気づいたと思います。

ⅰ.情報の主語

では常に今見ている情報の出所を事細かく探さなくては駄目なのかといえば「ノー」です。
細かく調査するのは専門家が行えばいいのです。

情報の主語が何なのか、誰なのかだけは見るようにしてください。

「◯◯が言っていた情報では・・・」

①「◯◯」が何なのか、誰なのか

②その情報は存在するのか

③どのような研究だったのか

当然、①から②、②から③と知れば知るほど、その情報の信憑性がわかりますし、バイアスの影響も弱まります。
しかし②まで出来ても、③は読み解く力が必要のため大変です。

せめて①その情報の発信者、発信元が何なのか、誰なのかだけは見極めてください。
権威バイアスや生存者バイアスの影響を受ける可能性が高いですが、そもそも「◯◯してから強くなった」「◯◯してから筋肉がついた」と、主語が個人の体験や経験したことであるならば、既にエビデンスレベルが低い情報です。

ⅱ.なぜなぜ期

では、身近にトレーニングのアドバイスをくれる友達がいたり、トレーナーやコーチから指導を受けている場合はどうしたら良いでしょうか。

  • Why: なぜこの目的を達成したいのか(目的)

  • How: その目的をどのように解決するのか(戦略)

  • What: 何をやるのか(戦術)

この3つが明確になっている指導なのかを見て下さい。

具体的な方法は、なぜなぜ期の子供のように質問を繰り返してください。
それを繰り返すことで今のアドバイスが、指導が、そしてその指導者が信じるに足るのか判断できます。

例えばベンチプレスで肩が痛いとして、どうしたら痛くないベンチプレスが出来るのかを指導されたとします。
その指導に対して
「なぜベンチプレスで肩の痛みが起きるのか」を説明出来るのか。
「この肩の痛みはどのようにしたら軽減するのか。それはなぜなのか」を説明出来るのか。
「具体的に何をしていけばいいのか。なぜそれが良いのか」を説明出来るのか。

質問を繰り返し、明確な答え、つまり経験や体験ベースの答えではなく、それを裏付けるデータだけでなく、解剖学、生理学、運動学などを交えて納得の行く答えが返ってくるかで判断してください。

3.さいごに

昨今の筋トレブームによってトレーニーの数は増え、YoutubeやSNSでは沢山の情報が発信され、トレーニー同士の情報交換が盛んに行われるようになりました。
また、ジムやパーソナルトレーニングジムも数多く出来ました。

そういった沢山の情報に囲まれた中で、それを選ぶ際のバイアスの影響を減らし、エビデンスや基礎医学を基準とした情報の取捨選択とトレーニングができる力を身につけることは専門家にとっても大変なことです。
だからこそ情報を受け取る側も、ある程度の基礎医学を身につけ、情報を読み解く力をつける必要があるのかもしれません。

【情報検索に役立つサイト】
Pub Med
J-STAGE
Cinii


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