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GREE共同創業者/KII代表「山岸広太郎」が薦める10冊。”読書は世界を捉えるスコープを広げる”

(この記事は2019年に作成したものを再掲載しております。)

業界のトップを走る「プロフェッショナル」が薦める本とは?CNETの立ち上げ、そしてGREEの共同創業、現在はKII(慶應イノベーションイニシアティブ)代表を務める山岸広太郎氏。山岸氏が実際にキャリアの中でどのように学び、どのような本を読んできたのか、そしてキャリアに活きた書籍をご紹介する。

山岸広太郎(やまぎしこうたろう)
神奈川県横浜市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。
慶大卒業後は日経BP編集記者、CNET Japan編集長などを経て、2004年12月、グリー共同創業し、同社副社長を10年間務め、現在は同社取締役(非常勤)。
2015年12月、母校慶應義塾大学のベンチャーキャピタルである慶應イノベーション・イニシアティブを設立。同社社長に就任する。

あらゆるステークホルダーに共感してもらうために大義名分を掲げる

サービスや会社に勢いを出していく上では、「大義名分」が大事だと思います。これからの時代は、損得だけでなく、共感で人が動くようになります。会社を成長させる上で巻き込まないといけないステークホルダーにいかにして共感してもらえるかがますます重要になっていきます。
これは僕がこれまで色々やってきた結果として感じていることです。チーム作りから投資家との関係作り、そしてお客さんや応援してくれる人を巻き込むためには、取り組みに共感してもらう必要があります。CNETとGREEの時は自覚的にはやっていませんでしたが、時代の流れが後押ししてくれました。
最近は、自覚的に大義名分を発信し、「この人は本当にこれをやりたいんだな」と思ってもらえるように言行一致する行動を意識しています。KII(慶應イノベーション・イニシアティブ)では、「大学の成果を活用して革新的な新事業を創造するスタートアップに投資を行い、新産業を創出し、社会の発展に貢献する」を掲げています。
そのため、私自身も直接投資に関係なくとも、大学やスタートアップを盛り上げることに繋がる行動をしています。終始一貫したインテグリティのある行動を取ることで、周りの人にも応援してもらえると考えています。

事象を構造的に理解し、それをハックする方法を模索する

私は、事業を作るプレイヤーの1人として、「事象がどういう力学で動いているのか」、「みんなはどういう考え方をしているのか」、「どんな法則が存在するのか」を考え、状況や問題、自分の周囲を出来るだけ構造的に理解することを意識しています。そして、ベーシックとなる法則を理解した上で、それをハックする方法はないか、ショートカットする方法はないかを考えています。
私の性格的に、元からそういった考え方をするのが好きでした。とにかく言われたことをやるのが嫌いです。「なんとなく習慣だから、業界の慣習だからこうでしょ」みたいなものをそのまま受け入れるのが好きではありません。それに対して、「なんでそうなっているんだっけ?別にそうじゃなくても良いのではないか?」という問いを立てて、根本から見直し、それにチャレンジするのが好きです。
基本的にルールに従うのは生きづらいです。もちろん、そのルールに理由があることや踏み外さない方が良いこともあります。
例えば、私は運転するときには、できるだけ左車線を走るようにしています。2、3車線ある道路は大体一番左車線が空いています。左車線を走っていると路上駐車などがあるので、みんなは左を走りませんが、私はスムーズに走れるポイントまで左側を走り続けて、その手前で右側に入ります。
みんながやっていることを批判的な視点で考え、余地があればハックします。こういうのをズルいと思うか、セコいと思うか、合理的と思うかは人それぞれだと思います。私自身は人の迷惑にならなければセコくても早く移動したいので、右車線の車の流れを妨げずに上手く走れる自信があるときは左車線を走ります。そもそも、左車線がずっと走れるところでも右車線に車がかたまる傾向があるので、多くの道では、もっと多くの車が左を走ったほうが、右車線も空いて良いはずです。
自分の性格がそもそもそうなっているのもありますが、事象を構造的に理解し、それをハックする方法を模索することは事業を作る上でも活かされています。

