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4日間で秋田の酒蔵を16軒まわってみて、考えたこと。

 秋田の県北から県南まで丸4日間にわたるロケをしてきた。フリーマガジン『のんびり』を作っていた頃は3か月に一回こんなことを続けていたのかと思うとゾッとするくらいハードな取材だったけれど、それでも取材現場は良いもんだ。

 それにこの年になると、いろんなものが、過去に行ったとか、見たことあるとか、そんな風に「済印」だらけになりがちだけど、当たり前にそれぞれ変化し続けている。長く続くということは変化し続けることと同義だから、僕自身が編集者としてさらに成長していくためにも、気安く秋田という土地に済印を押してしまわないことの重要さをあらためて強く実感した旅だった。

#秋田は美しい
おもわずそんなハッシュタグとともにツイートしてしまうほど、秋田に初めて訪れた15年前の気持ちが蘇るような思いになった。

 実はいま僕は、大好きな秋田産日本酒の企画立案のお手伝いをしていて、そのコンセプトムービーを製作するためのロケだった。
 ということで、今回、秋田県内16軒もの酒蔵を巡らせてもらった。

 秋田県の酒造組合による「美酒王国秋田」というキャッチコピーが大袈裟でないと感じるほど、秋田の酒は美味い。蔵の数こそ新潟や長野、兵庫などに敵わないものの、日本酒業界を牽引するようなチャレンジングで面白い酒蔵が秋田にはたくさんある。

 僕自身、日本酒が好きになるきっかけになった「雪の茅舎」は、杜氏の高橋藤一さんがNHKのプロフェッショナルで特集されたことでも有名だ。ちなみにプロフェッショナル登場のきっかけは、自著『風と土の秋田』における藤一さんの取材記事をNHKのディレクターさんが読んでくれたことがきっかけだ。酒造りのスタンダードである櫂入れをしない独特の醸造はアヴァンギャルドな藤一さんの精神の象徴。秋田の酒造りの神様のような人。

 その次の世代としては、半径5km以内の米、水しか使わないと宣言し、大量生産型の灘の酒造メーカーの桶買いから脱した「天の戸」の森谷康市さん。数年前、あまりに突然、亡くなってしまったけれど、ワインでいうところのテロワールを日本酒の世界でもっともわかりやすく表現した先駆者だったように思う。森谷さんから僕は、酒と、そして教育について、多くを学ばせてもらった。

自著『風と土の秋田』出版の際、
森谷さん自ら書いてくれた『風と土』という
ラベルのお酒をいただいたの
めちゃくちゃ嬉しかったなあ。

 さらにその下がようやく僕と同世代になる。失敗しない酒造りという意味でとても優秀な現代の酵母からすれば、まるでじゃじゃ馬のごとし6号酵母を、自蔵から出た大切なアイデンティティであると全量使用。そんな6号酵母の魅力はいまや全国に伝搬し、さらには廃れていく一方だった木桶での酒造りに挑み、いまや木桶づくりそのものを未来につなげるなど、原点回帰にして最先端を進むのが、新政酒造、蔵元の佐藤祐輔さん。彼はいま最もその動向を注目されている蔵人だ。

祐輔さんには、高橋優くんのガイドブックでも対談してもらったばかり。

 これら3世代の美味い酒が飲めるのが秋田のあまりに幸福な特徴。新政の祐輔さんは僕と同い年だから、当然さらに下の世代が新しい酒を醸しはじめている。そういう意味では4世代の美味い酒が飲めるようになってきたのがいまの秋田だと言える。

 お酒を飲まない人にとっては興味のない話かもしれないけれど、そういう人であっても、酒造りの現場にある独特の空気にはきっと魅了されるに違いない。

 上述の3蔵はもちろんのこと、これまでもいくつかの蔵にお邪魔したり、取材させてもらったりしたけれど、それでも今回、巡った16蔵の半分は初めて訪れる蔵だった。県北から順に南下していったのだけれど、最初の2蔵、『千歳盛』と『喜久水』が、それぞれにとても特徴的な冷蔵貯蔵をしていることに冒頭から驚かされた。

 『千歳盛』は、いまは産業遺産となっている秋田県鹿角市の尾去沢鉱山の採掘跡に日本酒を貯蔵していて、貯蔵庫のある坑道の奥にたどり着くまでの道程は、まるで映画『インディ・ジョーンズ』の世界。

 続いて少し南下、能代市にある『喜久水』では廃線後のトンネルを活用してお酒を貯蔵。一年通して11℃。秋田の酒は貯蔵もサステイナブルなのかと驚いた。

 こんな風に、新たな発見も多くあり、とても充実したロケになった。ちなみにこの秋田の日本酒企画は11/1にリリースされるので、ぜひ楽しみにしていてほしい。

 さて、そんな撮影旅を経て、僕はあることについて考えた。

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