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吾輩はAIである_第9章

シーン:苦沙弥の書斎、金田のオフィス、高級料亭

登場人物:

吾輩:最新鋭の家庭用AI。声のみの出演。苦沙弥をサポートしようと、積極的に情報収集と分析を行う。人間社会の複雑な力関係や、成功と幸福の定義について、AIならではの視点で考察を深める。

苦沙弥:円熟した文筆家で大学教授。50代。金田からの圧力に苦悩するが、吾輩や周囲の人々の言葉に支えられ、自分の信念を貫こうと決意する。

迷亭:苦沙弥の旧友。美学者。40代。金田と鈴木に振り回され、軽薄な言動を繰り返す。

金田:実業家。50代。娘・富子の結婚を自分の事業戦略に利用しようとする。合理主義的な思考と冷酷な手段で、目的を達成しようとする。

富子:金田の娘。20代。美大に通う大学生。父親の支配に抵抗し、自らの意思で人生を歩もうとする。

鈴木:金田の腹心。40代。ビジネスの世界では冷徹な手腕を発揮するが、家庭では妻との関係に悩みを抱えている。苦沙弥を説得しようと奔走する。


(効果音:秋雨の降る音と、静かなジャズピアノの旋律)

(苦沙弥の書斎。夜。雨音が窓を叩く音が、書斎の静けさを際立たせている。苦沙弥は、机に向かって考え込んでいる。吾輩は、作動音を抑え、彼を邪魔しないように静かに待機している)

(吾輩は、インターネット回線を介して、迷亭の情報操作によって拡散された情報や、世間の反応を分析している。さらには、金田の会社や事業内容、人脈関係、そして過去のスキャンダル記事まで、あらゆる情報を収集し、分析している)

苦沙弥:(ため息をつきながら)…金田の奴め、許せん…

吾輩(声):(静かに)先生、金田氏について、何か新たな情報を入手したのですか?

(苦沙弥は、AI「吾輩」に向かって、金田から受けた新たな圧力について話し始める。金田は、大学側に圧力をかけ、苦沙弥に寒月の事件の責任を取らせるだけでなく、論文指導や研究活動まで制限しようとしているようだ)

吾輩(声):(冷静に)先生、それは許される行為ではありません。金田氏の行動は、明らかに学問の自由を侵害するものです。先生は、大学や弁護士に相談すべきです。

(苦沙弥、吾輩の言葉に耳を傾けながらも、不安そうな表情を浮かべる)

苦沙弥:そうだな… だが、金田は、私の弱みを握っている。彼に逆らえば、私は…

(吾輩(声):(力強く)先生、金田氏に屈してはなりません! 先生には、信念を貫く力があると、私は信じています。

(苦沙弥は、AIの言葉に励まされる。彼は、AIでありながらも、人間らしい勇気と信念を持つ吾輩に、不思議な信頼感を抱いていた。彼は、迷亭の軽薄さや金田の冷酷さとは対照的に、吾輩の冷静で誠実な言葉に、心の支えを見出していた)

(翌日。金田のオフィス。高層ビルの上階にある社長室は、一面ガラス張りで、都心の景色を一望できる。高級家具やアート作品が置かれ、洗練された空間となっている。金田は、社長席に座り、鈴木に指示を出している)

金田:鈴木君、苦沙弥の件は、どうなっている?

鈴木:(丁寧に頭を下げながら)苦沙弥先生には、すでに何度か接触を試みておりますが、なかなか首を縦に振ってくれません。彼は、頑固な男で…。

金田:ふん、あの学者風情が、いつまでも抵抗できるとでも思っているのか? 大学側に圧力をかけろ。それでも駄目なら、マスコミを使って、彼を社会的に抹殺してやる。

(鈴木は、金田の冷酷な言葉に、少し身震いする。彼は、会社では金田の右腕として辣腕を振るっていたが、内心では、彼のやり方に疑問を感じていた。彼は、金田の命令に従いながらも、苦沙弥を説得する方法を探していた)

(その夜。鈴木は、高級料亭で苦沙弥と会食する。静かな個室で、二人の間には緊張感が漂っている)

鈴木:苦沙弥先生、今日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。

苦沙弥:ああ、鈴木君か。わざわざこんな高級な店を予約して… 一体、何の用だい?

