中世の翻訳ブームは今でいうDX?
世の中、コロナの話題以外でいうと、DXという言葉をよく見かけるようになった。このDX化の動きを見ながら、中世に起きた翻訳ブームのことがふと頭に浮かんだ。
中世には、ヨーロッパでも、イスラム社会でも翻訳ブームが起きて、それがルネッサンスや宗教改革のきっかけとなり、近代科学文明を築き上げる土壌を作ったと考えられている。
翻訳という行為は、ある文化圏Aの中に存在していた情報を、違う文化圏であるBに輸入する行為だ。
そこには、単に言語をAからBに変換するという行為に留まらず、文化や思考体系を移動し、変換し、発展させていくという行為が内包されている。
今起きているDX化の流れに置き換えて考えてみた時、いくつか共通点や違う点、そして学べる点がありそうだ。
中世の翻訳ブームと今のDXブーム 共通点は?
翻訳もデジタル化も、これまで特定のエリート層、知識階層だけに閉じられていた知識や情報が、より多くの人に共有されるようになるという意味では共通する部分が多い。
また、情報を発信し、伝達する人の属性に変化を与えたという点でも共通する点が多いだろう。
中世ヨーロッパでは教会が情報伝達の主役であったところが、教会が握っていた本当の聖書の姿が翻訳によって明らかにされ、その権威が失墜した。
現代も同様に、国家やメディアが握っていた情報以外の情報が流れるようになり、フェイクニュース等の問題はあるものの、第三の見方が現れ、既存の情報源に対する信頼が揺らいできたという点で似ているかもしれない。
中世の翻訳ブームと今のDXブーム 違う点は?
今起きているDX化の流れは、上記のような情報共有のステージを越え、業務効率化や生産性向上の方に比重が移ってきているように見える。
中世の翻訳ブームは、その後、新しい思想体系の構築や科学技術の発展へとつながっていったが、今起きているDXの動きを見ていると、果たしてそこまでのパラダイムシフトを作っていくことになるのか、個人的には若干疑問なところがある。
恐らく鍵となるのは、これまで共有することが難しかった情報が、何等かの形で共有され、活用されるようになるということなのだと思う。
その情報が何なのか、正直私には分からない。ビックデータ的なものなのか、インテリジェンスとしてこらまで秘匿されていたようなものなのか、はたまた、これまでデジタル化が難しいとされていた臭いや皮膚感覚のような物理的な情報なのか。
ただ、こういう観点で、まだ共有化されていない情報について考えてみることは、未来に起き得る変化を見る上で有効かもしれない。
中世の翻訳ブームから学べる点は?
中世も今も、感染症の蔓延や社会体制の転換など、類似する社会状況にある。こうした中で知識や情報の共有が行われる環境ができていったことはとても興味深いと思う。
<中世>
ペスト流行+翻訳・活字化による情報共有、流通規模の拡大
↓
既存の権力体制(教会や領主制度等)からの転換
↓
ルネサンス+科学の発展
<現在>
コロナ流行+デジタル化による情報共有、流通規模の拡大
↓
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↓
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現在でも、例えばアメリカでは政治がひと握りのエリートに握られているのではないか、ということへの疑念や、既存の国家体制に対するオルタナティブな動きも現れており、まだ不透明かつ不安定な所は多いように見えるが、今後大きな意味で中世と同じような体制転換が起きていくことはあり得るかもしれない。
さらに、ルネサンスや科学の発展というところについては、まだ分からない部分がある。今に置き換えるとどういうことになるのか。
中世は人間回帰という理念のもとで様々な文化が花開いたけれど、今のDX化はむしろそれを損なうものなのか。それともDX化によって空いた時間を使って、より人間らしい暮らしを求める人が増えていくことになるのか。
今後の社会トレンドを考えるネタの一つとして見ていってもいいのかもしれない。
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