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2022-06-02 #創作ログ02

短歌誌「うたそら」第8号

***自由詠「亡き祖父へ捧ぐミルクキャラメル」

花埋み冷たく閉じたくちびるに末期の雫のコカ・コーラ
とどかない語尾まちがいの流行り歌窓の外には春がほころぶ
担い手の背さえも丸く頼りなく揺れる棺が空へ旅立つ
箸先でからりとまろぶ骨の音に白百合の茎の緑が滲む
あなたなら笑ってくれると信じてる位牌がわりのチョコレート
豆蔦の枯れゆく松の盆栽に水遣りをする影ひとつなく
主人なき荒れた庭にも芽吹く夏お隣さんの藤の棚
繰り返し願うほどに遠ざかる雲の峰からいのち降る降る

***テーマ詠「新」

新しき人の流れに耐えきれず眠れる薬をねだるも虚し

***余談
2022年4月2日、桜が咲くのを見届ける間もなく祖父が亡くなりました。
享年92歳。施設に入居していたため最期を看取ることはできませんでしたが、息を引き取る一週間ほど前に私たち家族と面会をして、体調不良から回復の中途のまま、眠るように息を引き取りました。
戦後の日本の畜産業界の隆盛を支えた祖父でした。若い頃は瞬間湯沸かし器と呼ばれるほどに厳しい性格で有名だったと聞きました。盆栽が好きで、チョコレートとコーラが大好きで、皮肉を言うのが大好きな祖父でした。
荼毘にふす前日、私は祭壇の前に桜の花をふたつほど供えました。別れの日、私は棺の中にミルクキャラメルとコーラを入れて、ジャムの空き瓶に入れた桜の花びらで祖父の胸元を薄紅色に飾りました。
祖父のことだから、三途の川で花見でもしてみようかなんて笑ってくれるんじゃないか、そう信じて。

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