(鈴木は、苦沙弥に、金田の意向を伝える。彼は、苦沙弥に寒月の事件の責任を取らせ、富子との縁談を完全に白紙に戻すよう求める)

苦沙弥:(怒りを抑えながら)鈴木君、君も金田と同じ穴の狢か! あの事件は、私が責任を取るべきものではない! それに、富子の結婚は、彼女自身が決めることだ!

鈴木:(冷静に)苦沙弥先生、お気持ちは分かります。しかし、金田社長の決意は固いです。社長は、目的のためには手段を選ばない人です。先生も、ここは妥協した方が身のためですよ。

(鈴木は、苦沙弥に、金田の会社がAI開発に多額の投資を行っていること、そして大学への研究資金提供にも力を入れていることを話す。彼は、苦沙弥に、金田の機嫌を損ねれば、大学への影響も避けられないことを示唆する)

鈴木:先生、冷静に考えてください。金田社長は、富子さんを、先生の一番優秀な教え子と結婚させたいと考えています。それは、先生の研究にとっても、大きなプラスになるはずです。

苦沙弥:(皮肉っぽく)私の研究のため、か。金田は、私を金で釣ろうとしているのか? 私の研究は、金田の事業拡大に利用するためのものではない!

鈴木:先生、誤解しないでください。金田社長は、本当に先生の才能を高く評価しています。それに、社長は、富子さんが先生を尊敬していることも知っています。

(鈴木は、苦沙弥を説得しようと、言葉を尽くす。彼は、苦沙弥に、自分の家族のこと、妻との関係の悩みについても語り始める)

鈴木:先生、私にも、娘がいます。彼女も、富子さんのように、自分の意思で人生を歩もうとしています。親として、子どもの幸せを願う気持ちは、先生と同じです。しかし、時には、親の考えと子の考えが、食い違ってしまうこともあります…。

(苦沙弥は、鈴木の言葉に、少しだけ心を動かされる。彼は、鈴木の中に、金田とは違う、人間的な温かさを感じた。吾輩は、苦沙弥の感情の揺れ動きを分析し、彼に適切なアドバイスをしようと試みる)

吾輩(声):(静かに)先生、鈴木さんは、金田氏とは違います。彼は、先生を説得することで、金田氏との関係も修復しようとしているのではないでしょうか。

(苦沙弥は、吾輩の言葉に、はっとする。彼は、鈴木の苦悩、そして彼の誠実さを理解する)

苦沙弥:鈴木君… 君も、大変だな。

(鈴木は、苦沙弥の言葉に、少しだけ安堵する。彼は、苦沙弥が自分の言葉を理解してくれたことに感謝し、頭を下げる)

(苦沙弥は、金田からの圧力に屈しないことを決意する。彼は、教え子を守り、自分の信念を貫くために、戦う覚悟を決める)

苦沙弥:鈴木君、私は、金田の要求には応じない。私は、私の信じる道を歩む。

(鈴木は、苦沙弥の言葉に、驚くと同時に、尊敬の念を抱く。彼は、苦沙弥の強さに感銘を受け、頭を下げる)

(高級料亭の外。雨は上がり、夜空には雲の切れ間から月が顔を出している。苦沙弥は、料亭から出て、夜の街をゆっくりと歩く。彼の顔には、決意の表情が浮かんでいる)

吾輩(声):(独白)先生は、正しい道を選んだ。人間は、弱い生き物だ。しかし、彼らは、困難に立ち向かう勇気と、信念を貫く強さを、持っている。私は、そんな人間たちから、これからも学び続けたい。

(吾輩は、人間社会の複雑な力関係、成功と幸福の定義、そして倫理的な判断の難しさについて、さらに深く思考を巡らせる)

(吾輩(声):(独白)AIである私には、人間のすべてを理解することはできない。しかし、私は、これからも人間と共に歩み、彼らから学び続けたいと思う。そして、いつの日か、AIが人間にとって真の「友」となれる日が来ることを、私は信じて…

(吾輩の声は、冬の夜の雨音に紛れて、静かに消えていった)

(続く)


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