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「ありがとう」の本当


私には息子がいる。名前はレイ。
レイはこの夏、5歳になる。

「子は5歳までに親孝行を終える」なんて、言葉を聞いたことがあったんだけど。当時はそんな訳ないだろって思っていたのが私だった。が!今はその意味が嫌ほど分かる。毎日、胸に刺さってくる。「可愛い赤ちゃん」だった息子はもう、すぐそこで「人間味」を迎える。そんな感じなんだ。

レイは言葉を知り、ボキャブラリーを増やしていくごとに、「感情任せ」という角が減っていくような。なんとなく面倒を丸く削り、大人びていく。

「ママ!レイくん2歳のころは、マイクラって知らなかったよね〜、好きになったの3歳くらいだと思うけど。」なんて、夕焼けに黄昏ながら短い人生を振り返ったりもしている。その割には「ママ!レイくんて、明日が5歳?」って毎晩聞いてくる。「あと33回。はやく寝ないと、5歳にならないよ。」って私は毎晩、早く寝かせる。彼は、早く大人になりたいんだね。

そんな駆け足ぎみ。4歳のレイは、時にまだ、言葉の方が足りないせいで、泣いたりもするんだけどね。ただ、その涙の殆どはちゃんと聞いてやると「悔しい」とか「悲しい」とか「もっと遊んびたかった」とかの意味がつくようになっていて、そんでもって、上手くいく場合にはそういうのをしっかり自分の口で言い返してくるようになったんだ。

やっぱりそう。
あと少しで「人間味」を迎える彼は「悪いことをした」と分かっていても、ごめんなさいと言いたくない。「悔しさ」が言葉に変わる。ふてくされる。ママの足を蹴っ飛ばしておいて「レイくん悪くないし」とか言えちゃう。私の「謝って!」に対して「ママ、意味わかんない」とかも言えるようになっちゃったわけで。
母は
それにイライラしたり、悲しくなったり、躾の正解が分からなくて焦ったり、めちゃくちゃ育児のアップデート中。誤作動も、不具合も起きている。「悪いことしたらまず、謝るんでしょ!」とかめちゃくちゃ、ありがちな躾をしつつ。

なんとなく大人も「ごめんない」って難しいよな。って。つーか、レイのこの言い返し方、私そっくりやん。もはや、自分を省みる時間なの?そうなのか?私が悪いんか?なんて。
反省のほうが、圧倒的に多い。
ちょっと勝手に言い訳したいくらい。

大人だって「ごめんなさい」って分かっていても、分からなくいフリしちゃうよな。そういうの全部、息子は見てる。こちらも完全に、一年生になった気分だ。
なんて。つまりは、そんな激ムズ息子とアップデートを過ごしているっていうのが前置きなんだけど。

そんな前置きに、悪いことばかりではないよ。っていう話もひとつだけ。「嬉しい」が「ありがとう」に変わる、そんな人間らしさだって、私の胸に届くようになったんだ。それはレイが大好きなグミを買い溜めしておいた時に「ママ、ありがとう」布団をかけ直すと「ママ、ありがとう」帰宅後の冷たい麦茶に「ありがとう」えんぴつを削ってあげても「ありがとう」。これらは、どんな大人の「ありがとう」よりも純度が高い。新鮮な果実を食べた時のように、じゅわっと甘く私の心を潤すわけです。

そう、そんな長めの前置きがあって。
私は、今朝、本当を見た。
話は少し逸れるけど、ここから最後が本題だ。


毎週。日曜日の朝っていうのは、私たち夫婦が家中の掃除を決め込むんだ。雑巾を持って、あるいは、タワシを持って。掃除する私たち夫婦。それを見て今朝はなんと、レイも真似をし始めたんだ。彼は勝手にウェットティッシュを持って、テレビ台や、テーブルを拭き始めた。自主的かつやる気に満ちている、彼のその様子を見て、私たち夫婦は、喜びを隠せなかった。

大袈裟かつ大袈裟に「ありがとう〜!上手!レイくん、助かるよ〜!!!」なんつって。

するとレイは、自慢げかつ、誇らしげ。つまりは、ドヤ顔にて、さらに掃除を進める。両親は「ありがとう〜!ありがとう〜!」なのだが、勿論、そのウェットティッシュは真っ黒に汚れていくわけで。埃まみれの真っ黒ウェッティーで、まだ綺麗な壁とか、床とかも拭き始めるのがレイ。なんなら、自らの顔も拭こうとして。

レイの趣旨は「掃除」から「賞賛を受ける」へ変わり始めたんだ。「俺、なんでも出来るで」って言いたげなその様子に私は、
「ありがとう」の「本当」を見て笑った。

「ありがとう」には
「喜んでほしい」その気持ちと、
「褒められたい」その気持ちが、
ちゃんと、半分くらいで。入ってるんだね。


それってもう、大人も子供もやっぱりそうなんじゃないかなって。私だって、いつも思っているよ。こんだけやってんだから、褒めてくれよって。そう思ってるよ。

彼は「ありがとう」の本当を見せてくれて。
そのドヤ顔と、真っ黒のウェッティーと、
「ありがとう!ありがとう!」と続ける私達。
微妙な三角関係に朝から可笑しかった、そんなところです。

そんなもんでいいよね。それでいいよ。
「ありがとう」の本当。
人間味って可愛い。人間って可愛い。

おとなも、こどもも。

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