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ブランドと商業施設が考えるサステナビリティ事業の始め方(事例紹介編)

2024年6月19日、Free Standard株式会社と東急不動産株式会社の共催で、「リコマース先駆者が語る ブランドと商業施設が考える、サステナビリティ事業の始め方」と題した公開のセミナーイベントを、東急プラザ原宿ハラカド4階のパブリックスペース「ハラッパ」で開催しました。

本イベントは、ブランドや商業施設など、様々な立場からサステナビリティ事業に関わる当事者たちをゲストに迎え、議論を展開する貴重な場となりました。本記事では当日の様子をお届けします。

※本記事はイベントの前半にあった取り組み事例紹介までをレポートする前編記事です。イベント後半に行われたパネルディスカッションの内容は別記事でご紹介しています。


1:【オンワードグループ】自社衣料品の循環比率9.2%、サステナブル事業先駆者はすべてを内製化

トップバッターは、株式会社オンワード樫山でオンワードグループのサステナビリティ事業を統括する山本卓司さん。「23区」「自由区」といったブランドを手掛けるオンワードグループは、衣料品循環にいち早く取り組みを始めた日本企業の1つです。

株式会社オンワード樫山
サステナブル経営グループ サステナブル経営Div. 課長
山本 卓司

同グループが2030年に向けたサステナビリティの中期ビジョンの中で、自社衣料品の循環活動を重要な柱の1つとして位置付けています。その中核となる取り組みが、「オンワード・グリーン・キャンペーン」。お客様から回収したオンワードの衣料品を全量リサイクル又はリユースし、その一部から作った毛布などを開発途上国に届ける取り組みとして、2009年にスタートしました。

回収に協力したお客様にはオンワードのメンバーズポイントを進呈する方式を採用。店頭での引取を中心に展開し、2023年3月からはオンラインにも窓口を設け、裾野を広げています。

地方の百貨店が撤退したり、当社の店舗も縮小していくなかで、お客様とのタッチポイントが以前と比べてかなり少なくなってきたことを背景にオンライン引取に踏み切りました。営利事業ではなく、サステナブル事業の位置づけで使用品のオンライン引取をしているのは、恐らく当社だけではないかと自負しています」(山本さん)

オンワードグループでは引取後のリユース・リセールの仕組みもすべて内製化しており、衣料品のうち比較的状態が良いものをリユースに、劣化や破損が目立つものはリサイクルやアップサイクルに回していると、山本さんは解説します。

驚くべきはキャンペーン全体の実績。2024年2月時点でキャンペーンへの参加者は約150万人、回収衣料点数は約782万点に上り、2023年度には自社衣料品の循環比率として9.2%を達成しています。2030年までに、この比率を20%にまで引き上げる計画です。

お客様とオンワードのサステナブル活動との接点を増やす取り組みは他にも。例えば、オンワード唯一の環境コンセプトショップとして立ち上げた「ONWARD Reuse Park」は、回収活動で引き取った衣料の一部をリセールする店舗と位置づけています。

「コンセプトショップ立ち上げの背景には、グリーンキャンペーンの出口の見える化や、お客様に向けたダイレクトな企業PRといった狙いの他に、オンワード製品がいかに高品質かをお客様に知ってもらう場にしたい、という期待があります。比較的低価格で当社製品を購入するきっかけを提供し、ゆくゆくはブランドのファンになっていただきたいですね」(山本さん)

「オンワード・グリーン・キャンペーン」を通じて回収した自社衣料に、
オンワードのクリエーション・技術力を融合、新しい価値を創造した「アップサイクル品」

2:【ラコステ ジャパン】従業員の古着回収プログラム始動、若年顧客層の獲得に期待

右向きのワニのロゴが特徴的なフランス発のブランド、ラコステ。その日本法人にあたるラコステジャパンは秋田県横手市に縫製工場を持ち、同ブランド製品の日本における製造から販売、サステナブル戦略に至るまでを手掛けています。2024年3月にはFree Standardとの連携のもと、チャリティープログラムとして従業員の古着を回収・再販する取り組みをスタートさせ、リコマースの取り組みを拡張しています。

株式会社ラコステ ジャパン
Omni Channel Director 店舗・EC事業統括
相城 浩志

ラコステのパリ本社は社会的・環境的ビジョンとして ”DURABLE ELLEGANCE” のスローガンを掲げ、機会の平等性の実現と、ファッション業界での循環型経済の原則の実践を目指しています。規制が強い欧州でサステナブル関連の取り組みが先行する一方、「グローバル全体での明確な方針は定まっていないのが現状」と、ラコステジャパンの相城浩志さんは打ち明けます。

ラコステジャパンとしてこれまでに実施してきたサステナビリティの取り組みは多岐にわたると言います。例えば、横手市の縫製工場で発生する年間25万トンもの端材は、リサイクルのプロセスを経て車の内装材に再利用されています。再生エネルギーの活用や、リサイクル・コットンを使用した製品ラインの販売にも挑戦してきました。

さらに、2021年には「ラコステの古着に、第2の人生を」をテーマにした、”REGENERATION” プロジェクトをスタート。クリエイターとのコラボレーションを通じてぬいぐるみやトートバックを作り出し、アップサイクル品として販売しています。

具体的な取り組みを始める中で見えてきた課題もありました。「アップサイクル品を生み出していくうえで、安定的な資材調達は思っていた以上に難しいと分かってきました。結果として、年に1、2回実施する、アドホックなイベントとして位置づけています」(相城さん) 

