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あなたはできること、わたしにできること。


三月七日の〇〇28



七階フロアの中央にある、大柱に張り出された名簿を眺めていた。

幅8mmほどに区切られた直線の欄に、
今季入学した生徒たちの名がびっしりと羅列する。

柱は名簿の用紙にぐるりと包まれて、
もうすこしで完全に包装されそうだ。

淡白な文字は世界を感じさせない。

みなひとしく同じだなと、
こんなところで変わった共感を覚えた。

『教室へ向かう』という行為も単語もだいぶ懐かしい。

エレベーターの扉が各階に停まるたびに、
飛び込んでくる異国の言葉が
まるで、色とりどりにとび出す絵本のページのようだ。


開いては閉じてを繰り返すように、

最上階へ上がっていく。


しかし居心地が悪いのだ。
ぎゅっと凝縮されたこの世界は狭すぎる。

あてもなく泳がす視線は、特に『誰か』を捕まえる気はなくて、

目が合いそうで合わない人たちと、せめて春の終わりまでは居心地よく過ごせれば良いなと、
穏やかな平和を願っている。

この中のだれが、
わたしのクラスメイトになるんだろうか。



ルームナンバーは〇〇28

わたしのクラスは最上階で、
名簿で見た先生(ここではもう老師と呼びたい方)は、たぶん男性だろうか?

日本であれば、
どこどなく男性を思い浮かべそうな人名漢字だが、
台湾人となるとまるで見当がつかない。


やさしい人だと良いけれど、
やさしすぎるのも困るかなぁ。


そんなわたしの我儘を許してほしい。





今回のわたしのクラスは多くても10人ほど。



配属されたクラスでも一定期間内であれば、
自分の意思でクラスチェンジができる。


例えば、クラスの雰囲気や授業の進め方、

友達と一緒になりたいとか。


一時は13人ほどいた日も、
最終的には9人に落ち着いた。


ちょっと変わったクラスになった。


ひとり、ふたりと人数が増えたり減ったりした後。

最終的にこのクラスに在籍を続けたのは、

わたしを含めた日本人2人、
アメリカ人が1人と、
タイ人が6人。

エンカウンター方式の向かい側の席には、タイ人の美人さんがいっぱい。

老師はというと、すらりと背が高く、クールな雰囲気でありながら笑顔が素敵な女性だった。

そう、アメリカ人の彼を除く、

全員が女性になったのだ

老師も「こんなクラスは初めてかも」と笑っていた。

そんな彼は妹がいるということで、自分が置かれた環境を全く気にする様子もなかった。

ある日、別のクラスの人たちと話す機会があって、その出来事に触れた。


「我的同學八個人女生,一個人男生」
わたしのクラスメイト8人女性で1人男性なの

『我們知道了,覺得很有意思』
ぼくたち知ってるよーたのしそうだよね

わたしのクラス、
ちょっとだけ有名だったみたいです。



観察・3カ国の特徴


さて、あれから早2ヶ月と少しが経ちまして。

個人的な観察になるが、
クラスメイトの出身国と語学取得において、

得手不得手の特色のようなものを紹介したい。


観察対象その1:タイ人の彼女たち。


・声調が上手、ゆえに耳がいい。

声調とは
1.声の調子。ふしまわし。
2.中国語などで、意味を区別するための音節ごとの音の高低・上がり下がり。

Googleより

中国語は第5声まであるが、
タイ語は第6声まであるのだそう。

だからだろうか、耳がとても良いのだろう、
発音がきれいだと感じる。

声調の聞き分け小テストは彼女たちに敵わない。

「佳榮! 你能做這個嗎?」 
佳栄、あなたこれできる?

ゥルルルルルル!!!!

