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宮田昇始が語る SmartHRの原点とポールグレアムの言葉 “諦めないようにするだけで、驚くほど遠くへ行ける”

(この記事は2020年に作成したものを再掲載しております。)

業界のトップを走る「プロフェッショナル」が薦める本とは?読書をもっと面白くする実名ソーシャルリーディングアプリReadHubが、独自インタビューをお届けするReadHubTIMES。

「社会の非合理をハックする」をミッションに、人事労務領域のSaaSを提供するSmartHRを引っ張る宮田昇始氏。宮田氏がSmartHRの原点と着想当時に救われたという記事について語る。

※インタビューはオンラインにて実施させていただきました。

<経歴>
株式会社SmartHRの代表取締役CEO。2013年に株式会社KUFU(現SmartHR)を創業。2015年に自身の闘病経験をもとにしたクラウド人事労務ソフト「SmartHR」を公開。登録企業数は公開後4年で20,000社を突破。2019年にはシリーズCラウンドで海外投資家などから62億円の資金調達。

SaaS、スタートアップ、ファイナンスの記事を、スキマ時間に効率的に

ーー今回はインタビューをお受けいただきありがとうございます。早速ですが、宮田さんはマンガを読むのが好きとお聞きしましたが、経営などの仕事に関する本は読まれますか。

宮田:実はビジネス関連の本を読むのが得意ではなく、読むとしても目次から気になる章だけを読んでいるという感じです。反対に、マンガは電子書籍を利用するようになってからは、これまで以上に気軽に読めるようになり、月に50冊くらい読んでいます。

また、Twitterをよく利用するのですが、そこからの派生でブログ記事をよく読みます。こちらは、1日3,4本は読みますね。ちょうどさっきは、SmartHRのエンジニアが書いた記事を髪を乾かしながら読んでいたのですが、そのくらい気軽にスキマ時間で読めるのがブログの良いポイントだと思います。

SmartHRに関する記事はもちろんですが、SaaSやスタートアップ、ファイナンスなど、経営に関わる分野についてもよく読みます。ベンチャーキャピタルや経営者の方がツイートした記事をチェックすることが多いですね。

すぐに活用できるTipsはすぐにやる。すぐにできないものはTo Doリストに

ーーでは、まずは読まれるブログ記事について聞かせてください。ブログで得た知見は具体的にどのようにして活かすのでしょうか。

宮田:すぐに活用できそうなTipsは、できるだけすぐにやってみることにしています。考え方のフレームワークとかは、どんなに有益なものだとしても忘れてしまいがちなので、忘れないうちに身につけてしまおうという狙いです(笑)。

すぐにできないものは、忘れないようにTo Doリストに入れておいて後から思い出せるようにしています。

ーーこれまでに読んだものの中で、具体的に自身の行動を変えた記事や印象に残っている記事を教えていただけると嬉しいです。

宮田:最近だと、リーマンショック後のSaaSビジネスに対する影響についての記事はとても参考になりました。具体的には、「短期的には成長率は緩まるものの、成長が止まるわけではない。ただし、その成長率が戻るまでには数年かかる。」といった内容でした。

これを現在のSmartHRの状況と合わせて考えてみると、このコロナウイルスの不況に対して、過剰に守りの姿勢に入る必要はない。そして、世間では人事採用や広告などに積極的な企業が減ることが予想できたので、むしろ投資をゆるめずにチャンスとして活かしていこうという判断につながりました。

壮絶なピボットの日々とSmartHRの着想

宮田:SmartHRの事業プランに辿り着くまでの、一番苦しかった時期に読んだポールグレアムの記事「死なないために」(の和訳記事)は、今でも定期的に読みかえします。

この記事では、シリコンバレーのVCであるYコンビネーターを立ち上げ、多くのスタートアップを見てきた著者が、「スタートアップのうち半分は死ぬ。だけど、その原因の大半は資金切れではなく、諦めたことにある。逆に言えば、諦めさえしなければ成功できる。」と、とにかく「あきらめるな。」と訴えかけてくるんです。

後から振り返れば、SmartHRに辿り着いた時には、会社の残高も個人の残高も約10万円。翌月には娘が誕生するといったタイミングでギリギリでした。諦めないことが重要であることは頭ではわかっているのですが、やっぱり精神的に厳しくなると諦めることがチラついてきたことを今でも覚えています。

オフィスからの帰りの電車の中で、毎日この記事を読んでは励まされていました。とても印象的な記事ですね。

あと、実はSmartHRの事業は、世に出したものの中では3つ目の事業、お蔵入りしたものも含めると12個目の事業だったんです。その裏には、Yコンビネーターに日本人で初めて参加した福山太郎(当時AnyPerk、現在Fond)さんの存在がありました。

福山さんは、僕たちが参加していたシードアクセラレータの卒業生でした。度重なるピボットの後、やっと資金調達を成功させたサクセスストーリーを当時僕たちも読んでいたんです。

ちょうど2つの案をクローズした後くらいに、このサクセスストーリーを知ったので「彼らが10回ピボットしてやっとのことで成功したのだから、僕たちもあと10回はやり切ろう」と覚悟を決めました。そして10回目でやっとSmartHRに辿り着いたんです。ただ、実は後日、福山さんの記事を読み返してみると、ピボットの回数は6回でした(笑)。

AnyPerk(現在Fond)の回数を参考にしていたので、6回だと知っていたらSmartHRが生まれていなかったかもしれないと考えると面白いですよね。いわば勘違いが生んだ幸運だったかもしれません。