大学時代に身につけた論理的な思考法がとても活きている

今振り返ると、大学時代の学びはとても活きていると思います。ロジカルシンキング、クリティカルシンキング、思考の整理や考える技術などです。これらは大学生活の中で、本や演習、活動発表で身につけたものです。大学時代にベーシックな自分のスキルとして、論理的な思考法を身につけましたが、それが今でも役に立っていると思います。それが私の人生の中での強みになっています。
それを身につける方法としては、昔からある『ロジカル・シンキング』などのロジカルシンキングやクリティカルシンキング系の本を何冊か読んで、その本についている演習を徹底的にやるのがいいと思います。


社会に対して「こうあるべき」という考え方の軸が述べられている本を読む

私が人に薦めている本は3冊あります。『学問のすすめ』『文明論之概略』『金持ち父さん貧乏父さん』です。これらの本は、社会に対してこうあるべきという考え方の軸を述べており、その考え方が好きです。

『文明論之概略』は、特に智徳の弁に関して述べられている部分が好きです。徳は大事であり、基本的にみんなそれは否定しませんが、同時に智性、物事を考えて理解する動きがなければいけないと述べています。つまり、徳が高くても無知だったら徳がないのと同じということです。
またその中でも福沢諭吉は、智と徳を4つに分けています。私徳と公徳と私智と公智です。私徳は「人間としてちゃんとしてますね、律儀ですね」ということを指し、公徳は「公の中で公正か」ということです。
日本では内側で良いことと社会にとって良いことがずれることがあり、それが原因で大企業の不正が起こることがあります。本人は悪気はないんですよね。私徳と公徳はそういったことを指しています。
私知というのは、「いわゆる頭が良いこと、勉強ができること」です。公知というのは、「今の世の中で何が一番大事なのかを判断し、優先順位をつけられること」です。たとえ、非常に頭が良くても、今の社会にとって何が必要なのかを認識していなければ意味がなく、福沢諭吉は、公知が一番重要だと言っています。

私はまさにその通りだと思います。例えば、政治家や偉い人が失言したりするのも、今の社会がハラスメントを許さないのにも関わらず、ハラスメント型男性優位の立場で発言していいと昔の価値観のままであるからです。この本は明治初期に書かれたものですが、今の社会にも当てはまることはたくさんあります。文明論之概略は明治初期に書かれた本なので、そういう意味でいうと日本はあまり変わってないんですかね(笑)。
『金持ち父さん貧乏父さん』は、世の中の「良い会社に入って給料を上げていく」という価値観に対して、問題提起をしています。その価値観に対して、お金に支配されない、左右されないために、お金を自分のために働かせる在り方が述べられています。

あとは冨山和彦さんと橘玲さんが出す本は大体読みます。中でも面白かったのは、冨山さんだと『なぜローカル経済から日本は甦るのか』で、橘玲さんだと『幸福の「資本」論』ですね。基本的に、福沢諭吉も冨山和彦さんも橘玲さんも、合理的思考で現状に対して批判的意見を述べています。本来あるべき姿であったり、日本の良くないところや、こうするべきであるといったことを述べており、これからの時代を生きていく上で個人が頭に入れておくべき思考の枠組みだと思います。


世界を捉えるスコープを広げる

私が読書をする理由は2つあります。
1つ目は、ベーシックな思考力を鍛えたり、演繹的に使える思考の引き出しを増やすためです。業界や領域、業種による定石や、そこに存在する方程式、実務上のレファレンスとなるような視点です。MBA的な経営の定石、3C4Pやファイブフォース分析といったフレームワークが、ある程度頭の中に入っていると、状況に応じて事象を整理できます。また、ファイナンスの知識や会計なども実務上のレファレンスとして持っています。
もう1つは世界を捉える切り口を広げるためです。世界を捉える自分のスコープを変えるという意味で面白かったのは、『ファクトフルネス』『遅刻してくれて、ありがとう』『21世紀の資本』『グローバル・スーパーリッチ』です。
ただ、そもそも即刻仕事に役立つ本は少ないし、ほぼないのではないかと思っています。

※インタビューをもとに作成
インタビュー:青木郷師、文章:石井弦



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