見出し画像

まどろみのバス

僕たちは夕暮れの町を走るバスに揺られていた。

プールからの帰りで、存分に体力を消耗した僕は疲れていた。とても疲れていて、静かに揺れるバスの中は快適だった。

通路側に座った僕はぼんやりとバスの中を眺め、がらんとした車内に柔らかく差し込むオレンジ色の光を好もしい思いで眺めながら、目を閉じたくてたまらなかった。でも、乗り過ごして知らない場所へ運ばれてしまうのは嫌だった。

隣に座った親友はさっきからずっと目を閉じたままで、たぶん眠ってしまっているだろうから、僕が責任を持って目を開けていなければならないのだった。

僕は半ば疲れ、半ば僕をオレンジ色のバスに置き去りにして眠り込んでしまった親友にイライラしながら、誰にともなく「眠くなってきたな」と呟いた。

呟きながら僕は本当に疲れていた。疲れていて目を閉じたくてたまらず、バスの揺れが心地よく体に伝わり、ぼんやりと低いエンジン音が鼓膜に響いていた。

不意に、がくんと体が傾いて僕の体半分がバスの通路に投げ出されるのを感じ、僕は自分が眠りかけていることに気づいて身を起こそうとした。

……その時、横から強い力で引っ張られて、僕の体はひとりでに元の位置に戻った。

僕は意識を落っことしそうになりながら目を半分開けたが、世界は斜めに傾いていて、僕の頭はいつの間にか隣の親友の肩にもたせかけられているのだった。

僕はぼんやりとした頭で、通路に投げ出された自分の体を彼が引き寄せてくれたことを理解した。

僕は疲れていて、そして眠くてたまらなかった。それでも、親友に対する愛情があたたかく湧き上がるのを感じていた。僕は瞼が落ちる直前、自分が「ありがとう」と呟くのを聞いた。

#クリエイターフェス

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?