そう言って見事な巻き舌を披露してくれた。
すごい。

・教え合い・助け合い

授業中でもお互いによく助け舟を出し合っていた。
そして合唱するかのように口々に発言していた。

老師も『今は彼女に答えてもらうからみんなちょっと待って!』と
よく笑っていた。

分からなくても臆することなく、とりあえず答えてみるし、
間違えてもえへへ、と笑って再挑戦してみる。

そんな姿勢が好ましかった。

・チェ・ジュ・シュが苦手なの

タイには『あまり無い』発音があるみたいだ。

くちびるを閉じてから、小さく口をんぱっ、と舌を小さく打つ、

だく音がなかなか苦手みたいで苦労していた。

そして慣れない口の動きに少し恥ずかしがっていた。
照れている様子がかわいらしい。


観察対象その2:アメリカ人の彼と奥さん

・英語と中国語は似ている。

S主語V動詞O目的語

まず文法がよく似ていることでそう表現される。

英語圏の人たちは、はっきりと発声するので、

タイ人の彼女たちのように苦手な発音はなさそうだ。

ただし、Shi など元々の英語表記のローマ字読みをしてしまうので、

中国語特有の発音読みと混同してしまい、
それが抜けなくてなかなか困難そうだった。

漢字は好き
書くのは遅いけど丁寧にきれいに書いている。

・奥様は台湾人

台湾人は留学先として欧州を選択することも少なくないらしい。

奥様の母国語への理解を深めたいと学び始めたのだそう。

ただお家では、楽に会話できる英語を優先してしまうため、
なかなか覚えられないんだよね…と苦笑いしていた。

たった2ヶ月でも教科書ルビふり無く読めようになるんだもの、十分すごいと思うよ。

観察対象その3:日本人のわたしたち。

・漢字に強い

本当、これに尽きる。

台湾華語は日本の常用漢字にも似ていること、
意味もなんとなく読み取れることから有利だと思う。

ただし、全く一緒かといえばそうでもなかったりする。

微妙に違うのだ。

それはまるで間違い探しのようだし、

気を抜いてうっかり日文の漢字を書いてしまって
減点されてしまったり。

老師から宿題の漢字書きとりも免除されたが、

そのかわりちょっとだけ、
トメハネハライが厳しくなった。

・発音・声調は弱いかも?

クラスメイトたちに比べて、
声調の訂正をされることが少なくなかったと思う。

日本語は目立った声調がなく、
声の高から低の流れで発すること

成り立つ比較的発音しやすい外国語だが、


そのかわり、抑揚がないため


声調が必要な外国語を取得するのにはすこし苦労してしまうのかもしれない。


そんな目で見ないでくれ…


漢字のカタチ。

あるとき、クラスメイトからこの漢字の書いてみてほしい、と言われた。

教室近くのエントランスに集まって、

思い思いに次の授業へ備えているブレイクタイム。

これから授業で恒例の聽試(聞き取りテスト)があるからだった。

老師が唱える短文を聞いて、書き起こすものだ。

OK、とiPadで彼女が見やすいように大きく書く。

わたしが書いたあと、見まねして彼女は自分のノートに書く。

ところが、書き順がちょっと合ってないのだ。

ある程度に書けていれば、書き順はさほど気にならないのだが、どうしてもバランスが悪い。

現在進行形で学んでいるところだし、
口うるさく言うものでもないし、

あまり強いるのも、疲れて彼女が辛くならないだろうか?

そう考えながら、わたしは彼女が書いたノートをみて少し間を置いた。

iPadで書いてみる?と促してペンを握ってもらった。

わたしは彼女の手に手を添えて、ゆっくりと同じ字を書く。


それは習字の手習いのように。

比較的、バランスが良くなった字体をみて、彼女はわたしの方へ振り向く。

えへへ、とはにかむ彼女と、

周りにいたクラスメイトが漢字の書き方を聞いてくるようになった。

すらすらとペンを走らせ書く様が、とんでもなく格好良く見えるらしい。

一文章を書くたびに、すごいね…!!と
きらきらした目で見つめてくれるのが、
くすぐったくて仕方がなかった。


あなたが苦手なこと、わたしが苦手なこともいつか、


得手不得手というものは、

生来のものだったり、
育った環境だったりと様々なんだと思う。

それぞれの成長過程はもちろんだし、
がんばっても、どうしても出来ないこともあるだろうけど、

大抵はある程度、それなり出来るようになるものだ。

たぶんそういう風にできているんだと思う。


比べるほどのものではないんだろうなとふと考えた。

今日のあの子は少し落ち込んでいる。
ちょっと頑張りすぎて疲れているみたいだ。

『わたしたちはみんな一緒。
いずれできるようになるよ、』

わたしたちは今日も言葉を贈り合う。



你好。

台湾に留学中の roro です。
台北市内の師範大学附属語学センター にて
ただいま社会人留学をしています。

前回の記事が思ったより長くなってしまったので(4000字…)
お時間がある時に、ほぉーーんと読んでくださったらうれしいのですが……

その回でにちょっとだけ触れた、クラスメイトのことを書いてみました。


さて、明後日から夏季学期がはじまります。

またお会いしましょう。

再一見。

頂きましたサポートは留学費と台湾生活に充てさせて頂きます。 もうそのお気持ちがとても嬉しいです。謝謝您多感謝。