会社の課題を解決するブログを書く

ーー壮絶ですね。そして、大きな影響を与えられた記事がたくさん。宮田さんご自身もブログを更新されていますが、その際に意識されていることはありますか。

宮田:意識していることは大きく分けて3つあります。(①)会社の課題を解決する内容であることと、(②)読んだ人の学びになることと、(③)社内の人にも読まれる記事であることです。

(①)印象的なのは、約2年前に書いた「SmartHR が組織運営で一番大切にしていること」(2018/2/15投稿)です。これは「人事企画の人材を募集したい」という時に書いたもので、結果から言えば次の日には3人の募集に対して、約80件の応募があったんです。

(②)ただただ文章を書いているだけでは人に楽しく読んでもらえない上、拡散もしてもらえず届いて欲しい人に届かなくなってしまいます。そのため、他の企業の方が読んでも組織運営に参考になるよう、心がけました。

また、良いことばかり書いているのではないかと疑問を持たれないように、Slackの使用状況のアナリティクスなどの客観的な情報も載せました。(③)そして、社内の状況と乖離が生じないように、実際の状況に合わせて書くように意識しています。

“とにかく外に出ろ。”

ーー本についてもお話を聞かせてください。あまりビジネス関連の本は読まれないとのことですが、これは参考になったと思う1冊があれば教えてください。

宮田:『Running Lean』は、ピボットを繰り返していた時期も、SmartHRの事業プランにたどり着いてからも、ヒアリングの手法などでとても参考になりました。スタートアップにおいて欠かせない、課題やプロダクトの検証手法などが実践的に書かれています。

この本に出会うまでは、「10回挑戦をすれば1回くらいは当たるだろう」というマインドでした。でも、1案を検証するのに1年かかるとすれば、それだけで10年もかかってしまう。その結果が出るまでに耐え切れるのかというと、おそらく難しいですよね。

『Running Lean』は、できるだけ早いスパンで失敗を積み重ねてしまう、そのスパンが短ければ短いほど、良い事業プランに出会えるというものです。

「とにかく外に出ろ」と。ヒアリングは、自分たちのアイデアが否定される可能性もあるので、怖い行為でもあります。ついつい、ヒアリングに行かない言い訳を考えてしまうんですが、その言い訳をすべて潰すように書かれていましたね(笑)。

徹底的な課題・ソリューション検証

ーーSmartHRの着想の前にもヒアリングには行かれていたのですか。

宮田:はい、ピボットを繰り返していた時にはたくさんヒアリングに行きました。本に書かれていたことをそのままやったわけではないですが、ファクトを聞き出す方法などのエッセンスを得たイメージです。

1週間に1案を検証する繰り返しでした。土曜・日曜・月曜で、リサーチなどから課題などの仮説を組み立てる。そして、火曜・水曜でヒアリングできそうな人にアポを取り、動くモックを作ってみる。そして、木曜・金曜で課題の検証を中心にヒアリングし、金曜の夜にチームで議論をする。このループをひたすら行っていました。

今でも、SmartHRの案でヒアリングにいった時のことは覚えています。SmartHRは人事労務に関するサービスなので、ヒアリング内容は「入社手続きは誰がやっていますか?」「役所に行く担当者は決まっていますか?」「役所に行って帰るまでの時間はどのくらいですか?」などでした。

すると、質問に答えるだけでなく、聞いてもいないのに、役所に関する不満や会社の書類関連での手続きに関する不満を、どんどんと話してくれたのです。この時、ここには課題があると明確に判断できました。

また、SmartHRの事業プランが決まった後も、ヒアリングは活用しました。すぐにランディングページを新設し、事前登録フォームを作って、Facebook広告を2万円分くらい動かしてみると約150件もの応募が集まりました。

「実は、まだ具体的なことは決まっていなくて…。お話を聞かせてもらっても良いですか?」という旨のメールを送ると、約4割の方から返信をいただきヒアリングしました。具体的にどんなポイントが課題なのか、作っていくべき機能などについてスコープを絞ることができます。

ヒアリングをしても新たな気付きがなくなってきたら、開発に戻る。開発する項目がわからなくなってきたら、ヒアリングに行く。この繰り返しですね。

100の問題を、100人で1問ずつ解いていく経営

ーー最後に、これからの挑戦について聞かせてください。

宮田:組織を大きくしていく上でこれからも大事にしていくのは、「100の問題を、100人で1問ずつ解いていく経営」です。

採用、ファイナンス、サービスグロース、人事評価制度等々。それら全てを社長1人でやっても時間がかかってしまう。でも、専門家が100人集まって取り組んでいけばトライアンドエラーも速度が上がるし、とても良いですよね。

そして、コロナウイルスの影響で、世の中は大きな変化の時を迎えています。SmartHRでも、フルリモートワークを実施しています。すると、新入社員が馴染みにくい、といったこの状況下ならではの課題も出てきます。

こういった、一見すると小さな課題についても真摯に向き合い、課題が小さいうちに潰していく。そして、SmartHRをこれからの時代で、他の企業の模範とも思ってもらえるような組織にしていきたいと考えています。

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リモートワーク期間に入って、宮田さんは本格カレー作りを楽しんでおり、『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分!本格インドカレー』をオススメしていただきました。

“本格カレーと聞くと、一からスパイスを揃えたり大変そうですよね。でも、ベースを作ってそれを少し工夫するだけでいろんな種類のカレーが作れるんですよ。一番ハマっていた時は1日3食カレーだったこともあるくらいです(笑)。”

会社のSlackの個人チャンネルにも、作ったカレーの写真を載せているとのこと。娯楽を押し付けるわけではないものの、気軽にコミュニケーションできる環境もSmartHR社の良い組織の文化かもしれません。

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