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インセンティブは人助けを阻害する?

人はインセンティブ(他者から与えられた動機付け)によって他者を助けるのか、それとも困っている人を見たら自発的に助けるようにできているのか、どちらなのだろうか。

「モラル・エコノミー」(サミュエル・ボウルズ著)では、人には本来、利他性が備わっており、そうした人としての特質は、政策的に作られた「インセンティブ」によって、時として阻害されることもあり得るといったことが、各種研究や事例とともに紹介されている。

例えば本書では、病欠の相次いだ消防署の例が紹介されている。

この消防署では、これまで有給病欠が無制限に行われていたのだが、これを廃止し、その代わりに有給病欠の制限を設けることにした。その制限を超えた消防士については給料を減らすことにしたところ、病欠連絡の数が前年の10倍に増えてしまったというのだ。

消防士というのは、その特質として、そもそもお金という価値基準で動くのではなく、人助けをしたいという欲求によって動いている人の多い集団だ。それがお金によってコントロールされてしまっていると感じた瞬間に、消防士達の反感が巻き起こったということのようだ。

このように、人が本来持っているはずの利他的な感情を無視した政策が組まれると、利他感情そのものを阻害し、政策として機能しなくなることがある。なので、政策担当者はよくよく考えて制度設計をする必要がある、と説いているのが本書だ。

人の動機付けを考えて、適切な制度設計や政策設計を行っていくことのヒントについては、「行動経済学」から得られるが、これも使い方を間違えると有効に機能しないということなのだろう。

そもそも「利他」とは何なのか、「利他的感情」はどのようにして生まれるのか、ということについては、以前にこのブログでも紹介した「利他」とは何かも参考になる。

インセンティブも利他も、人が持っている特質の両面なのだろうが、インセンティブを設計することと、利他的感情を尊重することのバランスは、もっと注意深く考えてみる必要がありそうだ。


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