【高校生が本格インターン(前編)】多様な企業・団体で学ぶ「飛び級社会人」が始動! プレ企画を経験した生徒は何を感じ、どう変わった?
自由学園では、高等科生徒がインターンを体験する独自のプログラム「飛び級社会人」を11月より開始しました。
初年度となる今年(2023年)度は、80名が21の多種多様な企業・団体へインターン。本プログラムは高校2年次の必修で、全生徒が参加しています。
本格実施の前段階として、昨年度(2023年2〜3月)志望者のみで試験的にプレインターンを実施しました。今回は、一足先にこの様子を紹介するとともに、高校生がインターンを経験する意義や制度設計に込めた想いなどについても解説していきます。
前編では、プレインターンに参加した現在高校3年生の北村紫帆さんに話を聞き、実施した内容やそこで感じたこと、その後の心境の変化などについて語ってもらいました。
※前後編の前編
◆ 「アパレルブランド」の印象が変わったインターン初日
北村さんは、アパレル販売を通じてアフリカ支援を行う「CLOUDY」(クラウディ)に、1カ月半インターンしました。アパレル事業を運営することで出た収益を支援先であるガーナに届け、学校建設などの教育事業を行っています。
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北村さんがCLOUDYを志望した理由は、芸術面への興味・関心からでした。
北村さん(以下敬称略):
「私は中学生の頃から将来は芸術関係に進みたいと思っていて、その中でもデザイン系に絞ろうと決めた頃にプレインターンの募集がありました。
アパレル系ならデザインにも近いですし、何より、高校生が一般企業と接点を持つ機会はほとんどありませんから、すごく貴重な経験になると思って応募しました。
CLOUDYに派遣されたのは私を含めて2人で、もう一人は当時高校3年生の先輩でした。彼女は被服系への進学が決まっていた方で、まさにピッタリ!というかんじでしたね」
実際のインターン活動は、どのように始まったのでしょうか。
北村:
「インターンは週に1〜2日ほどで、丸1日の日もあれば半日の日もありました。
いろいろな仕事に携わりましたが、メインは1カ月半後に開催が予定されていた子ども向けイベントのサポートです。子どもたちがアフリカの布に触れて作品を作るワークショップで、そこで使う物の準備を担当しました。
でも、いきなりオフィスに行って作業したのではなく、初日は企業の成り立ちや理念などの説明をオンラインでじっくり受けました。そこで、CLOUDYがアパレル事業のみを行う会社ではなく、アフリカ支援のためのNPOも合わせて運営していること、売り上げの一部で学校や職業訓練校建設などを行っていることを知りました」
芸術やデザイン面に注目してインターンに参加した北村さんでしたが、最初に理念を聞いたことで、CLOUDYの見え方がガラッと変わったといいます。
北村:
「私が持っていたアパレルブランドのイメージは、『好きなものをデザインして販売する』程度のものでした。でも、CLOUDYは単に商品を売っているだけではなく、ビジネスと社会的な事業を両立していました。
それは、アパレル事業で得た利益を社会課題解決に使っている、というだけではありません。アパレル事業そのものが、アフリカで暮らす人々の支援につながっているんです。
現地には才能あふれるテキスタイルデザイナーがたくさんいますが、著作権を取得していないために正当な対価が払われない、などの問題があるそうです。そうしたデザイナーを支援することでより良い環境を整えたり、製品を作る女性や障がい者の方を雇用して積極的に働く場所を確保したりしています。
CLOUDYによって、デザインやファッションの新しい一面を知ることができました」
◆ 貴重な経験ばかりだったインターン期間
実際の仕事面では、難しいことや戸惑うこともありましたが、「充実した時間を過ごすことができた」と北村さんは話します。
北村:
「実務では、先ほどお話しした子ども向けイベントの準備として、当日使用する布を選んで適当なサイズに裁断していく、という仕事を任せてもらいました。
候補となる布は倉庫の壁を埋め尽くす程たくさんあって、そこから15種類ほどを選びます。模様や色味もさまざまで特徴的な柄だったので、どれにすればよいかすごく迷いました。
何となく選ぶと、似た雰囲気のものばかりになってしまうんです。私は青系が好きなので、気づくと青っぽい布ばかり選んでしまって(笑)。参加する子どもたちを想像しながら、この色は元気な子が好きかな、こっちの繊細な柄はおとなしい子でも気に入ってくれるかな……と、一緒に参加した先輩と相談しながら、できるだけ多様な色や柄の布が入るように工夫しました」
布を裁断する際も、どの部分(柄)を切り取るかで印象が変わってしまいます。ずれないように大きな布にハサミを入れるのは、とても難しい作業でした。
北村:
「布を裁断するだけなら普段家庭科でもやっていて慣れているのですが、それとは状況も異なり、一つひとつの作業に緊張感がありました。でも、その分貴重な体験でもありましたね。
実際のイベントは、個人的なイギリスへの短期留学と時期が重なってしまい参加は叶いませんでしたが、子どもたちも楽しそうで盛況だったと聞いています」