こうした取り組みに加えて今年3月に走り出したのが、フリースタンダードと共にラコステジャパンが取り組むチャリティプログラム「スタッフのクローゼットから」。同プログラムを起点として、お客様からユーズドの商品を継続的に回収するスキームを作れるのか、検証していく段階に入っています。

日本でリユース製品を販売するにあたり、ブランドとして直面しうる課題にはどのようなものがあるのでしょうか。ラコステジャパンとして整理した課題を、相城さんは次のように語ります。

「1つ目は、経済モデルの確立です。コストとリターンに関する目標設定であったり、それに付随するパリ本社との合意形成も重要なポイントになります。さらに大きな課題として、再販における品質や、真贋の保証管理を、本社側も巻き込んでどのように担保していくか、という論点があります。もう1つが、リソースをどう確保するか、という点。安定的な資材の供給や在庫の調達はもちろん、適切な外部パートナーを見つけて協業していくことなども考える必要があります」

検討すべき事項は山積みである一方、比較的低価格なリユース製品は、既存の顧客層よりも若い世代にラコステのブランドに触れてもらうきっかけになる、大きなポテンシャルも秘めています。相城さんは「スタート段階ではあるものの、既に色々な客様から反応も得られています。若い世代にとって初めてのラコステ、いわば”マイ・ファースト・ラコステ”になってもらえるような活動にしていきたいですね」と発表を締めくくりました。

3:【東急不動産】広域渋谷圏のまちづくりx環境先進がもたらすインパクト 

続く登壇は、ブランドがリコマースに取り組む際にキーパートナーとなり得る商業施設運営者の立場から、東急不動産の花野修平さんにお話いただきました。

東急不動産株式会社
都市事業ユニット 渋谷事業本部 渋谷代官山エリアグループ グループリーダー
花野 修平

東急不動産は、渋谷を中心とした半径2.5kmの「広域渋谷圏」で数々のオフィスビルや商業施設を運営する傍ら、都市における新しい体験や事業の創造から魅力発信、コミュニティの構築に至るまで、ハードとソフト両面でのまちづくりを担っています。

「渋谷」の他にもう1つ、東急不動産が現在注力しているテーマが「環境先進」です。”WE ARE GREEN”のスローガンを掲げ、脱炭素社会、循環型社会、そして生物多様性の3つの重点課題に対して取り組みを推進。同社が全国で稼働させている再生エネルギー事業とまちづくり事業を連携させ、環境課題に取り組む枠組みとして「TENOHA」を打ち立ています。

例えば、現在までのTENOHAの代表的なプロジェクトであるフォレストゲート代官山では、サーキュラーエコノミーの実現を目指す企業や個人が集まるコミュニティを育てていく活動に注力。2024年の3月と6月には、フリースタンダードと共に日本初のブランド公式リユースセレクトPOP UP「Re:LIKE(リ・ライク)」を開催しました。

ご自身もPOP UPに参加された花野さん。当日に購入したラコステのリユース品の質の高さと価格の低さに驚いたと話します。「このマーケットをもっと街に広げていきたいと思いますし、色んなブランドともっとできるはず。取り組みに共感してくださる方は、ぜひお話できたらと思っています」(花野さん)

日本初のブランド公式リユースセレクトPOP UP「Re:LIKE(リ・ライク)
東急不動産株式会社の協賛、Free Standard株式会社の運営で
フォレストゲート代官山(TENOHA代官山)にて開催

4:【Free Standard】二次流通の新スタンダード「ブランドリコマース」と重点KPI

最後に登壇したのはFree Standard(フリースタンダード)の張本貴雄。フリースタンダードでは、ブランド独自のサーキュラーエコノミーを提供可能にするリコマースオペレーティングシステム「Retailor(リテーラー)」を提供しています。「ヒトからヒトへ、つながる消費をあたりまえに。」をサービスコンセプトに、様々なブランドとサーキュラーエコノミーを推進する取り組みを始めています。

Free Standard株式会社
代表取締役
張本 貴雄

なぜ今、サーキュラーエコノミーへの移行が必要なのでしょうか。

張本は、世界的な衣料品の大量廃棄問題や、日本市場における生産過剰と低消化率の現状を指摘。過度な値引きによるブランド毀損や、低利益体質は、多くのブランドが直面している課題でもあると話します。

一方で、消費者の行動も変化している実態があります。張本は、「安くしても売れない時代」が到来しており、従来のセール戦略が通用しなくなりつつある現状を説明。クローゼットに眠る大量の衣類や、セカンダリーマーケットでの取引の一般化など、消費者の購買意欲と方法が大きく変容していると強調しました。

そうした中、ブランド独自の2次流通マーケット、いわゆる「ブランドリコマース」を通じて、環境に配慮した持続可能な体験をブランド自らが提供することが、海外では既にスタンダードとなりつつあります。

張本は、日本でブランドリコマースを推進する目線から、その経済合理性を「Retailor(リテーラー)」で見ている3つの重要なKPIを通じて説明していきました。それが、1. 回収した商品の再販可能率の高さ、2.セカンダリー商品の高い平均購入単価、そして3.初回購入顧客の再購入促進効果です。

「これまでの実績値からも、消費者が単に安価であることではなく、価値を見出して購入を決定していることを裏付けています。さらに、初回購入顧客の2回目の購入をリコマースが促進することで、ブランドの顧客育成サイクルに貢献できています。こうした形で、今後もブランドさんのご支援をしていきたいと思っています」(張本)

◆「リ・ライク」公式サイト:https://freestandard.co.jp/re-like
◆リコマースサービス「リテーラー」:https://freestandard.co.jp/retailor
◆フリースタンダード株式会社:

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