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おばあちゃんに話しかけられて


昨日は、変なジジイに怒られた私。まずまずフルボッコな気分で、がっかり。開き直ってエッセイを書いたんだ。




そんな昨日の今日でお節介ジジイに引き続き、まさかの。今日は、見知らぬおばあちゃんに話しかけられた。え?2日連続?えぐい打率。

それは両腕に杖をつく、脚の悪いおばあちゃんだった。近所のスーパーにて、入口、カート置き場のことだ。私よりも前に歩いていたのが、おばあちゃん。その後ろ姿。白髪で整えられた髪は、肩にかかるくらいだった。そして、その白髪の毛先は、鮮やかな紫色に染められていて印象的。さらには花柄ワンピースを身に纏っていて、涼しげなそのワンピースのカラーは淡いイエローと、柔らかい紫色。だからおばあちゃんのイメージは奇抜なアゲハ蝶というよりも、モンシロ蝶やモンキ蝶くらいの、素朴な雰囲気に見えた。どことなくハイカラなんだけど、ちゃんと年相応な感じのするおばあちゃんは素敵だった。それからよく見ればスカーフやら、サンダルやらも、コーディネート全てが似合っていて、すこぶる良い感じ。
ただ、冒頭にも書いたように。おばあちゃんは両脚がとても悪いようだった。片腕ずつ杖を持っていて、そこにいる誰よりも歩みが遅かった。「この後、どうやって買い物するんだろうか?そもそもカートを押せるのか?」と、私は気になってしまった。そうこう考えている間に、カートにカゴを乗せた私が先を行き、後ろになったのがおばあちゃん。そうして私達の前後が入れ替わったところで、後ろから声をかけられたんだ。「ねぇ、あなた。」

振り返ると、おばあちゃんは続けた。

「コロナの消毒液は置いてないのかしら?」

その瞬間、私の脳内はまた「ヤバい奴に引っかかってしまったか」と怯えつつ。

「そうですね〜。店内にもないみたいですよ。」と、返した。するとおばあちゃんが今度はジロジロと私の方を見てくる。ヤバい。これは嫌な予感。口を開き、こう言ってきたんだ。




「あら、あなた。」「綺麗だわ。」
「こんな所にいるのが勿体無いくらいに。
「とってもお綺麗ね〜。」



?!




え?あ?え?と戸惑いつつ、いきなりニヤニヤする私。「そうですかね〜?嬉しいです。おばあちゃんのワンピースも、素敵ですね。」
なんつって。しまいには、ニヤニヤしたまま
「あの、カートを持ってきましょうか?」
なんつって。なるたる軽薄さ。ゲスい。
私って奴はどうも調子が良い。良すぎる。

「綺麗だ」なんて褒められたもんだから、その1秒後からおばあちゃんのことを大好きになって、脚の悪いおばあちゃんの為にスーパーを共に回ってもいいとすら考えたくらいだった。さらに私は、このちっぽけな田舎のスーパーのなかで一番美人なのかも!なんて浮かれた。舞い上がった。そしてそんな浮かれポンチが振り返ると、おばあちゃんはもうそこにいなかった。
あれ?

ひとまず私は、胸の中でおばあちゃんにお礼を告げ、野菜コーナーへ向かったのだ。そこから、魚コーナーを進み抜け、お肉コーナーに差し掛かるあたりまで、当たり前にニヤけて、口元が緩んだままだったろう。さらに惣菜コーナーに進みメンチカツを手に取る頃には、ジワジワ嬉しくて口笛を吹きそうだった。

スーパーのコーナーで鏡を見るたび自分はいつもより美人に見えて、姿勢も良いし、なんたってオシャレだわ〜なんて。どうしようもなく気分が良かった。おばあちゃんが放った一言。「あなた、綺麗だわ」の威力はどこまでも続く。無限大だ。さっきまで生きてきた世界と暗い景色はどこかに置いてきたように。景色は眩しく照らされ、明るい世界がそこにはあった。



と。
そこらへんで私、気づいてしまったんだ。


自分という奴は随分、浅はかだなと。ははは。
昨日はジジイに罵倒され、がっかりして傷ついていたのに。今日はおばあちゃんに褒められたくらいで調子に乗って、アホみたいに幸せに浸かっている。のぼせちゃうくらいに。
それは余りにも滑稽で、ブレブレな自分軸だなと。自ら、冷水を浴びた。

そもそも、他人からの一言でこんなにも気分がいいなら、。毎日「私って美人」って思って過ごせばいいじゃん。誰にもバレないんだから「今日も私は可愛い」って思えばいいんだ。つまり、スーパーで見えた明るい世界はいつだった見れるってことだよ。自分次第。それはたとえば、美容室で最高のスタイリングにしてもらった日の帰り道にるんるんしてる時のやつだし。それはたとえば、ちょっと奮発して購入したお気に入りのワンピースを着て出かける朝のやつだ。みんなにもあるじゃん。多分私だけじゃない。そんな時、良い気分がするのはなんで?

「私は素敵」って思うからだろう。

ならば、毎日思った方が、毎日は明るくなる。
心は愚か、自分軸は、高めていいんだ。自惚れるくらいの毎日で過ごしたら、自ずと笑顔が増えるって。馬鹿みたいだけど、真意だろう。



それに、悲しいことで傷つけられた日も同じ。悲しみに巻き込まれなくていい。苦しみ過ぎなくていい。反省はあってもいいが、いつまでも泣かなくていい。自分を貶さなくていい。消化できない感情に、調子を崩さなくていい。だからどんなに悲しいことがあっても。明日の朝には「私は素敵」って、前を向けばいい。向いていい。いちいち、ブレなくてええやん。いつもいつも、「私は素敵」でいい。

他人からの一言には重みがある。けど、自分はそこまで一喜一憂しないでいい。いつでも、芯を持って「自分は素敵」って。




それでいいんす。ジジイと、おばあちゃんから教わった。明るい世界を歩こう。世界を明るくしよう。

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