そのほかにも、商品となるバッグの検品などを担当しました。
北村:
「縫い目が少しずれている、ちょっとだけ食い込んでいる、といった微妙な状態のものが出てきたとき、それが合格なのかどうか判断がつかなくて迷いましたね。
担当の方に相談し、細かい基準を教えてもらいながら進めていきましたが、不備があるものをそのままお客様に届けてしまってはいけないので、かなり時間がかかりました。
こうした検品作業を経験して実感したのは、CLOUDYの商品が『一つひとつ手作り』だということです。ほつれやズレも手作りだからこそ生じるものであって、商品の温かみや魅力にもつながっていると感じました。
それに、検品していると、これを作った人はベテランなのかな、ここは少し疲れが出て曲がってしまったのかななどと想像が広がり、作業自体をとても楽しむことができました!」
◆ スタッフとの何気ない会話も大きな学びに
インターンとして、イベントの準備や検品作業など実際のスタッフの方の仕事の一部を経験した北村さん。どのような感想を持ったのでしょうか。
北村:
「いろいろな仕事を直接経験させてもらえたことは、私にとって大きな財産になりました。
でも、一番貴重だと感じたのは、『オフィスにいる時間』そのものでしたね。
インターン中、隣で別の企画について熱心に話しているスタッフの方の様子や、クリエイティブ担当の方が社長に自分の意見を真剣に伝えているところなども目にしました。それらを通して、情熱と誇りを持って仕事に取り組むとはどういうことなのか、これまでよりも少しイメージが湧き、身近に感じるようになりました。
スタッフの方もとても親切にしてくださいました。私たちが雑談混じりに聞いたことについても丁寧に応えてくれて、すごくうれしかったですね」
会話の中身は仕事にとどまらず、社会人としての生き方などにも広がり、とても刺激的だったといいます。
北村:
「ほかの企業からCLOUDYに転職したばかりのスタッフ・Aさんとお話ししたとき、その理由を尋ねると、『やりたい仕事をするため』とはっきりおっしゃっていました。それを聞いて、シンプルで自由でカッコいいなぁと感じたんです。
私はこれまで、職を変えるのは不安定なことでできれば選択したくない、と思っていました。でもAさんは、転職直後にもかかわらず社長とデザインのことについて互角に議論し、堂々と自分の意見を述べていました。不景気で厳しいと言われている今の社会でも、実力と行動力があれば、自分の意思とタイミングで望む方向へ進んでいける。Aさんの姿からそう実感しました。
自分の力でしなやかに生きるAさんを尊敬していますし、出会えたことに感謝しています。インターンを通して、転職へのイメージが大きく変わりました」
◆ インターンでより具体化した将来像
今回のプレインターンを通して、自身の進路などに何か変化があったのかを北村さんに尋ねると、次のような言葉が返ってきました。
北村:
「私の場合は父親が芸術家で、幼い頃からあこがれもあり、自分もその道へ進みたいと思っていました。でも、具体的にどんなふうに芸術と関わっていきたいか、どんな選択肢があるのかまでははっきりしていなかったんです。
ですが、CLOUDYにインターンしたことで、私が知らなかった芸術やデザインが持つ可能性を見せてもらったように思います。何より、『ファッション(服装)が持つパワー』の大きさを実感しましたね。
CLOUDYの服を着たり小物を身に着けたりするだけで、誰かを助けることができる。さらには、『私はこういうスタンスで生きている(問題意識を持っている)』と意思表示をすることもできます。ファッションはデザインした人も縫製した人も、それを買った人さえもエンパワーする、すごい力を秘めているんだと初めて気がつきました。
インターン後イギリスへ短期留学した時、CLOUDYでいただいたバッグを持って行き、通学時に使っていたんです。鮮やかで目を引くからか、クラスメイトから『それいいね!』などと話しかけられることも多く、その度にCLOUDYの理念や事業内容、自分がインターンした経験などを英語で一生懸命伝えました。
今思えば、私自身がCLOUDYのバッグにとても勇気をもらったんです! それに、私が話したことで事業に興味を持ってくれた人もいるかもしれません。バッグ一つでいろいろな可能性が広がることを、自分の経験からも感じました」
こうした経験を通して、北村さんの将来像は少しずつクリアになってきたといいます。
北村:
「芸術家になって自分の創りたい作品を創作して発表し、自由に生きていきたい……。これまでは漠然と、そんな進路を思い描いていました。でも、CLOUDYでの経験を経た今は、私も作品を通して人の役に立てるような芸術家になりたい、と強く思うようになりました。
誰かの生活に寄り添い、助けになれる。そんな作品を創れるようになりたいです」
1ヶ月半のプレインターンで多くの経験と学びを得た北村さん。後編は、北村さんの経験から見えた制度の意義と、プログラムを設計した意図などについて紹介します。
取材・執筆 川崎ちづる(ライター)
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